養う女、養われる男日記(19)


養う女のクレカ、本人も行ったことないパリに行く

養う女
2023/01/29


田中君が仕事でパリに行った。
出発前に私のクレジットカードを渡した。私はそれが都合が良いと思ったからそうしたが、友だちに話の流れでクレジットカードを持って行ってもらう予定を伝えたらひどく引かれた。
「それは行き過ぎてるよ。やめた方がいいよ」
真剣な顔で止められたので、そうか、これは行き過ぎているのか、と思い、クレジットカードを渡すのをやめるのではなく、それ以上その件を他人に話すのをやめた。
田中君には月8万円、定額で振り込んでいる。これは自動振込になっていて、毎月1日に田中君の口座へ振り込まれる。毎月それに加えて、必要な時に言われた画集や画材なんかをこちらで購入する。パリに行く時には、さらに彼自身が使うクレジットカードの支払いが加わったことになる。
田中くんがフランスへ旅立ってから数日後、私のスマホアプリに、カード使用の通知が届くようになった。通知の頭に【海外利用】と付いた明細には、マクドナルドやパン屋さんの名前ばかりが並んでいる。あまり食事をとっていないのか、向こうにいる事務所の人がご馳走してくれるのか知らないが、食費にしても少ない位の金額だった。
画集等を購入する時には事前に連絡が来た。こちらはどうぞと言うだけだが、律儀に聞いてくれるところがきちんとしている。
結局、パリでの大きな支払いは、田中君が歩きすぎて足を痛めたのにずっと歩いている(彼は公共交通機関をあまり利用しない)ことに痺れを切らした私が、タクシーを使え、使わないなら日本からフランスのタクシーを手配する、アプリを入れたから現在地を送れ、等とまくしたててタクシーを使ってもらった時と、同様の理由で近場の宿をこちらで手配した時で、結局私発信のものばかりだった。
その日に行きたい美術館を言われると、そのチケットも率先してこちらで手配した。ひとつ文句があるとすれば、ルイヴィトン美術館のチケット位か。
1日目にポンピドゥーセンターと抱き合わせで買えば2000円だったルイヴィトン美術館のチケットを、行くかわからないというので買わずにポンピドゥーセンター単独で購入、翌日やっぱり行くというのでチケットをとろうとしたら、ファミリーチケットしか残っておらず、6000円払うことになった。クレジットカードを渡すことに抵抗がない癖に4000円の差額が気になる私は、そのお金を支払う妥当性があるかの基準がかなりみみっちく決まっているんだと思う。送料を支払う位なら送料無料分まで購入するタイプ。
クレジットカードを渡してしまっているので、日本でカードを利用したい時のために、家族カードを発行した。ネット決済なら番号を覚えているので問題ないが、店頭でバーコード決済不可だったりすると、物としてのカードが必要になってくる。
必要事項を入力してカードの発行手続きをしたが、血縁か夫婦の名義でないと発行が許されていないらしく、養い手としてはかなり不便だと思った。同性婚を合法化したい人たちも、こういう制度的な手続きの必要な場面で不便を感じているのだろう。私としては、本人が相手との関係性を明確に説明できるならその名義でカードを発行できるシステムがあるとありがたいのだが。それか、ワクチン接種の証明があんなにも手厚く用意され、各窓口で幅をきかすのなら、名前のない関係性を手厚く保証する証明書類があったっていいと思う。
結局私は母の名前で手続きをした。
家族カードはかなり迅速に発行され、即座に手元に届いた。
その結果、私のスマホアプリには、[本人利用]と[家族利用]の欄が追加され、[本人利用]で田中君の明細が届き、[家族利用]で私本人の明細が届くようになった。
私自身は海外にも行ったことがないのに、私本人が海外でカードを利用したという通知が届くのは、かなり面白かった。田中君本人は海外の仕事にもう飽き飽きしているらしいが、私自身は田中君の活躍も見られたし、何より田中君の絵が新しいインプットで進化していく様子を見られるのが嬉しい。だからこれからも、仕事でなくても海外に行ってほしいなと思っている。その時はまた、私のカードを海外で本人利用してほしい。

養われる男
2023/02/07

あまりにもストレスのありそうな人たちを見て僕は説明しやすいように「全くストレスが無い」と言うこともあるし、あまりにも面白く無さそうな人たちに説明しやすいように「毎日楽しい」と言ってみることもある。
具体的に言ってしまうと毎日楽しい瞬間なんて養われていてもほとんど訪れない。それが養われる以前と以後で変わったかと聞かれてもそれは今の自分にはわからない。
ただ「自分に可能性を感じなくもない」という感覚だけが、その一瞬、その場しのぎが出来る僅かな感覚だけがその日の僕が好きで無駄とも呼べるようなことをさせる。
誰かに憧れてやってみると、誰かに憧れてやってみる前よりはその人の気持ちがわかる。
自分には出来ないと思った瞬間、またその人の凄さがわかって誰かに憧れてやってみる前よりその人のことが好きになれる。
あまり共感はされないけど、僕が思う挑戦の一番の良いところは他人を勝手に好きになれること。
そこにはやってみないとわからない愛情があって思いやりを持てそうな気がする。
誰かに憧れてはやってみての反復と連続。
それをやり続けた先に何かある可能性は低いけど、誰かに憧れてやってみる前より恐らく僕には好きな人がいる。
その憧れの螺旋階段の一段に僕もなれたら良いなとは思ってます。
誰かが僕を見てその場しのぎの1日を過ごせるような。



podcastでは、田中くんのパリでの生活を根掘り葉掘り聞いています。



養いだした経緯を超えらそうに語る第1回はこちらから読めます。

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