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コロナ渦不染日記 #56

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九月二十六日(土)

 ○午前中は原稿作業をし、午後は出かけて友人のヒグマとお茶をする。
 半年ぶりくらいに会うので、気がつけば三時間ほどがアッという間に経っていた。タマネギをたくさんもらった。

 ○夕食を「リンガーハット」で取ったら、こんなレシートが出てきた。

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「小さいトムヤムちゃん」は絵本のタイトルになりそうだ。

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 ○小池一夫/小島剛夕/森秀樹『新・子連れ狼』を読む。

 原作である『子連れ狼』をお読みのかたはご納得いただけるだろうが、原作は「刺客・子連れ狼の復讐譚」ではじまりながら、中盤以降「大吾郎の成長」に視点がシフトしていき、最終的には復讐譚として見事に完結しつつ、「新たなる狼」大吾郎が誕生して終わった。だから、大吾郎のその後を描かないことには意味があったと、ぼくは考えていた。大吾郎のその後を描いてしまったら、読者の想像の幅を狭めてしまうからである。
 しかし、この続編は、読者の想像の幅を狭めることなく、想像を超えた「その後の拝大吾郎」の物語を描き出した。さすが小池一夫せせいというほかない。

 ○本日の、全国の新規陽性者数は、六四二人(前日比+六七人)。
 そのうち、東京は、二七〇人(前日比+七五人)。


九月二十七日(日)

 ○午前中はぼやぼやし、午後は岬の映画館で映画『TENET』を見る。

 あるスパイが、謎の組織にスカウトされる。その組織〈TENET〉は、やがてくる第三次世界大戦を回避するために作り上げられた組織だった。「人やものを、『時間を逆行する状態』にしてしまう装置」を開発した未来人が、やがてくる世界の危機を回避するため、過去を改竄しようと、過去の世界にむけて、未来の危機を知らせてきているのだ。もちろん、その技術を悪用し、世界を破滅させようという悪党もいて……というのが、この映画のおおまかなあらすじである。

 「時間の順行と逆行」を、映画という「順行する時間」のなかに見せる点で「複雑」と受けとられているようだが、個人的には、それらはすべて、監督であるクリストファー・ノーランのハッタリでしかないと思える。
 そもそも、メジャーデビュー作『メメント』からして、「事故によって、記憶を十分しかたもてなく男が、妻を殺した相手に復讐しようと試行錯誤して、ついに復讐を果たしたところから、十分ずつ時間を遡って、すべてのはじまりを見せる」という、ギミック一発のハッタリが楽しい映画を作っていたのがノーラン監督である。だから、ノーラン監督の映画が面白いかどうかは、ハッタリの規模でははかれないと、ぼくは考える。ノーラン監督の映画を面白いといえるかどうかは、ハッタリがちゃんと語るべき物語と組み合わさっているかどうかにかかっているのだ。そういう意味で、まさに人の形を取ったハッタリであるジョーカーを見せきった『ダークナイト』や、ハッタリを作る人がハッタリに魅惑され、囚われたところからどう脱却するかを描いた『インセプション』、ハッタリによって身を滅ぼした男たちの挽歌である『プレステージ』は、ノーラン監督の映画として大傑作であると考える。
 では、『TENET』はどうかというと、上記の三作品ほどではないが、ハッタリと物語がそれなりに組み合わさって、悪くない映画ではあると思う。ただ、ハッタリの規模に比して、物語の骨子にある「大切なものとのすれ違い」と「007」の描き方がおとなしすぎて、おおくの観客がそこを見落としていると思われるところが、個人的には残念である。

 ○この映画は、007シリーズが大好きなノーラン監督による「ぼくのかんがえた最高にエモい007二次創作」である。謎の超技術を手にした悪党が、世界を破滅させんとするとき、颯爽と現れたスパイが、美女とやりとりしながら秘密に迫り、敢然と悪にたちむかう……という筋は、007シリーズそのまんまである。『インセプション』のときも、『女王陛下の007』へオマージュを捧げたという以上に、特に意味のない、雪山の要塞攻略シーンが描かれたが、今回もまた、「007っぽいスパイが007シリーズっぽい悪役と戦う」というシチュエーションをもりあげるためだけに、「時間の順行と逆行」というギミックが映像化されている。
 しかし、それはたしかに物語の骨子にタッチしている。クリストファー・ノーラン監督の映画は、すべて「大切なものとのすれ違い」を描くものであるが、今回もそこに「時間の順行と逆行」というギミックが寄与している点で、非常にノーラン監督らしい映画である。

 ○ノーラン映画が「すべて『大切なものとのすれ違い』を描くもの」である、というのは、いま、日記を書きながら出てきた。これについては、いずれじっくり考えたい。

追いかけても追いかけても逃げて行く月のように
指と指の間をすり抜けるバラ色の日々よ

——THE YELLOW MONKEY「バラ色の日々」より。


 ○本日の、全国の新規陽性者数は、四八五人(前日比-一五七人)。
 そのうち、東京は、一四四人(前日比-一二六人)。



→「#57 キンモクセイ」



引用・参考文献



イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/
うさぎ小天狗

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