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退路を断って単行本執筆期間中、手持ちの生活費を使い切ったライターが生活保護を受けたときの話-2

前回の続きです。

↓派遣村に出向いて社会党の方に生活保護申請の付き添いをお願いしました

本編に入る前に、生活保護という「制度そのものには」一切ケチを付けるつもりがないこと、単純に現場の運用の仕方が「あぼーん」な自治体があるので気をつけましょうと言いたいだけ、ということを明記しておきます。

生活保護制度自体は必要な制度です。
しかし予算を抑えたい自治体と「健康で文化的な(最低限度の)生活」をしたい利用者の間にミスマッチがあることは知って頂きたいです。


●ライターが生活保護を受けるとき、どんなことが起こるのか?

 生活保護というセイフティーネットは勤め人が失業したり、経営者が会社を倒産させるなどして生きていく縁(よすが)をなくした場合を想定して制度設計されています。
 つまり「自営業者が基準値に満たない収入を補うため、仕事を続けながら生活保護を受給する」というケースは想定されていません。今回のコロナ騒ぎのように、未曾有の事態に巻き込まれ収入が途絶えた自営業者は、おとなしく廃業することが社会復帰への前提となっています。

「食べていけないんだから、ライターをやめなさい」。
 これが生活保護を受けるとき、ライターが直面する社会からの要請です。

 ……いえ、本当はちがいます。
 今回この記事を書くために調べなおしたところ、じつは自営業者が仕事を続けたまま生活保護を受けられることを初めて知りました

 上記の記事は俳優のいしだ壱成さんが生活保護を受けていたことに関する記事です。
 いしださんは芸能活動をつづけながら生活保護を受けていたそうです。
つまり自営業を続けながら生活保護を受けることは認められています。こんなこと、僕のケースワーカーは教えてくれませんでした。


 現場で働くケースワーカーはこの事実を知らないのでしょうか?
 それとも「何でも良いから、予算を圧縮するために働けそうな奴は全部適当な職場に押し込んでしまえ!」と考えているのでしょうか?

 少なくとも僕を担当したケースワーカーは、「個人事業主が働きながら生活保護を受ける」というケースを想像さえしていなかったようです。
このエントリーの骨子は社会(お役所)からの「ライターを辞めて大人しくフルタイムで体を動かすお仕事をしなさい!」という要請との戦いを、知っていただくことです。


●月々いくらもらえたのか?

 さて本題にはいる前に、生活保護を受けるとどんな生活が待っているのか金銭面から見ていきましょう。

 生活保護を管轄しているのは国ではなく自治体です。
 あなたの住む市区町村の福祉課などが窓口です。

 月々の支給額は自治体ごとに若干異なるようですが、僕の住んでいる横浜市南区の場合は住居費込みで13万円でした。
 ただし僕は分譲マンションに住んでいるため住居費の支給がなく、月々の手当は8万円でした。

 さてここでひとつ問題が発生します。
 いまこれを読んでいる方で、ローンの返済をしている方はいますか?
当時僕はキャッシングなどの返済で月々1万数千円を支出していました。
 当たり前の話ですが、生活保護を受けていても返済金の猶予は行われません。つまり月々の生活費として使える金額は6万数千円しかありませんでした。

 しばしば「借金があると生活保護は成り立たない」と言われるそうですが、実体験として納得できます。
 巨額の負債を抱えていれば自己破産できます。
 しかし「月々1万円台のローンの返済がキツいので自己破産」ってあり得ませんよね?
 特に僕の場合はその年の10月になったら印税が支払われ、生活保護が打ち切られるのが確定していましたから尚更です。

 月々8万円というキャッシュフローの小ささに対して1万数千円という定期的な支出はかなり深刻な事態を招きました。
 仮に毎月の食事を3万円台に抑えたとしましょう。
 そこに光熱費や通信費を加えるとどうなるでしょうか?
 僕の場合はこれだけで5万円台半ば、下手をすると6万円近くなります。
自由に使える残金は、1ヶ月で5千円程度でした。

 江戸時代の言葉で「百姓は生かさぬよう殺さぬよう……」という慣用句がありましたが、まさにそんな感じです。

 しばしば不正受給の文脈で「生活保護受給者がパチンコ屋に入り浸っている」と報道されますが、僕個人の感覚として「どこをどうするとそんな余裕が出てくるんだ?」と不思議でなりません。


●自分の仕事のことしか知らないケースワーカー

 次に知っていただきたいのがケースワーカーの対応です。

生活保護は社会復帰を前提とした制度です
(少なくとも僕はそう理解しています)
 手助けするためのサポート役として、役場の担当者がケースワーカーとして毎月受給者の自宅を家庭訪問します。
 自分で撒いた種とは言え、あまり気持ちの良いものではありません。

 僕の担当になったのは20代の女性でした。
 見るからに新人という感じで、初々しいのは良いのですが、驚くほどなにも知らなくて困りました。

 特に閉口したのは「派遣」に対する認識です。

 書籍の執筆に取りかかっていた当時、僕はクリエイティブ専門の派遣エージェント/製作会社である「クリーク&リバー社」(以下「C & R」)からの業務を中心に仕事をしていました。
 書籍執筆を始めたのはC & Rのいくつかあった仕事のうち、もっとも比重の高かったものを切られたのが動機のひとつになっています。

 C & Rのレギュラー仕事のなかには業務委託もあれば、1〜2ヶ月程度の短期間オフィスに常駐する案件もありました。要するに派遣です。ITエンジニア業界では派遣業務が頻繁に発生しているようですが、ライター業界にも派遣業務は結構あります(なぜかSNS上では見かけないのですが……)。

 僕が最後にC & Rでやったのはまさに派遣案件で、日本の上場企業の基本情報や業績、株価の動きなどをまとめた定期刊行物の校正業務でした。

 その話を件のケースワーカーさんにしたのですが、「毎朝早い時間に事務所に集合して集団で出勤するんですよね?」などと頓珍漢な確認をされました。
 肉体労働の日雇い派遣と区別が付いていないのは明白です……。
 派遣でオフィスワークをやった人なら分かると思いますが、社員同様、会社に直行してタイムカードで出勤管理するところが多いですよね?

 だから言いました。
「篠原涼子の『ハケンの品格』っていうドラマ知っていますか?」。
「ハケンの品格」はこの当時から遡ること2年くらい前のテレビ番組で、スーパー派遣社員という設定の篠原涼子が正社員以上の働きで大活躍するお仕事ドラマです。
 僕は観ていませんが、篠原涼子が毎朝派遣事務所に立ち寄る場面があったとは思えません。

 そう説明したところ、彼女は目を輝かせながら言いました。
「知らないことも多いので、いろいろ教えてください!」

 なぜ受給者がケースワーカーの教育をしなければいけないんでしょうか……?
 つーか、そういうことは職場の先輩に訊いてくれ。
 正直脱力感でいっぱいになりました。

 この彼女は毎月うちにやってきます。
 そうして毎回言うのです。
「檀原さん、仕事を探しましょう」。

 彼女の言う仕事というのはファクトリーワークとか警備とか土木作業とか、いわゆる「体を動かすお仕事」です。
 端っから「生活保護受給者の職探し=ブルーカラーの仕事」と決めつけて疑わないのです。
 たぶん彼女だけでなく、ほかのケアワーカーも同じだと思いますが、どうでしょうか?

 この時点で僕はまだ廃業していませんし、現在に致るまで波はありましたがライター仕事を続けています。
 しかし彼女の手に掛かると、廃業して作業服を着る仕事に追いやられそうでした。

「文化的な最低限度の生活」
「職業選択の自由」
 そんなお題目は幻です。

●今回のまとめ

今回の内容をまとめると

持ち家がある場合、生活保護の月々の支給額は8万円
ローンがある人は、生活保護を受けると生きていけない
法的には自営業を続けながら生活保護を受けられるはずだが、現場レベルでは想定されていない
職を探せとプレッシャーを掛けられるが、業種はブルーカラーに限定される
ケースワーカーは自分の業務のことしか知らない。本来的なケアを期待してはいけない


●つづき、読みたいですか?

 ……その後の流れに関して回を改めて書こうと思うのですが、みなさん読みたいですか?

全5回くらいになる予定。

次回は発売した本の宣伝をしたいが、宣伝費を経費として認めない役所との戦い!

 皆様からの反応をみて、つづきを書くかどうか考えます。


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