見出し画像

コロナ渦不染日記 #58

←前回目次次回→

十月一日(木)

 ○今朝の体温、三六・一度。

 ○映画『チャーリーズ・エンジェル(2019)』を見る。

 アバンタイトル後、オープニングシーンで、各国人種年齢さまざまな「女の子」たちがにこにことうれしそうにしている映像が流れる。このことからも、今回の映画化の「社会的メッセージ」はわかりやすい。もちろん、このメッセージじたいは、すばらしいものであるし、『チャーリーズ・エンジェル』という物語は、そのメッセージを提示するに格好の題材であろう。
 問題は、このメッセージの提示のしかたが、物語の展開を、いちじるしく窮屈なものにしているところである。「女性はつねにただしく、悪いのは男性」という図は、エンタメ的な味つけとしても、それを、エンジェルたちの所属する組織「タウンゼント探偵社」に適用するだけでなく、旧作すべてにまで敷衍するのは、かえって不自然に思える。
 もちろん、「チャーリーズ・エンジェル」シリーズじたいが、「(徹底して姿を見せないボス・チャーリー)と(現場のサポート役・ボズレー)と聖霊(美しくて有能なエンジェルたち)」という、キリスト教の「三位一体」をモチーフとして、「ダメな男たちを救ってあげる」的な男性甘やかし要素をエンタメとしていることは否めない。だから、こんかいの「社会的メッセージ」にとって、書き換えるべき「悪い男たちの支配的ツール」と見なされているのであろうということも、納得できないものではない。しかし、だとしても、○○○ーだけでなく○ャー○ーまで女性であるとするならば、(『TENET』がひとことも007といわない007だったように)「チャーリーズ・エンジェル」といわない『チャーリーズ・エンジェル』映画にすればよかったのではないか。もしそうしないとしても、旧作(テレビシリーズ、映画『チャーリーズ・エンジェル(2000)』、『チャーリーズ・エンジェル:フルスロットル』)とは切り離された、リブート作品として語ればよかったのではないか。

チャリエン

 こんな、過去の改変をしてまで、「自分たちの伝えたいメッセージを補強するために『悪者』を作る」のは、どうにもスマートな手段とは思えない。

 ○物語とは、たとえどのような思想信条を反映したものだとしても、最終的には「物語という仮想の現実」の現実性を優先すべきものである。そうでなければ、「仮想の現実」は現実味を失い、「『これは自分のことだ』と読者に思わせるものとしての物語」である必然性が失われるからだ。その両立を果たすところに、物語る人間の腕が問われるのである。
 二〇〇〇年代の映画版『チャーリーズ・エンジェル』とその続編『~:フルスロットル』に、ガールズ・エンパワーメントのニュアンスがなかったとは言わない(主演の一人であるドリュー・バリモアが制作に携わり、2019年版では制作総指揮も務めてる)。しかし、ドリューらは、このとき、「救われるべきダメ男の物語」から視点をずらし、「男たちに都合のいい存在に見えるエンジェルたちだって、一人の女の子としての人生があって、それを楽しんでいるんだ」という物語を提示していた。これこそ「うまい思想信条の語りかた」であろうと思う。
 とするならば、今回の『チャーリーズ・エンジェル(2019)』は、提示する思想信条の高邁さに目を奪われ、物語とのあいだにバランスをとることを放棄している、と考えられる。

画像1

 ユニセックスな格好よさのクリステン・スチュワート(画像右)、高身長モデル体型のエラ・バリンスカ(画像左)、タレ目とうわむきの鼻がキュートなナオミ・スコット(画像中央)の新エンジェルたちが魅力的だっただけに、隔靴掻痒の感が残る。

 ○本日の、全国の新規陽性者数は、六三五人(前日比+五八人)。
 そのうち、東京は、二三五人(前日比+四一人)。


十月二日(金)

 ○今朝の体温は三六・一度。

 ○合衆国大統領ドラルド・トランプ氏の、新型コロナウィルス感染が発表された。

 今夜、妻(メラニア・トランプ氏)と私から、新型コロナウィルスの陽性反応が検出された。これからすぐ、検疫隔離され、治療が開始されることになる。私たちは、この困難を、二人で一緒に乗り越えていく!

——@realDonaldTrump「2020年10月2日 午後1時54分の発言」より。
(翻訳は引用者)

 一国の首相が新型コロナウィルスに感染する例は、なにもトランプ氏が最初ではない。イギリスのジョンソン首相や、カナダのトルドー首相、ロシアのミシュスチン首相、ブラジルのボルソナロ大統領なども、新型コロナウィルスに感染している。
 しかし、ことはアメリカの大統領に起こったことである。しかも、トランプ氏は、マスク着用をせず、いわゆる「ソーシャル・ディスタンス」の適用をしないなど、感染症対策を軽視していたと思われるむきがあっただけに、「それみたことか」と思われかねない状況を、自ら作り出しているとも言える。彼が感染したとなれば、その現場が選挙戦の会場、もしくはホワイトハウスであろうと考えられるわけで、いずれの場所でもクラスター感染が起こっている可能性があり、そちらも大きな問題である。
 現在、大統領選のさなかであることも考えると、まともな理性の持ち主であれば、このような人物に投票はすまい。……と考える一方で、トランプ氏が復帰した際に、もし「私は回復した! アメリカも回復する! 強いアメリカ!」などと喧伝すれば、コロッとそちらになびいてしまいそうな雰囲気もあるように思われる。

 ○小池一夫/小島剛夕/森秀樹『新・子連れ狼』を読み終わる。

 原作にあたる『子連れ狼』は、それだけで完結したマンガであり、それゆえに大傑作である。だから、基本的には続編はいらない。そして、もし続編が成立するとすれば、なによりもまず、原作のすばらしさを損なわないものであるべきである。
 たとえば、映画『ベスト・キッド2』は、前作で主人公と恋仲になったヒロインを、物語から退場させるにあたり、「前作の後に大学生と浮気して、主人公がミヤギ氏からもらった車を勝手に乗り回して事故を起こした」人物と設定した。これは、前作での好印象をふいにする、よくない続編の造りであるといえる。
 その点で、『新・子連れ狼』は安心できる続編である。原作のラスト直後、主人公・大五郎は、薩摩示現流の開祖・東郷重位(をモデルにした同名のキャラクター)に引き取られ、拝一刀とはことなる人間性に接して、人間的な厚みを増したキャラクターに成長していくことになる。また、敵も、原作の柳生烈堂と、阿部〈怪異〉頼母をあわせたような人物を首魁に設定して、前作のテイストを残しながら、「大五郎サーガ」へと徐々にシフトしていく体制をととのえていく。
 これは、原作の作画担当・小島剛夕氏が故人となったことで、大五郎よろしく「残された」小池一夫せせいが、新たな作画担当として、小島氏に勝るとも劣らない森秀樹氏をむかえ、「大五郎サーガ」を書き継いでいったことに重なるものとも思える。そして、その前後に、小池せせいもまた、人間的に成長、変化したことにより、物語の厚みもまた、原作とはことなる方向性に伸びていくことになる。まことに理想的な続編といっていい。

 ○本日の、全国の新規陽性者数は、五四二人(前日比-九三人)。
 そのうち、東京は、一九六人(前日比+三九人)。

画像2



→「#59 十フィート棒」



引用・参考文献



イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/

いただきましたサポートは、サークル活動の資金にさせていただきます。