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週間プレイリスト 2022/9/2

夏も終わりましたね。コロナも感染者数はまだ多いですが、療養期間が10日から7日に短縮され、海外からの旅行者も上限が増えています。だんだんと日常が戻りつつある。ただ、コロナ禍の経済政策による影響(と言われている)で東欧を中心にかなりのインフレが起きていて、海外アーティストのツアーが中止になったりしています。最近だとAnthraxが「インフレによるツアー経費の高騰」によって一部のツアーをキャンセルすると発表しました。春先はアイアンメイデンのワールドツアーからロシア、ウクライナが外されたニュースを見ましたが(僕が見たのがメイデンなだけで、ほかにも類似例がたくさんあるのでしょう)、こうした「世界の動き」にアーティストのニュースを通じて自分事として興味が持てるのは一つの効用かもしれません。洋楽が開く世界の扉。

アーティストの来日も増えていますね。先日、ダウンロードジャパンが開催されましたが11月にはガンズアンドローゼスとKISSが来ます。来年2月にはメガデスとアークエネミーも来ます。メタル以外だとサマソニもフジロックも開催されたし、9月にレディガガ、10月にノラジョーンズも来るし、来日ラッシュ。ただ、軒並みチケット代が高騰気味。これは世界的なインフレに加えて日本は円安だからですね。

レコードも値上がりが始まっているような気がします。ただ、不思議なのがレコードってぜんぜん値段がバラバラなんですよね。2枚組で3000円切るものもあれば、1枚なのに5000円超えるものもある。昔は海外のレーベルから直接買った方が安かったんですが、コロナ以降は物流費用はめちゃくちゃ値上がりして、今はタワレコ、HMV、ディスクユニオンで買うのが送料考えると安かったりします。特にBandcampの送料がやばい。レコード30ドル、送料35ドルみたいに送料の方が高い世界です。不思議なのが、amazonに昔から出しているUKのセラー、たとえばRarewave.jpとかは送料が350円なんですよね。あれは安い。どういう仕組みなんだろう。USはかなり送料が値上がりしていますがUKはそこまで上がっていないんでしょうか。

レコードストアの幻影

あと、海外から個人輸入して困った事がありました。今は個人で海外に返送するのがすごく大変。先日、アーティストグッズをUSのECサイトで買ったんですが返品センターがカナダにあったんですよ。サイズ交換をしたくてカナダに返送したんですが、個人で送れる追跡可能な国際便がないと言われました。3か月以上かかる追跡がない船便しかない、と。USとかUKとか、日本からやり取りが多い国以外の国際便はかなり縮小されているようです。そうなると、最初に買ったときは2週間ぐらいで届くのに、何かあって返品して交換してもらうのに半年ぐらいかかったりします。コロナ(加えてロシア・ウクライナ戦争)によって世界の物流、人の行き来はかなり制限されているなぁと体感しました。この辺りがだんだんと元に戻っていってほしいですね。

さて、今週のプレイリストはメタルとワールドミュージック、というか非メタルが半々ぐらい。メタルは大物のリリースが重なり、量より質で大満足の週でした。メガデス、The HU、ブラガの新譜が重なりうれしい悲鳴。それではどうぞ。

TIDAL

Megadeth / The Sick, the Dying... and the Dead!

今週の目玉。スラッシュ四天王にしてUSメタル界の重鎮、メガデスの新譜。メガデスはいろいろ波乱万丈なキャリアながらコンスタントに作品は発表し続けており、本作が16枚目のアルバム(デイブムステインのソロプロジェクトだったMD45は含まず)です。前作から6年という過去最長の沈黙を破って発表された作品。前作リリース後にデイブムステインの咽頭がんが見つかり治療~寛解まで沈黙せざるを得なかったこと。さらにコロナ禍でライブ活動は停滞し、ようやく復帰するかというタイミングで長年のパートナーであったベースのデイヴィッドエフレソンがスキャンダルで告発され、、、といつも以上に波乱万丈だった6年でした。復活作ということで先行曲はかなり疾走感がありましたが、アルバム全体を聞いてみると「いつものメガデス」という印象。前作「ディストピア」から復調気味でしたが本作はさらに調子が上がっています。突き抜けた曲はないし、完全な新機軸や進化も感じられないものの着実な復活と「メガデスらしさ」を完全にクリアした良作。いろいろなバランスが「ちょうどいい」アルバム。緊張感はあるもののどこかリラックスして、自然体なんですよね。どこか開放感があります。最後の方でパンクっぽい曲が入っているのもデイブムステインのルーツ主張していていい感じ。歌メロもいかにもUS的(カントリー的)というか、あんまり起伏がない感じなんですが(メガデスは昔からそう)、それも何度か聞いていると耳に残ってきます。一聴して「今回はこんな感じかぁ」と思ったんですが、なぜか何度も何度も聴きたくなるんですよね。今週は結局10回以上通して聞いていた気がします。


The HU / Rumble Of Thunder

アルバム1枚でロック界に確固たる地位を築いたモンゴルのThe HU、待望のセカンドアルバム。もはやAC/DCのような「独自のサウンド」を完全に確立しています。前作よりはバラエティに富んでいて曲ごとのテンポもばらつきがあったりしますが、散漫な印象はなくThe HUという世界観が統一されています。ミドルテンポで伝統楽器主体ながら適度に電化され、ヘヴィネスが強調された音作り。本能的に心地よいサウンド。この曲なんかはポップな響きで新機軸ですね。The HUらしいパーティーソングというか。


Blind Guardian / The God Machine

ジャーマンパワーメタルの中で最も大仰かつハイファンタジーなブラインドガーディアン。一時期から勢いをなくして失速気味でしたが本作は完全な復活作。前作でオーケストラもやったし、ハンズィのサイドプロジェクトだったデーモンアンドウィザーズも相方(アイスドアースのジョンシェイファー)がトランプの議事堂襲撃に参加したせいで活動停止となり、ブラガに全力投球かつ過去に回帰したのが吉と出たのでしょう。スケールアップしつつ、楽曲の練りこみ度合が高い。正直、先行トラックの時点ではまだ多少の不安もあったのですが、アルバム全体を通して聞くと期待を超えてきました。過剰なのに聞かせきる力があるいいアルバム。ブラガはハンズィがベースを弾きながら歌っていたころの方が好きだったんですよ。個人的にはベース兼任時代の最後のアルバム、イマジネーションフロムジアザーサイド(1995)以来の高揚を覚えました。2021年にはじめてベーシストを正式メンバーに入れた(それまではセッションメンバー扱いでベーシストを入れていた)のも影響があるんでしょうか。全体的に大仰ながら、各曲も単曲としてもキャラが立っているんですよね。バンドのアンサンブルが強いというか。あとは個人的にこういうハイファンタジーでメタルという欧州メタルな世界観が大好きなんですよ。ブラガはアイアンメイデンの後継者には(活動規模的に)なれなそうだけれど、音楽静的には後継者というか、メイデンの持っているエッセンスをさらに発展させ、独自のスタイルを築き上げたと言える数少ないバンドだと改めて思います。


King’s X / Three Sides Of One

こちらも大物ですね。USプログレハード/オルタナティブロックバンドのキングスエックス、14年ぶりのニューアルバム。Rushがいなくなった今、ヘヴィなプログレトリオといえばこのバンドでしょう。歌メロもだいぶ90年代のオルタナ的なんですよね。ちょっとインキューバスとかを想起したり。もともと1979年結成のかなり古いバンドなんですが。90年代のオルタナって、振り返れば70年代的(US)ハードロックのリバイバルという側面もあったので親和性が高いのでしょう。これだけのベテランなので当然「自分たちの音」があり、さまざまな音楽ジャンルを飲み込んだ「キングスエックスの音」を奏でています。全体的にはすごく「USの音」。オルタナティブ、USハードロック、ストーナー、(一部)ファンクメタルなどが融合されています。


Mad Max / Wings Of Time

ベテランが続きます。こちらはメロディアスハード、メロハーながらドイツのバンド。活動40年を超えるベテランバンドです。ちょっとブルージーなギタープレイも織り交ぜつつ、ドイツらしいかっちりしたリズムと整然としたコード展開、端正な楽曲が魅力。北欧とは違うドイツらしさを感じるメロハーです。ミドルテンポでリズムに重厚感があるんですよね。ボーカルはハイトーンでいかにもメロハーですがAccept的な地響きコーラスも入ってくるし。


Michel Petrucciani / Solo in Denmark

さて、ここからは非メタル。まずはジャズのソロピアノです。フランスが生んだ偉大な才能、ミシェル・ペトルチアーニが1990年にデンマークの教会で行ったソロライブがリリースされました。今まで未発表だった音源。ペトルチアーニは先天性疾患により身長が1メートルほどしかなく、20歳までしか生きられないと言われましたがピアノに情熱を傾け、36歳まで活動をつづけました(1999年没)。90年代には世界的に活躍するピアニストとなっており、この録音は「世界に飛躍していく」前段階、若々しさと勢いに乗っている時代の録音です。フランスの音楽ってどこか端正でロマンティックな響きを感じるものが多いのですが、本作もそうしたムードがあります。秋の夜長にぴったりな1枚。下はこのアルバムとは違うライブ(1993年)のものですが、彼のソロピアノの映像。


Two Door Cinema Club / Keep On Smiling

北アイルランドのロックバンド、トゥードアシネマクラブの5枚目のアルバム。3人組のトリオです。バンド名は地元の映画館「チューダーシネマクラブ」を言い間違えたところから、だそう。UKなのでトゥードア(社会階級によってドアが違う)のシネマクラブ、という階級闘争的な皮肉を込めたネーミングかと思ったんですがそれを前面には出していないようです。音楽的にはけっこうひねくれたUKポップス。とはいえイングランドとは違う、北アイルランドならではの感覚があります。ちょっと荒涼としているというか野太い感じ。ポストパンクよりのミューズ、みたいな。北アイルランドのアーティストってTherapy?、Gama Bomb、Ricky Warwickぐらいしか知りませんが(U2は”北”アイルランドではなくアイルランド出身)、全体的にワイルドさがある印象。


Juniper& Sango / 97

ヒップホップ色のあるブラジル音楽。ブラジル人シンガーのジュニパーをSangoというヒップホップのプロデューサーがプロデュースした作品のようです。これがいい出来。歌詞はポルトガル語です。ブラジル音楽とヒップホップって相性がいいですね。ヒップホップのリズムではなくブラジルのリズムが多めなのも好み。軽やかでいいです。ブラジル音楽の掘り出し物。


Sound Sultan / Reality CHQ

ご機嫌なアフリカ音楽。サウンドスルタンことOlanrewaju Fasasiの遺作というか、死後に生前の作品を発表したEP。サウンドスルタンはナイジェリアの歌手、ラッパー、俳優として活動していたようで、ナイジェリアのヒップホップシーンのトップアーティストの一人。残念ながら2021年に44歳で病死しています。サウンドとしては隙間がありつつ生命力を感じるビートに乗る力強い歌声。アフリカ音楽っていいですよね。ビートが力強くて新鮮に感じます。


Romeo Santos / Fórmula, Vol. 3

USラテン音楽シーンのスーパースター、ロメオサントスの新譜。バチャータ(スペインのギター音楽とサハラ以南のアフリカ音楽をミクスチャーしたドミニカの音楽)のスターバンド、「史上最も影響力のあるラテン音楽バンド」と言われたアヴァンチュラのボーカルとして活躍した後、ソロ活動を続けています。今をときめくロザリアともデュエット。バチャータというルーツを持ちつつUSのメインストリームの音像も取り入れており、娯楽度が高く刺激的な音像。


Horace Tapscott / The Quintet

スピリチュアル・ジャズ界の名ピアニスト、ホレス・タプスコットの発掘音源。録音年代は古く1969年です。ホレスは1932年生まれなのでマイルスデイヴィスの5つ下。遅咲きの人で1969年に「The Giant Is Awakened」でソロデビューしますが、同じメンバーで同時期に録音されていたのが本作。タプスコットといえばアフリカ系アメリカンの音楽保存を目的に掲げたパン・アフリカン・ピープルズ・オーケストラの活動が有名ですが、そうではなくあくまでジャズピアニストとしての作品が本作。そうした歴史的な背景を置いておいて、本作はかなりスリリングなジャズロックです。ドラムの手数は多いし、全員弾きまくっています。自由自在な感じながらきちんとしたモチーフがあって前衛的すぎない。プログレ耳が反応する作品でした。


CF98 / This Is Fine

ポーランドのポップパンクバンド、CF98の新作。今の情勢(ポーランドはウクライナロシア戦争の前線に近い)で「This Is Fine」と言い切る力強さ。メロディセンスもなんだか日本のハイスタとかに近い感じがします。ハウリングブル系というか。ただ、女性ボーカルなので聞きやすさがあります。逆境を跳ね返す生命力と力強さを感じる1枚。


Sara Willis / Mozart y Mambo: Cuban Dances

これは変わり種。サラ・ウィリスはMBE(騎士勲章)も叙勲された著名なホルン奏者。クラシック界のど真ん中で活躍中なのですが、マンボとモーツァルト、という企画盤を出しており本作がそのシリーズの2作目。キューバのダンスミュージックがテーマです。アルバムの中に完全なクラシック曲も入っているのですがその曲は外してキューバ音楽meetsクラシックな曲のみをチョイス。なかなか面白い音像です。もともとキューバ、ムード音楽はオーケストラで演奏されるので音像そのものには違和感はないんですが、そこにものすごく端正な本格的なクラシックのパートが入ってくる。やっぱり演奏も違うし、面白いアルバムです。音楽の豊饒さを楽しめる娯楽音楽。


Heilung / Drif

中世の音楽を「再創造」しているハイロン(ドイツ語で「癒し」)の新譜。ドイツ、ノルウェー、デンマークの混合バンドで、ドイツ神話・北欧神話をモチーフに架空の中世音楽を作り上げているのが特徴的です。こうしたペイガンフォークのバンド群はヨーロッパでカルト的人気を誇り、重要バンドとしてはノルウェーのWardunaやオランダのOmnia、ドイツのFaunがいます。Ominiaはちょっとヒッピー的共同体の流れを感じるので(昔のAmon Duulとかにも近いのかも)毛色が違う気もしますが、ほかのバンド達ってけっこうメタルと親和性が高いんですよね、特にノルウェジアンブラックメタル。Wardunaの創設メンバーがノルウェジアンブラックメタルの主要バンドの一つであったゴルゴロスのメンバー、ということもあるのでしょうが。ブラックメタルって「反キリスト」的な側面が取り上げられますが、その代わりに北欧の神々、神話を取り上げている。自国の従来の文化を取り戻そう、という動きでもあるんですよね。それが「ペイガン」と言われるもので、ペイガンとは「異教徒」という意味で、ローマ時代(つまりキリスト教)から「辺境」とか「未開の地(野蛮)」とされた土地を指します。ブラックメタルはそうしたコンセプトをもとにメタルを独自進化させた音像で表現したわけですが、そこから攻撃性を減衰させ、より呪術的、異教的、翻って古代の北欧、ドイツ音楽的なものを表現しようとしているのがこの一群という印象。北欧ブラックメタルにもこういう静謐かつ呪術的なパートがありますよね。その中でももっとも実験色が強いのがこのハイロン。90年代にディープフォレストが流行りましたが、今再びこうした「架空の民族音楽」ブームが来ているのかもしれません。


以上、今週は14枚。ワールドミュージック多めで幅広い音像を楽しめた週でした。それでは良いミュージックライフを。


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