白い滑走路と荒れたメイク道具
ここ数年、基本的に引きこもり生活です。
マスクとノーメイク、そこへ帽子を目深に被って近場を歩きます。
美容院へ行くのは、人に会う予定を見据えてのものです。
人と言っても、家族や古い友だちに会うときは、
まったく気を使わないので、日頃のまんまの状態で会います。
もちろん最低限の準備はしますよ。
と言っても日焼け止めとBBクリーム、申し訳程度の眉毛を書き込むという
簡単なものです。
人に会うために美容院へ行くような
気合を入れるような人に会うことは、かなり稀なことでした。
ある日、古い友人に会いました。
待ち合わせのコメダ珈琲で、帽子を取ると、友人は
「あんたそろそろ白髪にしてみたら。」と言いました。
その顔は半笑いでした。
ちなみに友人は60代ですが1度も髪を染めたことのない人で、
黒々とした髪の持ち主でです。
次の日、母が突然
「あなた白髪にしてみたら、きっと似合うよ!」と言いました。
実は私の弟は40半で真っ白な頭でした、つまり若白髪の家系なので、
おそらく単なる気まぐれだと思います。
流石に2日連続で、白髪にしたらと指摘されたので、
改めて頭頂部を鏡に映してみました。
すると真ん中の分け目を中心に、左右2センチ✖️2センチの
白い滑走路のような白髪が伸びていました。
あゝこれは酷い・・・
もう面倒臭いから、毛染めを止めて、真っ白にしてみようかな、
そうなると家計は断然優しくなります。
少しばかりのケチ根性を抱き
美容師の友人に相談をしてみました。
「これから1年半ぐらい、白髪の滑走路が広がっていくのを我慢できる?
これかなりのストレスだと思うよ。」
1ヶ月で約1センチのペースで白髪が伸びていくので
全てが白髪になるまで、1年半はかかると言われました。
あゝそれは辛い・・
「いまウチのお客さんで、
90歳の方が毛染めをやめて白髪に移行するって頑張ってるよ。」
ということは89歳まで毛染めしていたんだ!?
女性は人知れずこんなにも面倒臭い毛染めをしているのです。
男性が考えるよりコストをかけているのです。
「諦めます。いつも通りに毛染めをお願いします。」
私はあっさりと白髪を諦めました。
カレンダーを見たら
相談室の関係で、人前に出る予定が幾つか入っていました。
長い引きこもり生活から、いよいよ外の世界に出る時期がきたようです。
化粧品入れている箱には、古ぼけたメイク道具が無造作に放り込まれていました。マスカラがカスカスに乾燥していました。
口紅も何年もキャップを開けた形跡もありません。
荒れ果てたメイク道具は
潤いなく生きてきた私の月日、そのものでした。
新しい出会いのために
髪を染めて、ちゃんとメイクしてみよう。
私の中に
心の張りが生まれていました。
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