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アコンカグア9日目:下山と出会い

2019年1月29日(火)

一人目の日本人

今日は一旦、BCまで下りようと思う。どのみちガスや食料がないのでC1まで下りないといけないが、C1には雪がないので滞在できない。

一度BCまで戻って、体制を立て直そうと思った。再チャレンジするかどうかまだ決めきれていない。

標高6,400mまで登ったんだ。登れない人のほうが多いんだから、登山初心者で健闘したじゃないか。

もうキリマンジャロの標高も超えている。

十分やったとも思えるが、地球の裏側まで来て手ぶらで帰るわけにもいかない、そう思う自分もいた。

C2からC1に下る道の、ちょうど半分くらいの場所にBCが真下に見えるちょっとした岩場がある。そこで休憩している男性がいた。

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フランス人のようだ。英語も堪能。中南米を旅しているらしく、ボリビアのワイナポトシを登ってきたらしい。

これからアコンカグアに挑戦するそうだ。

ワイナポトシは世界一簡単に登れる6,000m級と呼ばれていて、世界一周旅行者にも人気の山だ。2泊3日で登れるが、簡単と言っても登頂できるのは3割程度だろう。

ワイナポトシはもちろん、ボリビアのラパスという都市は標高が4,000mを超える都市だ。そこから来たのならアコンカグアでの高度順応は問題ない。

C2まであと半分くらいだよ、と教えてあげた。

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それからしばらく下山していくと、全身モンベルを着た男性が一人で登っていた。

モンベルって日本のブランドだよな?と思い、話しかけてみた。お互い、サングラスにニット帽をしているので外見ではわかりにくい。

「日本人ですか?」と聞いてみた。

日本人だった。こんなところにも日本人がいるなんて。不思議と嬉しくなった。年齢は僕と同じくらいだろうか。

「昨日、C2からサミットプッシュしたけど登れなくて、6,400mで引き返してきました。一度BCに戻ります。」

僕みたいな、アコンカグアに挑戦した中でも最低レベルの実力の登山者がなにかアドバイスするのもおこがましい。相手の登山レベルもわからなかったので、それだけ伝えた。

彼は今から、初めてC2に行くんだろうか。もし再チャレンジすることがあれば、またどこかで会うかもな。

C2からC1に寄って必要なものを調達して、ダブルブーツなど必要ないものを置いていく。C2から3時間ほどでプラザ・デ・ムーラスに到着した。

帰ってきた。圧倒的ホーム感。

さっそくテントを張る。テントを張るのもだいぶ慣れてきた。設営しやすいテントを選んで正解だった。

INKAで働いてるJulietaにも再会した。登れなかったよと伝えた。

「You can try one more time.」と言ってくれた。明るくて笑顔が素敵な女性だ。

今日は体力を回復させるためにもINKAの夕食を食べようと思う。

INKAの食事は初日のコンフルエンシア以来だ。価格は50USD、アルゼンチンでの50USDは決して安くはないが、アコンカグアの絶景を見ながら食べれる世界一豪華なベースキャンプのレストランだと思えば、それくらいの金額になるだろう。

ステーキは食べ放題だから妥当な金額だ。

SpO2

念の為、メディカルチェックも受けておこうと思った。

SpO2という血液中の酸素濃度を測る。機械を人差し指の先に装着すると数字が表示される。地上だと98~100になるが、酸素が薄い場所だとこの数値が低くなる。

日本で一度、低酸素トレーニングを行ったが、そこでも90くらいで数値は良かった。

プラザ・デ・ムーラスに到着して翌日のメディカルチェックでは80くらいだった。

そして今回の数値は、僕の記憶が正しければ50台だった。これには正直驚いた。ドクターストップがかかって下山することになるのか。

緊張の面持ちでドクターの顔を見る。

ドクターは言った。

サミットプッシュをするとこれくらいの数値になるから大丈夫。頭痛や体調が悪くなければ大丈夫だよ。そう言っていた。

新しくゴミ袋をもらって、古い凍った汚物の入ったゴミ袋をドラム缶のゴミ箱に捨てた。トイレもドラム缶式になっているので、定期的にヘリが飛んできてドラム缶を回収しに来る。

山での排泄物の処理は大変なのだ。体調も問題なかったし、いろんな意味でフレッシュになった。

二人目の日本人

マイムービー 5

食事までの間、INKAの休憩用テントで時間を過ごすことにした。テーブルと椅子があるので、自分のテントでずっと横になってるよりは居心地が良い。

しばらくするとアメリカ人の男性が入ってきた。これから登頂を目指すらしい。登山経験も豊富で北米最高峰デナリ(旧マッキンリー)にも登ったことがあるそうだ。

キレイな山で、僕もいつか登ってみたい憧れの山だ。

もう一人、アジア人の男性が入ってきた。英語が堪能だ。ほぼネイティブのような英語を話すが、時折ネイティブじゃないようにも聞こえる。僕みたいな日本人英語ではない、流暢な英語だ。

彼はキリマンジャロなど、世界七大陸の最高峰セブンサミットを登っているらしく、アコンカグアは去年に続いて今回2回目だそうだ。

8日目で6,400mまで登って下りてきたこと、C2からのサミットプッシュ、今シーズンのアコンカグアの状況、雪の状況、なんでアコンカグアに来たのか、食料はあるけど、このまま下山しようかどうしようか迷ってる、そんなことをいろいろと話した。(オール英語で!)

しばらく話していて、自己紹介をすることになった。

アメリカ人の男性はWillというそうだ。アジア人はSatoki, 名前を聞いたときうまく聞き取れなくて、なんて言ったかわからなかったが、なんとなく日本語っぽい音が聞こえた感じがした。でも日本人ではないだろう思った。

そして僕がYasuと言うと、

「え!?日本人?もしかしたらと思ってたんだよね。」

お互い日本人ということを知らず話していたそうだ。笑
海外ではよくあることだ。

それに、こんなところに日本人なんていないと思っていたんだから。

そしてあることを思い出した。メンドーサのINKAのオフィスでSatokiと言われたこと。プラザ・デ・ムーラスに到着したときにJulietaにSatokiと言われたこと。

Satokiって人の名前だったんだ。しかも日本人の。

アジア人=Satoki, という括りなのだろう、きっと。

もう一回チャレンジしたら登頂できるよ。そう言ってもらえて少し勇気が出た。

その後、僕だけ別の食事用テントに移動することになり、夕食を食べた。

ベリーソースのステーキだ。めちゃめちゃ美味い。

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おかわりいるか?と聞かれたので、もちろんいただいた。脂身が少なくて食べやすい。

スープ、フルーツジュースをお腹いっぱいになるまで、たらふく食べた。

メンドーサに戻るまでもうステーキを食べることはないだろう。最後の晩餐だ。食べすぎて、体が重い。

ま、こんな空気が薄いところで太る心配はないのだが。なにもしてなくても呼吸するだけで体重が減る、そんな環境だ。HPとMPが全回復した。

天気予報

INKAのテントで天気予報を調べた。3日後の金曜日が一番天候が良さそうだ。その翌日の土曜日も悪くはない。

前に見た天気予報とは変わっていて、荒れるだろうと予想されていた今日も明日も荒れていないようだ。山の天気は変わりやすい。

もし、C2から高度順応に時間をかけて、C3に滞在してサミットプッシュをしていたら今ごろ登頂していたんだろうか。

そんなことが一瞬、頭をよぎったがどうでもいいことだ。登山素人が最短コースでガイドなしで登頂しようなんて、無理な話だ。

それをやろうとしてC2までコースタイム通り、むしろ少し早いくらいのペースで来ていたわけだが、南米最高峰はそこまで甘くなかった。

BCから一気にC2まで上がって、C2からサミットプッシュをするか、

BC→C2→C3に上がって、翌朝サミットプッシュするか。選択肢はこの2つだった。

一度失敗している僕は、体力面でC2からのサミットプッシュは難しい気がしていた。

ひとまず、今日は就寝して、明日また天気を確認する。

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