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その発注、必要ですか? DXの失敗パターンから考えるDXプロジェクトの在り方

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、企業がデジタル技術を活用して業務プロセスを効率化し、新たな価値を創出することです。DXは、単に既存の仕組みやツールをデジタル化するだけではありません。本当のDXは、新しいビジネスモデルの探求、組織文化の変革といった広い視点での変革を必要とします

DXは、企業にとって必須の取り組みです。なぜなら、デジタル技術の進化や社会環境の変化により、顧客や市場のニーズが日々変わっているからです。そのニーズに応えるためには、企業は自らも変わらなければなりません。DXは、企業が変化に対応し、競争力を維持・強化するための手段です。

しかし、DXプロジェクトは簡単に成功するものではありません。多くの企業がDXに取り組んでいますが、その成果はまだ限定的です。実際に日本政府が発表した「DX推進指標」では、日本国内企業の9割が「DX未着手企業」「DX途上企業」にとどまっています。

では、どうすればDXプロジェクトを成功させることができるのでしょうか? ここでは、私が様々なDXプロジェクトの担当者として経験してきたことから、DXプロジェクトの成功要因だと考えたことをまとめてお伝えします。主に下記の4点がDXプロジェクト推進に重要になります。

  • DXの本質を理解する

  • 自社の業務を深く理解し、要件を明確に整理する

  • 情報の非対称性を解消し、発注側と受注側が対等な立場で情報を共有する

  • 発注側担当者がリーダーシップを持ち、DXの目的を理解し、適切にフィードバックを行い、プロジェクト全体をコーディネートする

これらのポイントについて、具体的な事例やデータを交えながら詳しく見ていきましょう。本記事は、DXプロジェクトに興味のある経営者やマネージャー、現場担当者を対象としています。本記事の目的は、DXプロジェクトの成功ポイントや事例を紹介し、読者が自社のDX推進に役立てることです。

DXの本質とは?

近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がよく聞かれますが、本質を理解している人は少ない印象です。ここでDXを再定義すると、DXとは、デジタル技術を活用してビジネスを変革することで、顧客や社会のニーズに応え、競争力や成長力を高めることであり、単に業務をデジタル化することではありません。

自社のビジネスを根本的に変えていくということは、自社のビジネスについて詳細に理解していないとできないことです。そのため、DXを推進する担当者は、ITに詳しいだけでなく、ビジネスや経営にも精通している必要があります。DXが上手くいかない要因として、このDX担当者のビジネス力が大きく関係しているでしょう。

自社の業務を深く理解し、要件を明確に整理する

私が産業機械の制御設計をしている時に、仕事のできる上司から教えられた言葉があります。

「段取り8割、設計2割」

当時の私の仕事は、今までに設計した実績を基に顧客に合わせてカスタマイズした機械を設計することでした。特に産業機械では、ソフトウェアと異なり、部品調達が必要なため、一度製造を進めてしまうと、プロジェクトの段階を戻すには、かなりのコストが掛かります。そのため、非常に要件定義が重要でした。

この仕事のスタイルは、多くのDXプロジェクトと近しいものがあります。DXプロジェクトの中には、研究開発から始めるタイプのものもあると思いますが、多くのプロジェクトが既存のツールの導入、または既存技術を用いたスクラッチでのシステム開発になります。そのため、DXプロジェクトも同様に、段取りをしっかり行うことで、後のコスト増大の防止や成果物の品質向上に繋げることができます。

これらを考慮してDXを進めるためには、DXプロジェクトを開始する前に、まず自社の業務を再評価し、整理することが必要です。その業務が本当に必要なのか、効率化できる部分はないのか、新しいツールを導入することでどのような改善が期待できるのか、そもそも新しいツールが必要なのか等を詳細に検討するべきです。

自社の業務や要件を明確に整理することは、DXプロジェクトの成功にとって重要です。なぜなら、それによって以下のメリットが得られるからです。

  • DXプロジェクトの目的や方向性が明確になり、計画や予算の策定が容易になる

  • DXプロジェクトの進捗や成果を客観的に評価するための指標や基準が設定できる

  • DXプロジェクトに関わるステークホルダー間のコミュニケーションや調整がスムーズになる

自社の業務や要件を明確に整理するためには、以下のような方法が有効です。

  • 業務フロー図や業務マニュアルなどを作成し、業務プロセスを可視化する

  • 業務プロセスにおける課題や無駄を洗い出し、改善点や優先順位を明らかにする

  • 業務プロセスにおけるデータや情報の流れを把握し、必要なデータや情報を明らかにする

  • 業務プロセスにおける利害関係者や役割分担を把握し、必要な協力体制や連携方法を明らかにする

大抵の企業がこれらを明確にしないまま、DXプロジェクトを開始し、明確な要件が定まらないまま進むことで、本来想定していたシステムと異なるシステムが出来上がってしまうことが往々にしてあります。

情報の非対称性の解消

情報の非対称性を解消し、発注側と受注側が対等な立場で情報を共有することが重要です。そのためには、発注側担当者が自社の業務や要件を詳しく理解し、それらを受注側に伝えることが求められます。

情報の非対称性を解消し、情報を適切に共有することは、DXプロジェクトの成功にとって重要です。なぜなら、それによって以下のメリットが得られるからです。

  • 受注側担当者が発注側担当者のニーズや課題を正確に把握し、最適なソリューションを提供できる

  • 発注側担当者が受注側担当者の提案や実行内容を正確に理解し、適切なフィードバックや判断ができる

  • DXプロジェクトの進捗や成果を共有し、問題や改善点を早期に発見・解決できる

  • 発注側と受注側が信頼関係を築き、協力してDXプロジェクトを推進できる

情報の非対称性を解消し、情報を適切に共有するためには、以下のような方法が有効です。

  • 発注側担当者が自社の業務や要件を明確に整理し、それらを文書化する

  • 発注側担当者が受注側担当者に自社の業務や要件を詳しく説明し、質疑応答やヒアリングを行う

  • 発注側担当者と受注側担当者が定期的にミーティングやレビューを行い、情報や意見を交換する

  • 発注側担当者と受注側担当者が共通のプラットフォームやツールを利用し、情報や成果物を共有する

発注側でDXを理解していない担当者とのやり取りの中でよく耳にする言葉が「どうしてそんなことを聞くんですか?」
という言葉です。業務フローを詳しく聴取している際に問いかけられることが多いです。

このような思考になってしまう原因は、DXの本質がデジタルを用いたビジネスの変革であることを理解せず、デジタルの導入ばかりに注目しているためでしょう。担当者は、ビジネスの部分が頭から抜け落ちており、デジタルの知識があればDXを進められると思っているため、「なぜ業務のことをそんなに詳しく聞くの?」と感じてしまっているのだと思います。

何度も述べますが、DXはビジネスの変革がゴールのため、対象のビジネスを知ることが最も重要だと考えています。DXはデジタルに目が向きがちですが、「ビジネス」に着目して進めるようにしましょう。

担当者の強いリーダーシップ

発注側担当者がリーダーシップを持ち、DXの目的を理解し、適切にフィードバックを行い、プロジェクト全体をコーディネートする DXプロジェクトでは、発注側担当者がリーダーシップを持つことが求められます。それはただ上司の指示に従うだけではなく、DXの目的を理解し、必要な情報を受注側に伝え、適切にフィードバックを行い、プロジェクト全体をコーディネートする能力を持つことを意味します。

発注側担当者がリーダーシップを持つことは、DXプロジェクトの成功にとって重要です。なぜなら、それによって以下のメリットが得られるからです。

  • DXプロジェクトの方向性や優先順位が明確になり、計画や予算の遵守が容易になる

  • DXプロジェクトの目的や効果が社内外に伝わり、関係者の理解や協力が得られる

  • DXプロジェクトに関わるステークホルダー間のコミュニケーションや調整が円滑になる

発注側担当者がリーダーシップを持つためには、以下のような方法が有効です。

  • DXプロジェクトの目的や意義を自ら理解し、社内外に積極的に発信する

  • DXプロジェクトの計画や予算を策定し、実行・管理・評価する

  • DXプロジェクトに関わるステークホルダーと定期的に連絡・報告・相談する

  • DXプロジェクトに関わる問題や改善点を早期に発見・解決する

DXプロジェクトで最悪なパターンとして、発注側担当者が発注側のプロジェクトマネジメントも受注側に任せるパターンです。発注したら、受注側が勝手に進めて、勝手にプロジェクトを完遂してくれると思っている発注者が多い印象です。

このタイプの担当者は、「なぜ自社でDXを進めないといけないのか」という本質を理解していないことも多く、受注側から宿題(関係者から必要な情報を集めるなど)を出しても中途半端な結果を出してくることが往々にしてあります。自分が何をすべきかを理解していないので、言われたことを浅いレベルでしか達成できないのです。
そうなると、何度もミーティングを行うことになり、プロジェクトの進捗が悪くなり、無理に納期に合わせるために成果物の品質が落ちる結果に繋がり兼ねません。

協力会社に発注したからといって、発注側担当者の仕事が終わったわけではありません。むしろ、そこからがスタートなのです。
プロジェクトで素晴らしい結果を出したいならば、発注側、受注側に限らず、お互いにリーダーシップを発揮するようにしましょう。

DXプロジェクトの成功事例

DXプロジェクトの成功には、自社の業務や要件を明確に整理し、情報を適切に共有し、リーダーシップを発揮することが必要であることを、前章までで説明しました。ここでは、それらのポイントを満たしているDXプロジェクトの成功事例を紹介します。これらの事例は、経済産業省らによって「DX銘柄2022」に選定された企業の中から厳選したものです。

ニチガス(日本瓦斯株式会社)

ニチガスは、エネルギー託送事業でデジタル技術やIoT機器を活用したサービス「夢の絆・川崎デポステーション」を提供しています。このサービスは、川崎重工と共同で開発され、ニチガスのエネルギー託送事業に関する業務や要件を川崎重工に詳しく伝え、川崎重工がその要件に沿ったサービスを提供するという協業体制がとられました。このサービスにより、ニチガスはエネルギー託送事業の品質向上やコスト削減を実現しました。

ニチガスの成功要因には、人材が挙げられるだろう。
ニチガスは、自社開発で運営してきた業務基幹システムを2010年からフルクラウド化を開始し、「雲の宇宙船」と名づけてリニューアルしました。その後、LPガスに続いて都市ガスと電気が全面自由化されたため、2017年にそれらの小売事業を雲の宇宙船に追加しました。このように、自社でデジタル技術を開発・運用する能力を持った人材を育成してきたことが、DXの推進に貢献したと考えられます。

アイビック食品株式会社

アイビック食品は、北海道の食品メーカーで、ドレッシングやタレなどの液体調味料やレトルトカレーなどの具材入りの商品を製造販売しています。同社は、2021年9月に「北海道の食のDX拠点」をテーマにした施設「北海道みらいキッチンGOKAN」をオープンしました。

GOKANは、食に関わる全ての人・企業・地域のHUBとなることを目指しており、以下のような機能を備えています。

  • 試食会や料理教室に活用できるセントラルキッチン

  • 動画配信やライブ配信に対応できる最新家電が揃ったオープンキッチン

  • 商品や料理のスチール撮影ができるスタジオ

  • デジタルサイネージやVR/ARなどデジタル設備

  • 配膳ロボットや香り発生装置など五感を刺激する仕掛け

同社は、GOKANを通じて、自社の商品や取引先の商品をオンライン上で情報発信や販売促進を行っています。また、外食産業を応援するために、研究開発費無料で新商品の開発や販売までサポートしています。

アイビック食品は、DXセレクション20223や健康経営優良法人2022ブライト500にも選定されており、DX推進と健康経営に取り組んでいる中小企業として注目されています。

アイビック食品の成功要因の一つは、DX推進課を設置し、専任のスタッフがDXに取り組んだことです。これにより、DXに関する知識や技術を高め、外部との連携や社内の教育もスムーズに行えました。アイビック食品は、DXを片手間で行うのではなく、経営戦略の一部として注力したことで、成果を上げることができました。

お金をドブに捨てないために

本記事では、DXプロジェクトの成功ポイントや事例を紹介しました。これらから学ぶことができる3つのポイントは以下の通りです。

  • DXの本質を理解する

  • 自社の業務を深く理解し、要件を明確に整理する

  • 情報の非対称性を解消し、発注側と受注側が対等な立場で情報を共有する

  • 発注側担当者がリーダーシップを持ち、DXの目的を理解し、適切にフィードバックを行い、プロジェクト全体をコーディネートする

これらのポイントを満たすことで、DXプロジェクトは単なる技術導入や効率化ではなく、新たな価値創造やイノベーションへとつながるでしょう。これらのポイントを満たすためには、DXプロジェクトに関わる全ての関係者が、DXの目的や意義を理解し、協力して変革に取り組むことが必要です。

DXは一種の「変革」です。その成功は、新しいツールを導入するだけでは達成できません。自社の業務やニーズに合わせた最適なツールやパートナーを選び、協力して変革に取り組むことが必要です。

あなたの企業はDXプロジェクトに取り組んでいますか? それともまだ始めていませんか? DXプロジェクトの成功事例やポイントから学び、自社のDX推進に役立ててください。

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