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マックの物語(7)

4月15日(日)また、また快晴。

日曜日はマックの他にも個性的な子どもたちが
たくさんやってくる。(と言うか子どもたちは本来、皆
独特の強い個性を持っているのだが、回りの大人が
ワクにはめこんでその個性をそぎ落としているのでは
ないだろうか?と、最近は思う。)

竜のシャツを着た、ちょいワル美士は先週マックとご対面、
翔一は「人生なんてそんなもんですから、
僕にはどうせ無理ですよ・・・」が口癖の
中学一年生、沙耶は心底優しい天使のような
小学4年生、

ひー子は中学受験を目指す小学5年生、
ひー子は去年の暮れまで当教室の第一教室で
勉強を習っていたのだが、すこぶる
学業優秀で、今流行の中学受験をすることになり
大手受験塾に移っていった。

元来僕は中学受験否定論者で、
子どもたちに「学力や学歴がすべてではないのであって・・・」
などと演説をぶってしまうから、
受験命の父兄から時々お叱りを受けているのである。

だから中学受験が決まった段階で
ひー子が大手学習塾に移ったのは至極必然であり、
僕も諦めていた。

ひー子と僕はとても仲がよく、
ほとんど友だちのようなもので
時には本気で僕の悩みを聞き、
アドバイスしてくれたりもするのだ。

絵を描くことが大好きで
よく大きな白板にいっぱいの絵を書いてくれた。
自分でオリジナルのキャラクターを創ったり、
物語を考えたりしていた。
そのキャラクターは案外本格的で
僕などは時々本気でこれをパクって、
売り出してしまおうか(笑)などと思ったほどだ。
いや、今でも真剣に考えている。

そんなひー子が学習教室はやめたが、
どうしても「読書教室」に入りたいということで
春から第二教室の読書にカンバックして
きたというわけだ。

お母さんには従順で反発した
ことのないひー子が、
今回は「絶対に読書教室に入る」と言って
ゆずらず、親からすれば仕方なく
入れたという感じだ。

ひー子は天真爛漫で
よくしゃべる明るい素直な子どもだ。

今日は15:10から、マックはいつも遅刻するから
ひー子と重なることが多い。

そのひー子が本を探しながら
声も出さずに涙をぽろぽろ流して
泣いているではないか。

どうしたんだ?まさか、
マックが調子にのって
わけのわからない話をして
怖がらせたのか?

「ひー子ちゃん、どうしたのかな?
何でも解決しちゃう町一番の
ハンサムボーイに相談してみませんか?」
いつもに増しておどけて見せる私、

「・・・」
ひー子はしくしくと泣き続ける。

マックも異変に気が付き
右側のヘッドフォンを少しずらして
こちらの話を聞いているようだ。

気づかれないように、
本を読んでいるふりをしているらしいのだが
モニターは一時停止画面、
耳が半分はみ出していて、
体が無意識にこちらを向いており、
話を聞いているのはバレバレ。

どうやらヒー子は昨日の
模擬試験で悪い点数を取り
先生や親からひどく叱られたようだ。

それと最近は好きな絵も描かせてもらえず、
勉強の合間に少し絵を描いていたのが
見つかり、これも厳しく注意されたらしい。

それやこれやで
息苦しい毎日を過ごしており、
ここでパンクしてしまったのだろう。

泣きなさい、色々なことをはきだしてしまいなさい。
何の助けにもならないかもしれないが、
話くらいは聞けるぞ。
君はまだ小学5年生なのだよ、大好きなことを
諦めてはいけない。
心の中で叫んだ。

「そうだ、ヒー子、私に良い考えがあるぞ。
うん、これは絶対に名案だ。多分一休さんも
気づかないほどのアイデアだ」
ヒー子は少し笑ってくれた。

「聞きたいか?聞きたいなら、
はい、5,000円」
差し出した手のひらを
たたいて、ヒー子が笑った。
「はい、5,000円」
ヒー子が僕の手のひらを5回たたいた。

「毎度、それでは説明するからよく聞くように、
二度は言いません」
「はい」
少し元気になったようだ。

「メモの用意はいいですか?一度しか言いません」
マックは本は開いているが、体が完全にこちらを
向いている。

「ひー子は大分本を読むのが速くなったから、
頑張ってもう少しスピードを上げて、
そうだな3.5倍くらい、そうしたら
40分くらいでいつも読む量を読めるよ」
「・・・」
「そうしたら時間が残るでしょ」
「絵を描いてもいいの・・・」
「20分は描けるな、そして上手に描けたら
私に提出するように、私が採点します」

ひー子が声を出して笑った、いつものひー子だ。
元気に読書を開始した、

マックは何度も何度も大きくうなずき、
満足げな表情を浮かべ、ヘッドフォンを付け直した。
そして読書を再開した。優しいマックは
ひー子のことがとても心配だったのだ。

人間社会色々なことが起こる、
問題を起こすのも人間だが、
解決するのも人間だ。

優しく見守ってくれたマックが
ずいぶんと大人びて見えた。

そして、何だかとても嬉しくなった。
人間っていいな、

ひー子頑張れ、マックガンバレ、みんな頑張れ。
いろんな経験をして、いろんな人に会い、
優しくなれ。

今日はきれいな夕焼けだ、
西側の窓からオレンジ色の光が教室に差しこみ、
一生懸命に本を読む子ども達を照らしている。

こんな風景がいつまでも続くといいな・・・
今日もとてもいい一日でした。
マックよありがとう。

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