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門前払いされる?ちょっと変わった餃子店【菜香餃子房 @北千住(東京都足立区)】

北千住にある「菜香餃子房」というお店。
食べログ百名店にノミネートされているほど食べログでの評価が高い餃子屋さんだ。

食べログでの評価が高いということは、それだけ多くの人が訪れ、多くの人が高評価をしている、ということになる。

しかし、このお店のことを調べていくうちに、このお店が他の人気餃子店とは一線を画したお店だという印象をだんだんと受け始めた。なぜなら、このお店に関する口コミやブログ記事などを読んでいると、本当か?と目を疑う情報に行きついたからだ。

目を疑うような情報、それはお店の扉を開けたら店主に門前払いされたという体験談である。店主に門前払いをされる、というだけならこのお店に限った話ではない。お店が満席だったり、メニューが売り切れてしまったり、何らかの理由でお店に入れなかった、というのはよくある話である。

しかしこのお店の門前払いは他のお店とは少し違うらしい。口コミによると、なんでもお店が空いている時に行っても、顔を見て門前払いをされたお客さんがいるようだ。これまで僕は数々のお店を巡ってきて、門前払いされたことは何度もあるが、さすがに顔で判断されたことは一度もない。というかさすがに日本においては多くの人がそうだろう。加えて昨今は「ルッキズム」という言葉が生まれる時代。人を見た目で判断するということは近年ますますセンシティブになりつつある。この餃子屋さんは果たしてそんな時代に逆行するお店なのだろうか。


この餃子屋さんの調査を続けて、分かったことがもう一つある。
それは、この餃子屋さんが「ひとり飲み専用」のお店であること。
なんでも店内はたった5席しかないらしく、2人以上で来店しようとするお客さんは店主さんから門前払いされてしまうようだ。お店としては自身がひとり飲みのためのお店であることは頑張ってアピールを続けているようなのだが、なかなか浸透はしていないらしく、お店のルールを知らずに2名以上でやって来て断られる、というケースが続出しているらしい。

これを聞いて、

「誰かと飲みにいけないなんて、つまんねー店だな」

と思った人もいるかもしれない。
でも、ひとり飲みに普段から慣れている僕としては、「ひとり飲み専用」のお店と知った途端、

「おもしろそうなお店だな」

と思った。一体ひとり飲みの何がよいのか、についてはここでは省略するが、単純に僕はひとり飲みは好きだし、今まで調べた情報も含めてこのお店が他の餃子屋さんとは一風変わったお店であることはきっと間違いない。僕はこのお店に関心を持たずにはいられなかった。このお店を最初に知ったのはいつだかは忘れてしまったが、その時からずっと僕はこのお店をGoogleマップにピン留めしていた。



とある平日、僕はそのお店に向かった。このお店は土日祝日は営業しておらず、行けるチャンスは平日にしかない。この時点でそもそも平日に会社勤めしているサラリーマンにとってはハードルが高い。そしてそんなハードルが高いお店に顔審査があるのだとしたら、さらにそのハードルは高くなる。

お店は北千住駅西口を出て飲み屋街を4〜5分歩き続けると飲み屋街の端っこに見えてくる。食べログには北千住駅の地上出口から徒歩3分と書いてあるが、さすがに3分では着かないような気がする(※千代田線の1番出口に関しては地上に出てすぐの場所にお店がある)。


18時ごろ、お店の目の前にやって来た。外観を見た第一印象は、本当にやっているのだろうか?というものだった。店内の電気は点いており、中でお客さんが食事をしている光景がガラス越しに見えるのだが、窓にかかっている木札にデカデカと「準備中」と書かれているのだ。もしこの状態でお店の電気が点いておらず、お客さんもいない状態だったら「なんだ、今日はやってないのか」と思ってその場を後にするだけなのだが、木札には「準備中」と書かれているのに店内では普通にお客さんが何かしら食っている。木札の内容と店内の様子に矛盾があることで僕は混乱していた。

お店の外観

入店前からやはりこのお店は他とは違いそうだ、という印象を受けたわけだが、中にはお客さんがいるわけだし、断られたら断られたらしょうがない。とりあえず入ってみよう。と意を決してお店の扉を開けた。お店を見つけてから扉を開けるまでやや時間がかかってしまった。

お店の扉を開けると、50代くらいのママさんがこっちを見た。この人が店主さんだとすぐに分かった。僕は彼女に一人で来たことを伝えた。するとママさんはすんなりと

「どうぞ」

と言ってくれた。あまりにもすんなり入店できたので、僕はちょっと拍子抜けしてしまった。顔審査みたいなことはまったく起こっていない。

僕は空いていたカウンター席に腰を下ろした。僕の他には、50代くらいの太ったおじさんと、50代くらいの太ってないおじさん、あと30代くらいの外国人の男性が座っていた。お店はカウンター席のみで本当に5席ぐらいしかない。僕たちは狭い空間に横並びで座ることになった。

席に座ると、ママさんが

「何飲む?」

と僕に聞いてきた。この一言で、このママさんが結構フランクというか、砕けた接客をする人だなとすぐに分かった。僕はとりあえず生ビールを注文し、それを飲みながら店内の壁に貼られたメニューを眺めた。メニューを眺めていると、餃子以外にも結構豊富におつまみメニューがあるようだった。豚たんや燻製玉子、鶏肉の塩漬けなど、酒飲みにとっては魅力的なメニューがたくさん並んでいる。そのメニューが割と魅力的なラインナップだったので、僕は何を頼もうかすぐに決めることができなかった。ママさんから注文を急かされないかちょっと心配になったが、隣の太ってないおじさんがママさんとおしゃべりをしていたこともあってそんなことにはならなかった。

メニュー

僕がメニューを決めあぐねている間に、ちょっとした事件が起こる。僕の隣に座っていた外国人の男性が、悪酔いをし始めたのだ。彼は日本語はまだまだ勉強中、といった話し方だったが、ママさんや他のお客さんに絡み始めたのだ。当然僕にも絡んできて、自分が頼んだおつまみを無理やり僕に食べさせようとしてきたり、カウンターの上に置かれたナッツ(店主さんが料理に使うためのもの)を勝手に手にとったりと、ママさんもお客さんもその外国人の行動を放っておけないような状態になっていた。彼自身は酔いが回って楽しそうな顔をしていたが、ママさんは結構マジで怒っていたようで、

「You are finished!」
「Get away!」

といった激しい言葉を外国人に向かって放っていた。それでもその外国人は全然悪びれる様子はなく、悪酔いはエスカレートする一方だった。最終的に、その様子を
見かねた太ったお客さんが彼をほぼ無理やりお店から連れ出して(暴力的なことはしていない)、

「僕がコイツ別のお店連れてくんで!」

と言って2人でお店から出て行った。あの太ったおじさんが動いてくれなければ、僕は最悪の雰囲気で食事を進めることになっていたかもしれない。


外国人の酔っ払いがお店から出て行った後、ママさんが

「あ〜今日は失敗しちゃったわ」

と嘆いた。失敗、とはなんのことだろうかと思っていると、

「私ね、酔っ払いはこのお店に入れないようにしてるの。ほら、1軒目で飲んできたお客さんとかがウチ来てさらに酔っ払うと、ああやって他のお客さんに迷惑かけちゃうじゃない。だから私いつも入ってくるお客さんの顔見て判断してるのよ。この人は大丈夫そうかどうかって」

なるほど。そういうことか。北千住といえば東京屈指の飲み屋街。居酒屋の数が非常に多くハシゴ酒をする人も相当多い。だからこのお店にも他のお店からすでにできあがった状態でやって来るお客さんが多かったのだろう。ただここは「ひとり飲み」専用のお店。一人でしっぽりとお酒や食事を楽しんでいる中に、できあがった状態のお客さんがやって来たらお店の風紀が乱れてしまう可能性もある。つまりここのママさんは、お店で飲んでいるお客さんと自分を守るために、変なお客さんが入ってこないように入り口で顔審査をしているようなのだ。お店の入り口で門前払いをされたという口コミの謎が、ようやく解けた。


ママさんはその後はとても気さくだった。ママさんは上海出身の方で、

「ウチの料理、全部美味しいから」

と自信満々で僕に色々勧めてくれた。僕がお店に入ったときから席に座っている太っていないおじさんはこのお店の常連のようで、話を聞いてみるとママさんが顔審査をする、というのはこのおじさんにとっては常識のようだった。


店内がひとしきり落ち着いた後で、僕はようやく料理を楽しむことにした。
まずお通しとして注文した「枝豆と高菜の炒め」はいい具合にピリッとした辛さと枝豆の食感が心地よく、ビールのおつまみとしては最高の一品だ。ママさんが上海出身だからもっと異国風の味がするのかと思いきや、ちゃんと日本人の舌に合わせた味になっており、僕の箸はどんどん進んだ。

枝豆と高菜の炒め ¥400

続いて注文したのは燻製玉子。
燻製しているということで燻製らしい独特の香りがする。皿に乗っている燻製玉子は1つの玉子を半分に切ったものが2つ並んでおり、そのうち1個には味付けはしておらず、もう1個には自家製のオイルと黒胡椒がかかっている。異なる味で楽しんでもらいたいというママの粋な心遣いを感じた。

燻製玉子 ¥400

さらにかきの紹興酒漬けも注文。ママいわく、この日はこれが最後の一つだったそう。食べられてラッキーだ。

「最初はカキは食べずにスープだけ飲んでみて。美味しいから」

とママが言うのでスープから飲んでみた。本当だ。めちゃくちゃ美味しい。カキの旨味がこれでもかというほどスープに溶け込んでいる。このスープを水筒に入れて持って帰りたいぐらいだ。カキも味が濃いめで美味しく、ちびちびと食べ進めるのに打ってつけだ。

かきの紹興酒漬け ¥600

そしてここでメインである餃子を注文。僕が一番食べたかったメニューだ。5つ綺麗に並んだ餃子はそれぞれしっかりと焼き目がついており、少々丸っこい見た目をしている。

ママさんが、

「まずは餃子、何もつけずに食べてみて」

と言うのでそのまま食べてみた。正直言われなくてもそうするつもりではいたが。餃子を一つ、口の中に入れるとまずはカリッとした独特な食感を感じる。この独特な食感、というのは他の餃子のカリッと感とは少し違ったもので、餃子というよりかはスナック菓子のような柔らかいカリッと感である。この餃子の食感、おもしろいなぁ。そしてその餃子の中には肉汁たっぷりのタネが入っており、ニンニクは入っていないようだが十分にパンチのある味がする。何もつけずに食べても、十分美味しい餃子だ。  

1つ目を食べた後は、自家製の花山椒と食べるラー油、黒酢をかけていただく。これもまた絶品だ。花山椒の香りが鼻に抜けていく間にラー油のパンチのある辛さと黒酢の甘酸っぱさを餃子の肉汁が受け止める。これがとてもうまい。こんなに餃子が美味しいのだから、食べログで高評価になるのも納得である。

餃子 ¥650

料理は美味しいし、ママさんはとても気さくでその後入って来たお客さんも合わせてみんなで楽しく会話をしながら飲み続けた。最初は1時間ぐらいで帰ろうかと思って立ち寄ったけど、気づけば2時間ほど経っていた。最初に思った、他の餃子屋さんとは一線を画したお店だという印象は変わらなかったが、このお店が名店であることは間違いないだろう。

会計をしてお店を出ていくときも、ママさんは元気に見送ってくれた。この感じなら2回目も問題なく入れてもらえるだろう。ずっとGoogleマップにピン留めしていたお店は、とてもいいお店だった。僕は人生の宿題を一つ終わらせたような気がして、帰り道はなんだかご機嫌だった。


今回行ったお店

菜香餃子房
●住所:東京都足立区千住1丁目39
●アクセス:北千住駅西口から徒歩5分
●営業時間:17:00 - 23:00
●定休日:土・日・祝日
●支払い方法:現金のみ
●駐車場:なし


頼んだメニュー

●枝豆と高菜の炒め ¥400
●燻製玉子 ¥400
●かきの紹興酒漬け ¥600
●餃子 ¥650


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