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知らない土地でお店にフラれ続けた結果美味いラーメンに辿り着いた【いわき小旅①】

在宅勤務を終え、駅に向かった。目的地はいわき駅。福島県のいわき市である。ちょっとした所用でこの夜から翌日一日いわきに行くことになった。いわきに着くのは夜8時半前。その時間なら、まだギリギリご飯屋さんもやっているだろう。


僕は家を出る前、泊まる予定のホテルのそばに良さげな居酒屋がないかネットで調べた。目に留まったのは、海鮮がウリの居酒屋さん。いわきは海が近い。きっと海鮮居酒屋のレベルは高いはずだ。僕はそのお店に電話をかけてみた。

「すいません、本日1人で伺いたいのですが予約できますか?」
「あーすいません、今日は予約でいっぱいですね」

惨敗だった。この日は木曜日。華金でもない日にいわきの居酒屋にフラれるとは思ってなかった。

このまま家でお店を調べていたら、乗る予定の電車が発車してしまう。僕はとりあえず家を出てあとは電車の中で調べることにした。どうせ2時間くらい特急に乗るわけだ。調べる時間は十二分にある。


特急に乗っている最中、目についたのは居酒屋ではなくラーメン屋さん。駅前で人気のあご出汁ラーメンがウリのお店だ。いわき駅に着くのは午後8時過ぎだし、今日は飲まずにラーメンだけ食べてホテルに行くっていう流れもなかなか利口だろう。食べログでそのお店の営業時間を見たところ、午後9時までとなっている。駅からお店までは歩いて10分。ラストオーダーが午後8時半だとしても間に合うだろう。特急の中で、今日の夜ご飯はここにしようと決めた。


特急電車がいわき駅に到着したのは午後8時17分。少しだけ遅延していたようだ。改札を抜け、南口を出る。8時半までには店に着きたい。歩く速度を速め、時折小走りを挟みながら駅前の飲み屋街を抜けて行った。

いわき市に来たのは2回目だが駅前を歩くのは初めてだ。知らない土地で徒歩10分は体感15分くらいに感じられた。お店の前にたどり着く。そこで見たものは、電気がついておらずシャッターが閉じられた建物。マジか。やってないじゃないか。Googleマップには「営業中」と書かれているぞ。ネットの情報と実際の営業状況に乖離があったというのはつい最近長野県上田市に行った時も散々経験した。またか、という気持ちだ。お店はシャッターが閉まっているのでさっきまでお店がやっていた気配も感じられない。この日本当に営業していたかも疑わしい外観だ。

なんてこった。目当ての夕飯が食べられなくなってしまった。しかしこのままここで立ち尽くしてもお店が営業されるわけでもなさそうなので、駅の中心部へ向かって歩いた。ラーメン屋さんは諦めて、この日泊まる予定のホテルへの道中で良さげな居酒屋さんでも探そう。僕が泊まる予定だったホテルはいわき駅から徒歩3分。その空いてなかったラーメン屋さんからだと歩いて15分くらいかかった。道中、何軒かやっていそうな居酒屋を見つけたので、先にホテルにチェックインして荷物を置いてからやって来ようと考えた。ホテルに向かう途中、先ほど電話して予約がいっぱいということで断られた居酒屋の前も通った。木曜日の夜、都内でもないのに本当に予約でいっぱいなんだろうか?という疑わしい気持ちで店を覗いてみたが、電話で聞いたとおり店内は満席で大盛況だった。疑ってしまって申し訳ない。


午後8時40分ごろ、ホテルに着いた。チェックインを済まし、部屋に荷物を置いてすぐにホテルから出た。飲み屋さんが並んでいた場所は大体把握している。その方向へ足を進めた。

目当ての路地にたどり着く。しかし先ほど目にした光景とは一変していた。店の電気がついていない。時計を確認すると午後9時近く。そうか、9時になると閉めるお店も多いのか。これは後でいわきのタクシーの運転手さんに聞いた話だが、いわき駅周辺の居酒屋は9時に閉めるお店が多いらしい。これは参った。


その後はあてもなくブラブラと歩いた。電気がついていてやっていそうなお店はいくつかあったが、中が見えずちょっと敷居が高そうに見えたお店や、常連の巣窟になっていそうなお店ばかりだったので入る勇気が出なかった。同じような道を15分ほど歩き続け、あるもつ焼き屋さんの前にたどり着いた。中は見えないが、店の外観は渋くて好みだ。いわきに着いてから大体1時間弱歩いていた僕は少し歩き疲れていたのでこのお店に賭けようと思い店の扉を開けた。

扉を開けると中ではカウンター席で4人くらいのお客さんが食事をしていた。厨房では可愛げのあるおばあさんが座っている。おばあさんがこちらを見た。僕は人差し指を立てて「いけますか?」と聞いた。

「すいません、もう今日おしまいなんですよ」

またしても惨敗だった。「あら~そうですか〜」と言いながら僕はお店の扉をそっと閉めた。いわきではこの時間に居酒屋に入るのは難しいのだろうか。一体僕はどうすればいいんだ。昼ごはんを食べてからこの日水以外何も口にしていない僕のお腹は悲鳴をあげていた。


夜のいわきをまた歩き始めた。店の明かりはどんどん消えて行き、不安に拍車をかける。やっていそうなお店もあるがお客さんが誰もいない。知らない土地なのでさすがにある程度お客さんが入っているお店に入りたいし、お客さんがいないということはもう店じまいなのかもしれない。大通りの交差点を渡り、路地に入った。ホテルからはどんどん遠ざかっていく。夜の駅前だというのに人気は少なく、都内の夜9時過ぎとはわけが違った。

路地を彷徨い続け、ようやく一つラーメン屋さんを見つけた。中は電気がついており、カウンター席で食事をしているお客さんが何人か見える。もしかしたらここなら入れてもらえるかもしれない。さっきまでラーメンを食べようとしていたのだ。ここで美味しいラーメンが食べられたら万々歳である。お店に近づき、恐る恐る扉を開けた。


扉を開けると、メガネをかけた店主さんが厨房で作業をしている。僕はすぐには気づかれなかった。5秒ほどの間隔を空け、店主さんは
「いいよ〜」
と言って僕を通してくれた。やった。断られなかった。ようやく夕飯が食べられる。東京にいるとなかなか感じることはない、「店に入れてもらえた」という安堵の気持ちが胸中を覆った。

入り口右手にある券売機を見ると、どうやらここは鯛出汁ラーメンと豚骨ラーメンがウリなことが分かった。ここは鯛出汁にしておこう。鯛の方がちょっと珍しいから。かなりお腹が空いていたので、ラーメンの鯛めしのセットを注文した。トッピングの味玉も注文しようかと思ったが、財布を見たら小銭はほぼなく、紙幣は1万円札しかない。券売機は1000円札にしか対応していないため、味玉の食券を購入するには両替が必要だ。いつもならここでお店の人に「両替お願いします」と頼むのだが、なんとなくこのお店が閉店間際であることを察していた僕は今更両替をお願いする気にはなれなかった。お店に入れてもらえただけでも及第点である。

店主さんに食券を渡す。ラーメンの味は醤油と塩が選べるようなので醤油を選択した。席に座って待っていると、店主さんはすぐに入り口の看板をひっくり返し、券売機の画面を切り替えていた。どうやらこのタイミングで受付終了らしい。危なかった。

お望みのラーメンは待つこと5分ちょっとで提供された。待ちくたびれたようやくの夕食。トッピングが別皿になっている意外さよりも「料理が出てきた」という感動の方が大きい。冷める前にいただこう。

鯛めしセット¥1050

食べてみると口当たりの良い醤油スープに広がる鯛の旨み。コシのある細麺。すごく胸が温まる。トッピングが別皿になっていることで少しスタイリッシュな見た目になっているがどこか懐かしさも感じる味だ。美味い。むしろここまで夕飯を我慢して良かったとも思える味だ。チャーシューにも程よい香りがついている。手前の揚げ物はおそらくゴボウだ。トッピングにも遊びがあって面白いぞ。


横に添えられているのは鯛めし。バーナーで炙った鯛がご飯の上に盛られており、茶碗を顔に近づけるとその香りがとても力強く心地良い。肉を炙ったのとはまた異なるライトな香りだ。食べるとたんぱくな味わいと控えめな味付けだが不思議とご飯に合う。美味い。最後はラーメンのスープを鯛めしにかけてお茶漬けみたいにして食べた。これもまた絶品だった。

最初は正直これで美味しくなかったらどうしようとかまで思っていたが、疲れと空腹を抜きにしてもクオリティの高い一杯だと思った。きっと東京で店を出しても戦っていける。東京で数多のラーメンを食べてきた経験がそう言ってる。でもいわきで続けてほしい。いわきの人たちに、美味しいラーメンを提供し続けてほしい。僕は店を出る時に店主さんに「美味しかったです」と声をかけた。店主さんは
「ありがとうございます!」
と元気良く返してくれた。閉店間際に入ったにもかかわらずこんなに美味しいラーメンを提供してくれた店主さんに対する、僕ができるせめてもの恩返しでもあった。


店を出て、ホテルに向かって歩き出した。この日は在宅勤務だったはずなのに、腕時計の歩数計を見るともうすでに1万歩を超えている。そんなに自分はいわきで彷徨っていたのか。さっきのラーメンは僕にとってのベスコングルメだったのかもしれない。

ホテルに着いたのは午後10時ごろ。飲みにでも行ったのかというような時間だ。酒を飲まなかったのでホテルの大浴場ではサウナに入った。僕はこのサウナに入るために酒を我慢し、たくさん歩いたのだと自分に言い聞かせながら汗をかいていたが、サウナの温度は少しぬるめだった。Googleマップの情報が絶対だと信用することも、ビジネスホテルのサウナにクオリティを求めるのももしかしたら間違っているのかもしれない。


今回行ったお店

(最終的に入ったお店)

お酒と中華そば 南風
●住所:お酒と中華そば 南風
●アクセス:いわき駅から徒歩6分
●営業時間:
 11:30~14:00
 17:30~23:00
 (※筆者が行った時は21時半前に閉まった)
●定休日:日曜日
●駐車場:あり

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