【観劇】我々は『夏アニメーション』に触れ、この夏の勝者となった
私は間違いなくとんでもないものを見た。
盛夏火vol.2『夏アニメーション』。団地で行われる演劇だ。
全8回公演、ループ割ありの「夏」をテーマにした作品。
Twitterで初日を観た人の「あのアニメ」という単語。
いやまさか、と思った。
違うよな? と思った。
温宮ハルキ、キョンキョン、夜比奈みちる、新泉三樹、長田優希……
まさかまさかだった。
どっかで聞いたことのある役名だ……と思いつつ聞いていたら
彼らのサークル名(集まりの名前)は505団だし、
挙句の果てにはスタッフ。
超監督:金内健樹
いや、もう涼宮ハルヒじゃん!!!!!!!!
登場人物は男女逆転の涼宮ハルヒだし、ストーリーは主人公・ハルキの意志によって夏が繰り返されていく……という内容。
めっちゃエンドレスエイトだった。
しかし、一応前提として私はエンドレスエイト未見である。
なので、あの時感じた「めっちゃエンドレスエイトだった」は概念としてのエンドレスエイトだ。
『夏アニメーション』は団地で公演を行う男女逆転のエンドレスエイトだったのだ。
だが、エンドレスエイトは正直あまり評判のよくない作品である……というか、作品の性質上仕方がなかったとはいえ、同じ内容の放送を何度もして、炎上すらしている。
そう、エンドレスエイトの評判はあまり良くない。(二回目)
(※ただしカルト的な人気があるのもエンドレスエイトだ。エンドレスエイトが好きな人、ごめんなさい。)
なので、団地でエンドレスエイトをそのまま行ったら非難されること間違いなしの作品なのだ。
しかし、Twitterを見ても『夏アニメーション』は絶賛の嵐だ。一人「気持ち悪い」と言っている人間を除けばほぼ肯定されている。
というか、その「気持ち悪い」と言ったのは私なのだが、この「気持ち悪さ」はこの作品を語るに於いて絶対なのだ。
その「気持ち悪さ」はきっと、綺麗なのだ。素敵なのだ。ドロドロなのに抜けるように青い空の色で、夏のにおいがする。ちょっと汗のにおいもするけど畳のにおいが打ち消して、不思議と嫌じゃない。蝉のがする。自転車の車輪の回る音もする。カルピスが氷に溶けるカランという音が一度聞こえる。
この作品は「気持ち悪く無ければ駄作だった」と言い切れる。
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小田急線の各駅停車に揺られ、祖師谷大蔵の商店街を曲がった少し先。そこには聳える冗談みたいにさび付いた団地があった。
令和という時代に取り残され、人の魂を喰らわんかの如く、ぽっかりと空いた洞(うろ)のような場所だ。
冗談でも「賑わっている」場所ではない。うっすらと死の匂いがする。
「遺物」とでもいえばいいのだろうか。
田舎である茨城から来た私でも驚くぐらい、蝉の音が煩い。
少し、「怖い」と思った。
年輪の代わりに黒ずんだ階段を登り、おそらくリフォームで無理やり塗装されたピンクのドアを開ける。
そこは、間違いなく「団地」だった。
子供の頃、ませた友達の家が団地にあった。まだピカピカだった頃の団地とは違い、少し古びた過去の匂いのする家だ。
そういえば、涼宮ハルヒの初回放映は10年以上も前のことだった。あの輝かしいアニメも、もうずっと前のものなのだ。
話は逸れるが、私は同年に放映された「ゼーガペイン」を観たことをきっかけに、アニオタへの道を爆走することとなる。同じループものである。
もう、10年以上が経過している。
きっと、私の愛したアニメたちも、こんな匂いがするのだろう。
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創意工夫と超監督・金内氏の「夏」への執念と夏の団地がかけた魔法があった。
あの空間で見せられたものによって、私たちは、この夏の勝者となった。
それは魔法と言わずになんといえばいいかわからない。
『夏アニメーション』を観れば、ちょっとぐらい嫌なことがチャラになってしまう。
犬のウンコを踏んだぐらいなら余裕でチャラだし、なんなら彼氏と別れたぐらいならもしかしたら帳消しにしてくれるかもしれない。
それぐらい、素晴らしいものだった。
内容は秘密にしてもいいだろうか。
超簡単かつ乱暴に「エンドレスエイト」と説明したが、きっと金内健樹さんの特別な何かが詰まっていた。
きっと、あれは『10年前の真夏の冷凍庫』だったに違いない。今よりも熱くない夏。今よりも性能の劣る冷蔵庫に詰められた、少し溶けた10本入りのアイスや、麦茶のためにありったけの氷。
そしてなぜか大切に畳まれて入った風鈴が。入道雲を隠す白いレースのカーテンを背景に。
『小学四年生の夏休みは一度きりなんだから』
ずっと覚えているセリフがある。多分カブタックかロボコンだ。ニチアサの平成ライダーが始まる前の特撮の次回予告だ。
ああ、ずっとあそこに居たい。蝉しぐれを背景にした、『令和元年のあの団地』にいたい。
きっと8月が終われば9月になり、10月になって11月になる。
時計は振り向かない。今日はすぐに想い出になる。
そんな当たり前のことを、金内健樹さんは誰よりも、誰よりも悲しんでいたのではないだろうか。
あぁ、秋の音がする。
おなかの辺りがきゅんとするような寂しさを覚えた。
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公演とは関係ないが、その日は目一杯予定を詰め込んでいた。
人と会う、観劇、人と会う。私は東京に行っても多くて2つぐらいしか予定を詰め込まないが、今回は違った。
くたくたになった翌朝、YouTubeで久しぶりに『長門有希 キャラソン』と検索した。
「あれ、こんないい曲だったっけ」
涼宮ハルヒという作品は不思議だった。
私自身は「よ、よくわからん……」と思いつつも、数々のオタクたちが長門有希の魅力にのめりこみ、男性向けの「萌え」系アニメにも関わらず、古泉くんとキョンのBLが流行った。
みくるちゃん派だった私は、オタクの友達8割が言った「長門は俺の嫁」という言葉を聞き流し、モバゲータウンで知り合った古キョンの人の熱弁もうんうんとよくわからないまま聞いていた。
あの頃のアニメキャラ達が、私に手を振っている。
あんなに新しくてかわいいと思っていた子たちの絵は、時代の距離によって褪せて、ありきたりから少し外れた「古い顔」になりつつある。
私たちの距離は、少しずつ少しずつ遠くなっていく。靄がかかって遠くなって、「おーい」と手を振るかわいい声が少しずつ聞こえなくなっていく。
そんな思い出の扉が開かれた、夏の特別な日。
私は間違いなくこの夏の勝者だった。
金内健樹さんに、盛夏火の皆さんに夏が終わるその瞬間まで拍手を贈りたい。
夏が終わりたくない人はぜひスキ(♡)と盛夏火へのご興味を。
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