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創業70年の貫禄まみれの餃子【餃子荘ムロ @高田馬場(東京都新宿区)】

餃子を食べるためにわざわざ予約をするなんて、いつぶりだろうか。

雨が降り続ける駅のホームで、僕は電話をかけた。電話に出たのは優しそうなおばちゃん。その後ろは、何やらそこそこ賑わっているようだった。

「明日、18時頃に1人で伺いたいんですけど、可能ですか?」

僕がそう言うと、おばちゃんは

「明日…たぶん大丈夫だとは思うんですけど……」

1秒くらいおばちゃんが無言になった。そして、

「万が一のということもあるので…」

とおばちゃんが口にした。
万が一、というのは一体何の万が一なのだろうか。僕は予約をしようと思って電話をかけたので、おばちゃんが言った万が一という言葉の意味が分からなかった。

「すみません、予約って可能でしょうか?」

僕がそうおばちゃんに言うと、

「予約……えっと、そうしましたらお名前よろしいでしょうか?」

とおばちゃんが言った。このおばちゃんは、もしかして電話に慣れていないのだろうか。僕はおばちゃんに名前と電話番号を伝えた。ちょうど駅に電車がやって来たりなどして外が騒がしかったため、おばちゃんは僕に何度か聞き返して来た。騒がしい環境で電話をかけてしまってちょっと申し訳ない。

「では、明日18時にお待ちしておりますね」

おばちゃんのその言葉で電話は終わった。その日はそのまま電車に乗り、家に帰った。



翌日、やって来たのは高田馬場。高田馬場といえばグルメでいえばラーメンの激戦区として有名なイメージがあるかもしれないが、個人的にはラーメン以外のグルメもかなり熱い町だと思っている。「とん太」や「ひなた」といったとんかつの名店も多いし、この日の昼は完全予約制のお店で絶品のアジフライを食べた。



18時前になり、昨日予約したお店に向かう。そのお店は「餃子荘 ムロ」。1954年創業の歴史ある老舗の餃子屋さんだ。今年は2024年なので、開店70周年ということになる。

Googleマップが指し示す場所に到着した。その建物はピンク色のネオンが光っており、とても創業70年の老舗とは思えない外観をしている。まずこのお店の見た目が予想外だ。

お店の外観

赤く染まったドアを開き入店すると1階のカウンター席はほぼ満席。一席だけ空き席があり、お店のおばちゃんに僕はそこに案内された。たぶん昨日電話したおばちゃんだろう。店内は老舗らしい雰囲気で、壁にもカウンターにもイスにも厨房にも年季が入っているような感じだ。さっきのネオンはなんだったのだろうか。ほぼ満席のカウンターは餃子とビールをアテに世間話で盛り上がる大人女子会や夫婦でしっぽりとしゃべっているお客さん、〆のラーメンを食べている一人客など、それぞれがそれぞれのお店の楽しみ方をしている。電話した時におばちゃんが言っていた「万が一」の意味が分かった気がした。

店内の様子

荷物を背後の窓辺に置き、席に腰掛ける。席の目の前には貫禄のある80代ぐらいのお父さんが立っている。その手元には白い粉がたくさんかかった大きなまな板と餃子の皮の山がある。なるほど。このお父さんが餃子を包むのか。お父さんの顔を見てその貫禄をもう一度感じ、このお父さんが作る餃子は間違いなく美味しいだろうと確信した。

メニューを眺め、目についた料理をひとまず注文した。最初の一杯は当然のようにビールにした。


注文を終え、店内を眺めていると壁に見覚えのある表彰状が飾られていることに気づいた。それは昔『とんねるずのみなさんのおかげでした』という番組で行われていた『きたなトラン』という企画に出演したお店だけがもらうことのできる表彰状だった。企画を軽く説明すると、とんねるずが「きたないけど美味い店」と言われるお店に行き、料理を食べたりお店の人をイジったりする番組の名物企画だ。昔大好きでよく観ていた番組が訪れた証が壁に飾ってあるのを見て僕は思わずシャッターを押してしまった。しかし僕はこのお店がそこまできたないとは思わなかった。

『きたなトラン』の表彰状

再び目線を落とすとやはり目の前に貫禄のあるお父さんが立っている。お父さんは基本的にはまな板の前でずっと突っ立っており、餃子の注文が入ると静かに餃子を包み始める。餃子を包みながら、お客さんが出て行く所を見るととても渋い声で「まいど」と呟く。このお父さんからは、餃子を200年くらい作り続けているんじゃないかと思うほどの貫禄を感じてしまう。

僕はインスタに投稿するリール用にお父さんが手元で餃子を包んでいる様子を撮影させてもらいたかった。でもこのお父さんの貫禄でなかなか話しかけることができない。話しかけようかどうか5分くらい悩んだ後にようやく、

「動画お撮りしてもいいですか?」

という言葉が喉から出た。お父さんは

「全然どうぞ」

と言ってくれた。こんなにあっさり快諾してくれるのかで心の中で驚いてしまった。僕はポケットからiPhoneを取り出し、録画ボタンを押した。画面の中で、皮をつかみ華麗な手つきでタネを包んでいく。僕はインスタをやってるから仕方なくこんな動画を撮っているけど、本当はこんなことはやりたくない。お父さんの手つきを肉眼で見ていたかった。

餃子を包むお父さん

5秒くらいで動画を撮り終えると、その後すぐにお通しが提供された。お通しはネギ味噌。ネギの辛さと味噌の甘さが心地良い。決して高級な味はしないけどむしろそこが良い。

お通しのネギみそ

お通しに続いてすぐやって来たのは腐乳という料理。豆腐の塩辛らしい。僕は腐乳という食べ物を食べたことがなかったのでどんなもんかと頼んでみたら思っていたよりすっごい小さくてその小ささに驚いてしまった。正直他のお店でよく見る冷奴ぐらいの大きさのものが出てくると思っていたら実際に目の前に現れたのはサイコロぐらいのサイズのお豆腐。200円だとこんなもんなんかね。戸惑いながら食べてみるとものすごく塩味が強い。塩辛というより酒盗に近いようなしょっぱさがする。これは酒が進むなぁ。

腐乳

腐乳に惑わされていると予想以上に早く餃子がやって来た。まずはそのまま食べてみる。おお、皮がパリッパリ。この食感がまずうめぇ。ニンニクが効いていない。たぶん入っていないのだろう。その代わりほんのりと異国の香辛料の風味がする。味としてはおだやかだが不思議とパンチのある味だ。ニンニクが入っていない餃子こんなにパンチのある味って出せるんだと思ってしまった。これが創業70年の実力ってことなのかな。美味いしビールが進む。この後チーズ入りの餃子を注文したがそちらも美味しかった。チーズがあることでよりタネの味と食感が強くなり、新たな美味さを生み出していた。見た目はふつうの餃子とほとんど変わらないものだった。

餃子

その後やって来た春巻きは餃子と違って結構大ぶりだ。皮はパリッパリで焼き加減が最高だ。タレを付けなくてもめちゃくちゃ美味い。タレはエビチリのソースみたいな少し粘度があるピリ辛ダレ。このタレも少し独特な香辛料の香りがする。タレを付けても付けてなくても美味い。レモンサワーが進む。

春巻き

「細切りレバーのレバー炒め」というレバーレバーしているメニュー名の料理は細切りのレバーをシンプルに炒めた一品。レバーがこんなに細切りになってるの初めて見たってぐらいレバーが細かい。味付けはかなりシンプルで塩胡椒だけなのかな?でも十分美味しい。皿に添えられたレモンとからしも名脇役になっている。レバーの山を箸で漁るとニンニクチップが入っていた。ここにはニンニク入ってんのかい。美味しいけど1人で食べるには少し量が多い気がした。

細切りレバーのレバー炒め

チャーハンは割とオイリーで結構しっかりと炒められている感じがするがちゃんとパラパラしている。塩胡椒の味はそんなにしない。ちょっと油の味が強過ぎて後で胃もたれしないか心配な感じはした。さらにチャーハンにはニラや玉子、きくらげが入った中華スープが付いてくるのだがこのスープはかなり薄味だった。今すぐ塩胡椒ぶっかけたいぐらい薄味だったが卓上調味料は何もないのでどうすることもできなかった。偉そうな言い方かもしれないけどこのお店はこのチャーハンとスープだけ惜しかったな。ここまで食べて結構お腹いっぱいになったし、会計をすることにした。

チャーハン
スープ

会計は4800円。このお店の食べログには予算が¥2000〜¥3000と書かれていたので、1人にしては結構使ってしまったのだと思う。お店を出て行く時、お父さんがしっかりとこちらを見て「まいど」と言ってくれたのが嬉しかった。この「まいど」を聴きに来るためだけにもう一度このお店を訪れても良いとも思った。

良いお店だった。


今回行ったお店

餃子荘ムロ
●住所:東京都新宿区高田馬場1丁目33−2
●アクセス:高田馬場駅から徒歩2分
●営業時間:17:00~22:00(L.O.21:30)
●定休日:日曜
●支払い方法:現金のみ
●駐車場:なし

お店のHPはこちら


頼んだメニュー

●餃子 ふつう ¥700
●餃子 チーズ ¥750
●春巻 ¥600
●細切りレバーのレバー炒め ¥750
●腐乳 ¥200
●チャーハン(スープ付き) ¥950

※ドリンクは省略


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