音彌

小説を中心に、ときどきエッセイや書評、神社巡りの紀行文などを投稿しています。ツイッター…

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小説を中心に、ときどきエッセイや書評、神社巡りの紀行文などを投稿しています。ツイッター https://twitter.com/otoya2019

マガジン

  • 皐月物語

    小学六年生の男の子、藤城皐月くんの恋愛物語。

  • 執筆日記

    小説を書くにあたって考えたことを書き留めていこうと思っています。

  • 皐月物語 サイドストーリー

    小学生小説『皐月物語』のサイドストーリー。 主人公の藤城皐月以外の登場人物視点の物語や、本編の掘り下げ的な話をまとめてあります。

  • 神社仏閣探訪

    神社や仏閣へ訪れた時に思ったことや、訪れた後に調べたことなどを書いています。

最近の記事

離れがたい東大寺(皐月物語 147)

 修学旅行で東大寺を訪れている稲荷小学校の6年生たちは大仏殿を出た。ここでお土産を買ったり鹿と戯れたりする観光班と、二月堂や法華堂など仏堂や仏像を見学する勉強班に分かれた。  前島先生の率いる勉強班は二月堂裏参道を抜けて二月堂参籠所の前に出た。ここからは二月堂へ続く登廊だ。右手は芝の坂になっていて、その上に立つ二月堂を望みながら屋根付きの階段を上った。 「清水寺みたいだな」  昨日の京都観光で清水寺を訪れた藤城皐月は二月堂を見て、思わず感じたことが声から出た。 「そうだね」

    • 東大寺大仏殿と二月堂裏参道(皐月物語 146)

       東大寺中門の前にいた稲荷小学校の児童たちは興奮気味だった。社会の授業なんか好きではない子たちも、大仏のことはなぜか好きなのだ。いよいよこれから授業で習った奈良の大仏に対面することになる。  中門は入母屋造の楼門で、1716年に再建されたものだ。塗装の剥落した南大門と比べ、丹塗りの柱も白壁も保持されている中門は、南大門のように古色蒼然としてはいないが、清浄さが俗世と隔てる結界の役割を果たしている。  中門はくぐることができなくなっている。東大寺の中心堂宇、金堂(大仏殿)に安置

      • 修学旅行の朝、東大寺の大仏よりも尊い女神(皐月物語 145)

         藤城皐月にとって朝6時の起床は造作もないことだ。完全に朝型の人間なのだ。いつも通り5時半に起きると、旅先の宿ではやることが何もなかった。洗面所で顔を洗おうと思い、エレベーター裏にある男性用トイレに行くことにした。  皐月の家とは違い、ホテルの廊下は明かりに照らされて明るかった。シンとした館内を歩いていると、妙な高揚感が湧き上がってきた。非日常的なのだ。旅をしているんだな、と思った。  トイレの前にカートが置かれていた。清掃中で使えないのかと思っていたら、ごみ袋を持った老人が

        • 修学旅行の夜(皐月物語 144)

           稲荷小学校の6年生130人は修学旅行で京都のホテル「つづれ屋」に宿泊している。夕食の時間になり、児童たちは5階の食堂に集まっていた。食堂は会議室よりも広く、小学校ならもう1校は呼べそうなほど余裕のある作りだった。  広い食堂には4人掛けのテーブルがずらりと並べられていた。会議室で行われた匂い袋作りの体験学習の時とが違い、座席の区画がクラスごと男女ごとに分けられていた。席順は決まっていなかったので、入室した順に席を詰めた。  藤城皐月と花岡聡が6年4組の男子の場所へ行くと、神

        離れがたい東大寺(皐月物語 147)

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          週一更新を断念

           小説『皐月物語』を毎週金曜日の午後に更新していましたが、体調不良により、今週の更新ができそうにありません。楽しみにしている人がもし一人でも居られましたら、ごめんなさい。  趣味で書き始めた小説です。趣味だからこそ執筆に入れ込んで、サイドFIRE がいつしか FIRE になり、生活に占める割合が大きくなっていました。  プロット段階では書く予定のなかった修学旅行関連の話を書くようになり、話が長くなってしまいました。失敗だとは思っておりません。書いていて楽しく、1話あたりの文

          週一更新を断念

          あなたの香りがほしい(皐月物語 143)

           修学旅行初日の班行動で藤城皐月たちは京都観光を終えた。皐月たちの班がホテル「つづれ屋」に着いたのは門限の3分前、16時27分だった。京都駅前の旅館街ということで、余裕だろうと思って時間ぎりぎりまで京都駅でお土産を見ていたが、そんなことをする児童たちは皐月たち以外にいなかったようだ。稲荷小学校の修学旅行生では皐月たちの班が最後のホテルへの到着だった。  つづれ屋の外観はビジネスホテルよりも地味に見えた。だが、玄関には黄金の切り文字表札で「つづれ屋」と大きく表示されていて立派な

          あなたの香りがほしい(皐月物語 143)

          東寺の立体曼荼羅を前にして神仏を見つめ直す(皐月物語 142)

           参拝客の少ない午後の東寺庭園は静謐に包まれていた。五重塔を背にした藤城皐月たち6人は南大門の正面にある金堂に向かって歩いていた。 「東寺って796年に創建されたんだけど、最初に建立されたのが金堂なんだって。空海が東寺に来た823年って、まだ金堂しかできていなかったんだ。案外しょぼかったんだね。伽藍のない境内なんて、まさにがらんどう」  伽藍が通じなかったのか、反応のなさに皐月は顔が熱くなった。 「がらんどうって、語源は仏教用語の伽藍堂だよ。中に何もなくて広々としているってい

          東寺の立体曼荼羅を前にして神仏を見つめ直す(皐月物語 142)

          小説なんて書いている場合じゃないかも

           ブラックマンデーである。  日経平均は31458.42円、前日比-4451.28円、前日比-12.40%。  7月11日の終値、42224.02円から-25.49%の下落。  今回の暴落がガチだとしたら半値にはなるだろうから、あと1万は下に行くかもしれない。オーバーシュートして、2万円割れもありうる。  押し目買いの好機かもしれない。でも、よくわからない。わかってたら全力で突っ込むけど。  今回の相場の急変動は1日1回の相場チェックで知った。その程度の取り組みだった。相

          小説なんて書いている場合じゃないかも

          東寺を駆ける皐月(皐月物語 141)

           伏見稲荷大社の参拝を終え、藤城皐月たち6人はJR稲荷駅に到着し、京都行き普通列車の先頭車両に乗り込んだ。ホームには多くの外国人がいたが、先頭車両まで来る外国人はあまりいなかった。  鉄道好きの岩原比呂志は前面展望を見ようと車両の一番前へ行った。比呂志一人分のスペースくらいは空いていたが、自分は見られそうにないと思った皐月は女子たちと一緒にいることにした。  車内は混みあっていたので、比呂志を除く5人はバラバラにならないよう固まっていた。背の低い二橋絵梨花は人に埋もれていた。

          東寺を駆ける皐月(皐月物語 141)

          修学旅行の予習 東寺、東大寺、法隆寺(皐月物語 127.5)

           修学旅行の前日、6年4組では児童たちが修学旅行の行動班ごとに固まって、最後の打ち合わせが行われていた。各班は初日の京都旅行の訪問先の情報収集を行っていた。  皐月たちの班は京都旅行の最後の訪問先の東寺について調べるところだ。授業よりも一所懸命勉強してきて、皐月たち6人は疲れていた。  事前学習に当てられる時間の残りが少なくなってきた。もしかしたら全部は調べられないかも、と思いながら調査を続けた。  班長は文学少女の吉口千由紀だが、この打ち合わせではオカルト好きの神谷秀真と

          修学旅行の予習 東寺、東大寺、法隆寺(皐月物語 127.5)

          修学旅行、伏見神寶神社でお守りを買い、伏見稲荷大社を去る(皐月物語 140)

           伏見稲荷大社の奥宮の参拝を終えた藤城皐月たち6人はお山巡りの参道の入口にいた。ここからは朱塗りの鳥居のトンネルが延々と続く。外国人たちが写真を撮ってはしゃいでいるせいか、人の流れが滞り始めていた。 「この鳥居がなかったら、伏見稲荷はここまでの人気にならなかったんじゃない?」  栗林真理は延々と連なる大きな鳥居に目を見張りつつも、人の多さに辟易していた。旅行前の真理はそれほど千本鳥居に興味を示していなかったので、期待をして来なかった真理にとって、この混雑は苦痛なだけだ。 「で

          修学旅行、伏見神寶神社でお守りを買い、伏見稲荷大社を去る(皐月物語 140)

          修学旅行、伏見稲荷駅で降りて伏見稲荷大社へ行く(皐月物語 139)

           下鴨神社の参拝を終えた藤城皐月たち6人は京阪電車の出町柳駅に戻って来た。駅構内に入っても足を止めることなくホームに向かった。  階段を下りる途中で発車標と時計を見た。時刻は13時25分で、電車の発車する5分前だった。ここから改札を抜けてホームに行くまでは少し距離があるので、地下の店で寄り道をする余裕はなかった。  岩原比呂志先頭にして、早歩きでコンコースを抜けた。改札を通り、さらに階段を下りると、1番ホームにはすでに中之島行き普通が停まっていた。  比呂志は7両編成の先頭車

          修学旅行、伏見稲荷駅で降りて伏見稲荷大社へ行く(皐月物語 139)

          修学旅行の予習 伏見稲荷大社(皐月物語 127.4)

           修学旅行の前日、6年4組では児童たちが修学旅行行動班ごとに固まって、最後の打ち合わせが行われていた。各班は初日の京都旅行の訪問先の情報収集を行っていた。  皐月たちの班は訪問先の清水寺と八坂神社、下鴨神社の起源を調べ終え、これから次の訪問地の伏見稲荷大社について調べるところだ。密度の濃い時間を過ごしてきて、みんなに少し疲れが見えてきた。  班長は文学少女の吉口千由紀だが、この打ち合わせではオカルト好きの神谷秀真と藤城皐月が中心になって行われている。  他のメンバーは鉄道オタ

          修学旅行の予習 伏見稲荷大社(皐月物語 127.4)

          修学旅行、下鴨神社と御手洗池の水みくじ(皐月物語 138)

           相生社で参拝を終えた藤城皐月は下鴨神社(賀茂御祖神社)の楼門を視た。この日は清水寺仁王門、八坂神社西楼門と見てきたが、どちらも朱塗りの立派な門で美しかった。そして下鴨神社楼門もそれらに引けを取らない威容を誇っていた。  下鴨神社楼門は檜皮葺入母屋造で東西に廻廊があり、古代様式を伝えているという。瑞垣や玉垣と違い、廻廊は神域を取り囲むように廊下を巡らせている。下鴨神社の廻廊は飛鳥時代の寺院とは違い、境内を囲んでいるわけではない。  皐月たちの通う豊川市の稲荷小学校では社会見学

          修学旅行、下鴨神社と御手洗池の水みくじ(皐月物語 138)

          修学旅行、糺の森と相生社と「あなにやし」(皐月物語 137)

           鴨川デルタで家から持ってきた弁当を食べ終えた藤城皐月たち6人は次の訪問地、下鴨神社へ向かった。葵公園の入口に「史跡 糺の森(下鴨神社境内)」という案内札が建っていたので、矢印に従って下鴨東通を進んだ。  左手に旧三井家下鴨別邸の土塀が巡らされていた。皐月は土塀の石垣から何かの新芽が吹いているのを見つけた。 「よくこんなところから芽が出るね。何の芽だろう?」 「これは榎の芽生えだよ」  榎の名前は知っているが、皐月は木の見分けがつかないくらい樹木に関しては知識がない。何気なく

          修学旅行、糺の森と相生社と「あなにやし」(皐月物語 137)

          修学旅行の予習 下鴨神社の由緒(皐月物語 127.3)

           修学旅行の前日、6年4組では児童たちが修学旅行行動班ごとに固まって、最後の打ち合わせが行われていた。各班は初日の京都旅行の訪問先の情報収集を行っていた。  皐月たちの班は訪問先の清水寺と八坂神社の起源を調べ終え、これから次の訪問地の下鴨神社について調べるところだ。  班長は文学少女の吉口千由紀だが、この打ち合わせではオカルト好きの神谷秀真と藤城皐月が中心になって行われている。  他のメンバーは鉄道オタクの岩原比呂志、歴史好きの二橋絵梨花、学力が学年一位の栗林真理の3人。皐月

          修学旅行の予習 下鴨神社の由緒(皐月物語 127.3)