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工作バサミでヘアカット、1週間分の食費を稼ぐ

芸は身を助くと、昔の人はよく言ったものだ。

LAのバックパッカーへ泊まった時、1人の日本人男性と仲良くなった。僕が美容師と言うと、多くの人は興味を持つ。

その男性も「髪を切って欲しい」と嬉しそうに言ってきた。

いやいや、道具がないとヘアカットと言ってもできるわけがない。観光ビザで米国に入国してきた僕は、仕事道具は持っていない。観光ビザでスーツケースに仕事道具を入れて入国しようとして、見つかって強制送還された話はいくらでもあるからだ。

それを伝えると「鋏なら持ってます!」と…工作バサミだ!

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いや、さすがに無理でしょ〜と思ったのだが、ストレートに無理と言って断るのもキツイかなと思い、「櫛がないと切れないんですよ」とやんわり断った。

そしたら、バックパッカーの宿泊客に聞いてみると言って、櫛を探しに行った。

あるヨーロッパ系の女の子が櫛を持っていて、それを借りて戻ってきた。さすがに僕は断る理由が見つからなくなり、カットクロスの代わりになるゴミ袋のカドを切って、クビを通せるようにし、水スプレーの代わりに、ペットボトルの水を手に取って、髪にペタペタ浸すようにつけて、カットを始めた。

意外になんとかなるもので、間に合わせ程度には切ることができた。

そのカットしている様子を、多くの人が横目で見ていて、特にヨーロッパ系の宿泊客が「俺も切って欲しい」「私も切って欲しい」と列ができた。

もし今だったら、その光景を写真に撮ってインスタやFBで拡散したに違いない。ゴミ袋を被って日本人にカットしてもらう光景はなかなかないと思う。

いくらでカットしたか覚えていないが、「1週間分の食費になったよ!」と日本人の男性にお礼を言った記憶は残っている。

道具はもちろん大事だけど、もっと技術が大事だというのを教わった瞬間だった。技術というのは盗まれようがないし捨てようもない、取得さえしてしまえば、一生身についてきてくれる。

日本で働いている理美容師は、誰も工作バサミでヘアカットできるなんて思っていないだろう(笑)

海外で生きていく「生き力」って、こういう事なんだ。



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