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ロサンゼルスのバスケコーチに聞いた「トップに立つヤツの特徴」の話

 数日つづいた雨が上がって青空が見え、私は近くの図書館に向かって歩き出す。ようやくたどり着いたら、早く着きすぎたようで開館までに時間があった。

 図書館の裏に回り込むと、六面のバスケットボールコートがあり、背の高い黒人の男性が一人でシュート練習をしていた。グレーのタンクトップから出た腕の筋肉がギリギリと光るようだった。離れたコートでは、小さな男の子が青い小さなボールでバスケをしている。

 私はバスケを見るのが好きだ。昔は仙台や九州まで観戦しに行っていた。じろじろしちゃ悪いかなと思いつつ、ついプレーを目で追ってしまう。シュートを見るのは好きだ。美しいシュートフォームには、何度でも魅かれてしまうような吸引力がある。コートが見える場所にあるベンチに腰かけ、アイフォンをいじりながら、プレーを見ていると、ボールが足元のほうに転がってきた。

 彼と私のちょうど中間地点に転がってきて、拾おうかなと思ったが、足の長い彼が自分で拾いに来た。その時、彼と目が合う。

「ハイ、バスケ好きなの?」
「ハロー、イエス」
「ちょっとプレーしてみない?」

 そう言われて、私は一応立ち上がる。「ほとんどやったことないよ、見るのは大好きなんだけどね」そう言いながらも近づくと、彼は私にボールを投げる。

 アメリカにはバスケットボールコートがいろんなところにある。こういうところで地元の人とプレーするのは、けっこう楽しいだろうな。そう思い、私はカバンをゴールの下に置いてシュートの練習を始める。フリースローラインから、えいやっとボールを放り投げるが、ボールはゴールに届きもしない。

「うわー、全然届かないや」
「もっと近くで投げるといいよ、それで入ったら徐々に遠ざかって」
「そうかー」

 彼のアドバイス通り、私はゴールの真下くらいからシュートを放った。
「ほら、入った!」
「おおー、やったー。じゃあちょっと下がる」

 ゴールが入るたびに少しずつ下がりながら、私はシュートを打ち続ける。途中で小さな男の子がゴール下にやってきた。離れたところでプレーしてた子だ。彼の息子だと言う。息子にもバスケを教えてるのだろうか。教え方が上手な彼に私は聞く。

「バスケ選手なんですか?」
「いや、高校でコーチをやっているよ」
「昔はプレイヤー?」
「そう」
「じゃあ、息子さんも選手になるかな?NBAの」
「はは、どうかな、彼はフットボールのほうが好きみたいだ」
「あはは、そうかー」

 フリースローラインの一歩前のところまできたが、そこからがなかなか入らない。

「ここが私のベストプレイスっぽいなー」

 その後も何度かシュートをして、私は諦めることにする。

「プレーする人はいっぱいいるけど、トップリーグに入れる人って何が違うんだろうね。NBAとか、本当に世界中のトッププレイヤーが集まるわけだから。諦めないことかな、こんな風に簡単に」

 私はボールを返しながらそう言う。

「才能は必要だよね、彼らには才能がある。でももちろん、誰よりも努力しているよ。中毒なくらい」
「楽しい努力ができる人がトップに立つのかな」
「そうだねー、誰でもトップに立てるものがあると思うんだけど、大事なのは自分の才能に気づくことじゃないかな。自分が世界のトップに立てるものを、自分で掘り当てられるかどうか」

 私はうなずく。才能があっても、好きじゃないものは続けられないし、続ける必要がない。誰もが世界のトップに立てるものを自分で掘り出せる?なら、自分はどうだろう。

「ありがとう、楽しかった。もう行くよ」
「名前は?」
「トモだよ、あなたは?」
「パトリックだ」

 そう言って私たちは握手をして別れる。
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