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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.12:ちょさむと散髪

「うーん……」
 休日の朝。洗面所で鏡を見ながら、修は悩んでいた。自分の髪の毛をいじり、首を傾げている。いつもの刈り上げはなくなり、いつもジェルを使えばほどよく立ち上がるトップ部分も、伸びすぎた髪でへたっている。これではジェルを使ってもかっこよく決まらないだろう。
「そろそろ散髪に行くべきか否か……むむむ……」
 鏡に頭を近づけて修がひとりごとをつぶやいていると、背後から誰かやってきた。
「あー、おさむ……おはよう」
 やってきたのは、顔を洗いに来た「ちょさむ」だ。起きたてなのか、眠そうな目をゴシゴシこすりながらあいさつをする。
「おお、おはよう」
 鏡越しに、ちょさむにあいさつを返す修。
「鏡の前で、何をそんなに悩んでんだよ」
 ちょさむが修に尋ねる。
「いや、そろそろ髪でも切りにいくかなと思ってな……ん?」
 振り返ってちょさむを見た修は、ふたたび首を傾げた。
「お前も髪伸びてきたんじゃないか?」
 そう言うと修は、少し寝ぐせのついたちょさむの髪にそっと触れる。
「そ、そうか?」
 そう言われたちょさむも自分の髪に触れてみる。
「明日会社に行くのはお前だからな……そうだ」
「どうした?」
「お前、今日床屋に行って来い。今俺が予約の電話を入れてやる」
 そう言った修は、ズボンのポケットから携帯を取り出し、すぐに行きつけの床屋に電話をかける。
「床屋か……」
 ちょさむは、予約の電話を入れる修をジッと見ていた。

「ただいま」
 散髪を終えたちょさむは家に帰ってくる。
「おかえり」
 修はちょさむを出迎える。
「おお。いいぞ、さっぱりしたな」
 しっかりと刈り上げられ、トップ部分もジェルでかっこよく立ち上がる短さに整えられたちょさむの髪を見て、修は言う。
「へへっ、いいだろ」
 自慢げに、ちょさむが鼻の下をこする。
「さすが俺の分身。男前だな」
 修は自分のことのようにご満悦の様子だ。
「なんだよ、結局自画自賛かよ」
 呆れたように、ちょさむは笑った。

「おはようございます」
 次の日。ちょさむは早めに出社した。
「おはよう、田村くん。早朝出勤とは感心感心」
 そこにいたのは、会社の社長の隆弘だった。隆弘がオフィスに下りてくるのはめずらしい。
「田村くん、今日も男前だね。綺麗に立たせた頭頂部と、刈り上げがまた素晴らしい」
「は、はぁ……」
 突然褒められ、戸惑うちょさむ。
「とりあえず、私はそろそろ社長室に戻ろうかな」
「えっ」
「他の社員たちの顔も見たかったが、男前の田村くんを見たら十分元気をもらえたよ。では、今日の業務もがんばってくれたまえ」
 そう言うと隆弘はオフィスを出ていった。それと入れ違いで、「おはようございまーす」とオフィスに入ってきたのは葵だった。
「修さん……! 私さっき社長とすれ違っちゃったんですけど……!」
「ああ。さっきまでここにいらしてたからな」
「へぇ……って修さん!?」
 突然大きな声を上げた葵にビクッとするちょさむ。
「な、なんだ?」
「髪! 切ったんですね!」
「あ……ああ」
「このツンツンの頭、修さんのトレードマークですもんね! やっぱり修さんはこうでなくちゃ!」
 嬉しそうにそう言う葵を見ながら、ちょさむは思っていた。
(これがおさむのトレードマークか。……キューピーちゃんみたいで可愛いじゃねーか)

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