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山手線沿いで「ホワイト餃子」の技術を継承する店【ファイト餃子 @巣鴨(東京都豊島区)】

東京都豊島区は巣鴨。「おばあちゃんの原宿」というフレーズが有名な町だ。巣鴨には何度か足を運んだことがあるが、たしかにおばあちゃんの姿を多く見かけたような気がする。

ある日インスタを見ていたら、この「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる巣鴨の町に、ちょっと変わった餃子があるという情報を得た。そのお店の名前は「ファイト餃子」。店名からしてちょっと変わっている。「ファイト」という名前が付いているということは、お店に行ったら何かと戦わされるのだろうか。僕は格闘技経験はゼロなのだが、果たしてお店に行っても大丈夫なのだろうか。

家を出る前に、お店のことをもう少し調べてみることにした。この「ファイト餃子」は、なんでも「ホワイト餃子」の系列の一つらしい。ではこの「ホワイト餃子」とは何なのか、という話をすると、千葉県野田市に本店に構える餃子専門店で、ここで作られる餃子は一般的な餃子とは違った丸っこい見た目をしており、揚げ焼きをして作るその餃子は他の餃子のパリっとした食感とは違った独特な食感を生む。擬音で表現するなら、食べ始めにまずパリッではなくカリッとした食感を感じ、その後モチっとした食感がやって来る。文章でその独特な食感を表現するのはまあ難しいわけだが、とにかく他の餃子とは一線を画した個性的な餃子といえるのは間違いない。そしてそんな「ホワイト餃子」の野田本店で修行をした人が関東中心の各地で独立してオープンしたお店のことを「ホワイト餃子」系列のお店と呼んでいる。


少し話が逸れるが、僕はその「ホワイト餃子」系列のお店の中で、特に好きなお店がある。それは神奈川県相模原市にある「ギョウザの萬金」というお店だ。ホワイトの「ホ」の字もない店名だがここも立派なホワイト餃子の技術連鎖店。僕はここの餃子が昔から大好きで、ただでさえ餃子自体からパワフルなニンニクの風味がするにもかかわらず、そこにさらに卓上に置いてあるおろしニンニクをぶっかけてニンニクマシマシ状態で食べるのがたまらなく美味しい。まさに背徳的な美味さがするのだ。僕の中で「ホワイト餃子」といえばその「ギョウザの萬金」の餃子の味を思い浮かべる。


話が逸れた。「ファイト餃子」がホワイト餃子系列のお店であることは分かったが、それでも何かと戦わされるかもしれないという懸念は消えなかった。そしてそんな気持ちのまま巣鴨までやって来た。この日も、おばあちゃんの姿は多い気がする。ひょっとしたら「おばあちゃんの原宿」というフレーズに引っ張られて自分の視界におばあちゃんバイアスがかかっているのかもしれない。おばあちゃんたちに紛れて、身長180cmの若者が巣鴨の中心の地蔵通り商店街を歩く。自分が若者と言っていられるのも今のうちだけなのだろう。

その「ファイト餃子」は、地蔵通り商店街から一本裏路地に入った場所にある。Googleマップに従って進むと路地に入ったところですぐに分かった。朱色の看板に大きく「ファイト餃子」と書かれている。看板の色からしてファイト感のある店だ。脳内で『ロッキー』のBGMが流れ始める。そしてその朱色の看板以上に衝撃を受けたのが、お店の前にできている長蛇の列。こんなに人気なお店なのか。並んでるお客さんは幾度もこのお店に訪れていそうなおじいさんから、地雷メイクをしてニーハイを纏ったいわゆる「地雷風女子」まで、まさに老若男女問わずといった感じだ。その最後尾に僕も並び始めた。僕の前には、20代前半くらいのカップルが並んでいた。僕はその時彼女が持っていたカバンを見て、このお店は熱いファイターの心を持って行かないといけないお店ではなく、サマンサタバサのバッグを持ってサクッと立ち寄って良いお店なのだと分かった。

お店の外観

僕が並び始めた時は10人くらい外に並んでいたが、意外と回転が速いお店のようで10分くらい待っていたら入店できた。頭巾とエプロンに身を包んだ可愛らしいおばあちゃんが店内にご案内。そのおだやかな声とは裏腹に彼女は店内で忙しくなく動き回っている。もう結構な年齢に見えるのに、元気だなぁ。

僕が案内されたのはカウンターの一番の奥の席。一人で写真を撮りながら食事をするのに一番恥ずかしくない場所だ。席に座ってさっそくメニューを眺めた。このお店のメニューはシンプルで、「ギョーザ」「餃子定食」「チャーハン」「ザーサイ」のみ。あとは餃子定食の餃子の個数を8個、10個、16個の中から選べば良いだけ。チャーハンと餃子4個がセットになったセットメニューもある。よくある町中華と違ってここは餃子専門店。回鍋肉やチンジャオロースといった町中華の定番メニューは存在しない。この「ファイト餃子」は、ホワイト餃子系列のお店では唯一、チャーハンを提供するお店のようだ。つまりチャーハンも名物ってことだな。だったらチャーハンも食べたい。そんな僕の思いを叶えるメニューはチャーハンと餃子4個のセットメニューになるが、餃子たった4個で果たして僕の餃子腹は満たされるのだろうか、という思いが生まれて来た。僕はホワイト餃子系列のお店での餃子は8個がスタートラインだと勝手に思っている。このチャーハンセットだと、その半分しか食べられない。きっと、足りるわけがない。そう結論づけた僕はチャーハンセットではなく、チャーハンの単品と餃子8個を注文した。注文を受けてくれたおばあさんはまた忙しない様子で厨房の方へと戻って行った。

メニュー

店内は満席の大賑わいで、他の席で餃子を食らうお客さんたちを眺めながら待っていたら、5分も経たないうちに僕の元に餃子が運ばれて来た。ホワイト餃子系の名物、丸っこくて可愛い餃子だ。それが皿一面に敷き詰められている。皿一面に…と思っていたら僕はここであることに気づく。あれっ、この皿の上に餃子10個乗ってない?

僕は指を使って餃子の個数を1, 2, 3…と数えていった。3回ぐらい数え直したが、やはり10個ある。さっきおばあちゃんに8個と伝えたはずなんだけどな…おばあちゃん、注文取り間違えちゃったのかな?それともこのお店は8個頼んだら2個サービスするなんていうファイティングなサービスをやっているお店なのか?とも思ってしまった。とにかく少し戸惑っていた僕はお店のおばあちゃんに自分のもとに餃子が10個来ていることを伝えようと思って店内を見回したが、相変わらず店内は大盛況でおばあちゃんは忙しそうに動き回ってる。そんなおばあちゃんの姿を見て、僕はこの10個の餃子を食べることに決めた。ここでおばあちゃんを呼び止めてもう一度作り直してもらうのもなんかなぁ、と思ってしまったからだ。

餃子10個

悩んでいる間に餃子が冷めてしまってはもったいない。さっそく餃子を一つ箸で掴み、まずは何もつけずにいただいてみた。口に入れると、ホワイト餃子系列でお馴染みのカリッと感、モチっと感がある食感が訪れる。ただ予想していたよりもカリッと感は少なく、どちらかというとモチっと感の強い餃子だ。タネは肉が多めで、ニンニクの風味は少ない。意外とあっさりした味だ。慣れ親しんだ餃子の味とはちょっと違うような気がした。

今度はタレに付けて食べてみる。タレはおばあちゃんが持って来てくれた小皿に卓上のラー油、醤油、お酢を使って自分なりに作るのが定番。僕は普段餃子のタレを作る時は少しだけお酢を入れるのだが、ホワイト餃子系列のお店に来る時だけはいつもお酢は使わず、ラー油と醤油だけでいただくようにしている。お酢がない方が、個人的に美味しいと思うからだ。そんなこだわりの自作ダレに餃子を付け、食べてみる。うん。やはりタレ付きの方が美味い。だがニンニクの風味が少ないせいか期待していたほどのパンチはない。タレを付けて食べても慣れしたんだあの味からは少し遠い気がした。美味しいんだけど、ちょっと違うのよ。これはきっと好みとこれまでのバックグラウンドが影響している気がする。

続いてチャーハンが登場。チャーハンは思っていたよりも量が多くなく、見た目は少し黒っぽいというか若干グレーに染まっている。ちょっと変わったチャーハンだ。口にしてみると、少しオイリーだ。チャーハンの中央には細かくパラパラになった玉子が乗っており、その食感はフワフワ。しかし玉子とご飯別で炒めているのかな?ってぐらい玉子から味がしなかった。これも、美味しいんだけど自分のツボにストレートでハマらない、といった感じがした。あと、この餃子には味付きのご飯よりも白米の方が合うんだな、とも思った。

チャーハン

チャーハンには味噌汁がついてくる。えっ、味噌汁なんだと思ってしまった。ホワイト餃子系といえばわかめスープやたまごスープがあるものだと思っていたけど、ここはどうやら味噌汁らしい。そもそもチャーハンとセットで味噌汁が出て来るお店ってのもなかなか珍しい気がする。ちなみにこの味噌汁、めちゃくちゃ熱かった。

味噌汁

おばあちゃんがおそらく間違えて持ってきた10個の餃子とチャーハンを食べ切り、お腹いっぱいだ。ボリュームはそこそこある。美味しかったは美味しかった。でも例えが変かもしれないが、ここの餃子は慣れ親しんだ味とちょっと違ったことで、まるで異国の料理を食べているのに近いような感覚になった気がした。日本の餃子が大好きな人が、本場中国の餃子を食べた時に「なんか思ってたのと違うなぁ」と思ってしまうような、あの感覚である。もし僕が他のホワイト餃子系列のお店を知らない状態でここのお店に訪れていたらおそらく感じなかった感覚だろう。餃子のクオリティは決して低いわけではないので、初めてホワイト餃子を食べる人は純粋に美味しいと思える人も多いはずだし、見た目も個性的でSNSで話題になるのも分かる。

食べ終えた後はレジにてお会計。お会計する時はちゃんと餃子10個分とチャーハン分の金額を支払った。その時に初めてお店のおばあちゃんに

「餃子、10個来てましたよ」

と伝えた。おばあちゃんはビックリしていた。そりゃそうか。おばあちゃんが間違えてくれたおかげで思ってたよりいっぱい食べられたよ。ありがとう。


お店を出ると、外では相変わらず行列が続いていた。さっきのおばあちゃん含めてこのお店の人たちはしばらくこの行列とファイトし続けるのだろう。このお店で一番のファイトを見せているのは、お客さんではなく店員さんなのかもしれない。


今回行ったお店

ファイト餃子
●住所: 東京都豊島区巣鴨4丁目23−6
●アクセス: 巣鴨駅から徒歩12分
●営業時間:

[平日]
11:30~14:00 (13:30 LO)
17:00~20:00 (19:30 LO)
[土日祝]
11:30~14:00 (13:30 LO)
15:30~(売り切れまで)

●定休日: 月曜・火曜
●支払い方法: 現金のみ
●駐車場:なし


頼んだメニュー

●ギョーザ 10コ ¥700
●チャーハン ¥840


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