2025 節分
耳をすませば遠くから聞こえてきませんか?
心に響く激しいあのビートが。
魂を震わせるあのシャウトが。
鬼は外 'n 福は内。
まもなく節分。
備えあれば憂いなし。
豆さえあればお構いなし。
豆の準備はお済みですか?
そもそも何で豆?
豆で鬼が倒せるのか?という事ですが
答えはイエス。
今の世の中、兵器は数あれど
それでも鬼には古より伝わる豆なのです。
…厳しい事実を申し上げますと
他に手が無いのです。
豆しか効かないのです。
現時点において人類に残された
たった一つの希望、それが豆なのです。
鬼との闘争の歴史を振り返りますと
人類は模索し、様々な方法を試してきました。
太古の昔の火の使用から始まり、
投石器、剣や槍、弓矢、毒、築城などなど
そしてそれらを最も効果的に運用せんと
体系化された兵法との組み合わせ、
こと近現代における科学の発展とともに
発明された兵器は数多く
また例を挙げるならば
マシンガンやミサイル、生物兵器やガス、
レーザーや超音波、果ては核にいたるまで
ありとあらゆるものを試してきたのです。
にも関わらずいまだに豆。
なぜか?理由は簡単、
前述の通り豆しか効かなかったからです。
鬼には豆しか効かないのです。
豆の形状、重さ、同等の質量での弾丸を
作ってみたりだとか
豆に含まれるイソフラボンやサポニンを
抽出しそれで弾丸を作る
なども当然試されましたがどれも無駄でした。
そういう事ではなかったのです。
豆でないと駄目。
であれば
豆を鉄砲で直接、と打ち出したものは
鳩を驚かすだけの結果でした。
そんな笑い話のようなレベルに至るまで
ありとあらゆる可能性を試してきた結果、
豆なのです。
科学者たちの間では
豆と人のシナジーが鬼を退かせる
何かしらの未知のエネルギーを産むのでは?
と推測されています。
そして残念ながら
これはあくまでも鬼の住居侵入を
防ぐだけの話なのです。
追い払うだけならこれで足りもしますが
退治には至らないのです。
非力な存在が命を守るだけの
最終防衛ラインでの手段にすぎないのです。
攻撃は最大の防御と申しますが
攻めは守りのそれとは別です。
鬼を完膚なきまでに叩きのめし
駆逐するにはどうすればよいのか?
答えはあるのですが
それを具現化できていない今の状況です。
その答えとはスピード。
豆×速さ=破壊力。
マメント・モリ(豆を思え)の法則です。
言うまでもなくピッチングマシンでは不可、
人が投げてこそ効果があります。
野球の投球速度の最速記録は
現在時点で170km/h弱なのでありますが
その記録に近い数字を出す選手が
何人かいます。
そのような生まれ付きの身体能力と
鍛錬による投球技術を身に付けた彼らが
鬼と対峙して退治することは
果たして可能なのでしょうか?
対峙して退治。
タイジdeタイジ。
威力云々以前にまず一番最初の難関として
平常心でいられるか?という事があります。
何せ鬼ですから、
ガルルルとかグオーッとか叫びながら
よだれを撒き散らし口角には泡をこびりつかせ
狂気をはらんだ充血した目を見開きながら
全身が真っ赤あるいは真っ青の人型の生き物がこちらを潰さんと棘のついたぶっとい金属の棒
ー 過去に屠ってきた者たちの残滓、
例外を許さない金属の無慈悲な鈍い色。
リアルな死を容赦なく実感させる音と風圧 ー
をブンブンと振り回してくる。
この金棒がてめぇの血を欲しがっているぜぇ
みたいな。
死が全ての終わりだとするならば
当たれば一撃で全てが終わってしまう。
そんな相手を目の前にして
冷静にいつものフォームで投げられるのか?
という事です。
人間界では魔球とも呼ばれた速度を
生み出すあの投球フォームを保つには
相当な胆力が必要となります。
私のような特別な訓練を受けていない者に
それを求めるのは酷というものでしょう。
(私なら平常心で300km出せる)
次に距離の問題があります。
野球ではマウンドからホームベースまでは18.44mです。
しかしボールと違って豆を投げるとなると
その距離はどうなのでしょうか。
おそらく届く前に失速してしまうでしょう。
それが15メートルでも10メートルでも
たいして変わりは無いと思います。
つまり人力では鬼とは距離を取りながらの
中長距離攻撃は不可能あると言えます。
ミドルレンジでは効果薄でジリ貧、
疲労し、遅かれ早かれやられてしまいます。
狙うべきは至近距離から。
たぶん豆300個分くらいの距離。
それは当然のことながら
それは向こうからしても至近距離であり
お互いにお互いの攻撃が届く
必死必中の距離なわけであります。
死にたくないのであれば
一手二手はもとより、十手、二十手
さらに先の手までの読みが必要とされます。
それを読み間違えると其れ即ち死、
掠っただけでも全て持っていかれます。
彼らの金棒の餌食になります。
殲滅の絶対最低条件として
適切な距離を掌握すること、
鬼と自分との空間、
つまり間を支配することが求められます。
『間は魔に通ず』
かつての私の師匠が言っていた言葉ですが
その意味が今になって分かった気がします。
あれから数十年・・・
今年で私は師匠が鬼に敗れた年齢になります。
そしてついに来年、私は鬼退治に出ます。
来年の話をすると鬼が笑う
などと言われますが
笑ってられるのも今のうちです。
我に勝算あり。
戦闘には豆スーツを装着して臨みます。
文字通り全身を豆で覆った特製オリジナルスーツです。
かつて同じ事を行なった盲目の戦士がいたのですが
彼は耳だけ付け忘れて、鬼に毟り取られて
敗れたという記録があります。
そんなミスは起こしません。
私の豆スーツは完璧です。
あと豆切れにも注意。
「ノーマメーでフィニッシュです」
とか言われない様に気をつける。
シミュレーションでのフィニッシュは
豆すごいスピード投げ投げで弱らせたところに
豆グラブによる殴打。
左右一発ずつ。
神の左手、悪魔の右手。
左豆アッパーで顎をかち上げて
上を向かせたところに
右手の豆鉄槌を叩き下ろして終わり。
それで長きに渡る鬼との闘いを
全て終わらせるのです。
(了)
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