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vol.28 3.11に考える常若の精神

はじめに

今日は3月11日。まず始めに、東日本大震災で亡くなられた方々への深い哀悼の意を表し、被災されたすべての方々に心からのお見舞いを申し上げます。また、2024年1月1日に能登半島を襲った地震により、被害を受けられた方々とそのご家族にも、心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。

今から13年前のこの日、14時46分に日本は未曾有の災害に見舞われました。この自然災害は、多くの人命を奪い、福島第一原子力発電所に深刻な被害をもたらしました。今もなお、その影響に苦しむ人々がいます。さらに、能登半島も新たな震災に見舞われ、その復興の道のりはまだ続いています。

私はフリーランスになった後、一度福島県富岡町を訪れました。そこでは未だ復興の過程にある地域の厳しい現状を肌で感じるとともに (東京電力廃炉資料館)、色々な人々がチャレンジし、新しい息吹をもたらしていること (富岡のワイン) も目の当たりにしました。

日本は古来より震災の多い土地でありますが、そのような中でも、変わるものと変わらないもののバランスを見極め、生き続ける知恵と強さを培ってきたように思います。

この記事では、変わりゆく状況に対応しながらも、変わらない核心を保ち続ける日本の価値観を見つめ直し、私たち自身の生き方についても考え直す機会としたいと思います。


1 常若の精神とは何か?

みなさまは「常若の精神」という言葉をご存知でしょうか? 常に新鮮で若々しい状態を保つという日本古来の価値観です。この考え方は、変化を受け入れ、時代とともに進化することの重要性を認識しつつも、本質的な価値や伝統を守り続けるというバランスに基づいています。この精神の背景には、自然のサイクルや四季の変化に深く根ざした日本の文化があります。我々は長きにわたり、自然界の変化 (厳しい変化、例えば震災を含む) を受け入れ、それを生活の中で価値あるものとして取り入れる方法を学んできました

伊勢神宮の式年遷宮は、常若の精神を象徴する最も顕著な例の一つです。

20年ごとに神宮の主要な建造物を新しく建て替えるこの儀式は、1500年以上にわたって続いています。この伝統は、物理的な建物を新しくすることによって、神聖な場所を常に清新で若々しい状態に保つという意図があります。同時に、古い建物の材料を他の神社で再利用することで、過去とのつながりを保ちながら新たな命を吹き込むという、変化と継承の美しいサイクルを体現しています。

先日、村上隆さんの『村上隆 もののけ京都』へ足を運びましたが、この個展はまさに同精神を体現しています。伝統美術とポップアートの融合を通じて、新旧のバランスを保ちながら、常に新鮮な視点を提供してくれていると感じました。

このように、常若の精神は、日本の社会や文化の様々な側面に深く根付いています。変わるべきものと変わるべきでないものの間のバランスを見極め、適応しながらも本質を守り続けるこの精神は、日本人の生き方や価値観に大きな影響を与えています。

2 法人と常若の精神

法人における常若の精神は、パーパス経営を中心に展開されます。パーパスは企業の核となる価値観であり、変わらないものとして位置づけられます。これらは企業が長期にわたって持続可能な成長を遂げるための指針となり、従業員や顧客、社会全体との関係を深める基盤となります。

一方で、戦略やマーケットポジション、事業ポートフォリオの柔軟な見直しは、変わるものとして位置付けられるでしょう。市場の変化、技術革新、消費者ニーズの変動に迅速に対応するためには、絶えず環境を分析し、戦略を調整する必要があります。

東京証券取引所によるPBR改革におけるバランスシート改革をその例として考えてみます。

出典: 投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例

企業は自らの持ち物 (バランスシートに列挙) を定期的に点検し、パーパス (変わらないもの) を達成すべく、将来に向けてその中身 (変わるもの) を入れ替えていくこととなります。

少し古い記事となりますが、我が国を代表する会社においても常若が取り上げられています (トヨタ生産方式とモビリティカンパニーの対比)。

3 個人と常若の精神

個人においては、自分の軸を持つことが常若の精神の基盤となります。この軸は、他人の評価に左右されず、自己の価値観や信念を守る変わらないものです。自己の核となる価値観を持つことで、人生のさまざまな変化に対してもブレることなく、自己実現を目指すことができます。

その中でキャリアの形成は変わるものとして捉えられます。何を学び、どのような経験を積むかは、時代の流れや個人の成長、そしてライフステージに応じて変化するからです。

環境変化にあわせ、自分の軸を保ちつつ、自身のバランスシートを棚卸し、新しいものへと入れ替えていく必要があるといえるでしょう。例えばリスキリングやリカレント教育といった学び直し、あるいは社内での部署移動、転職あるいは副業は、絶えず変化する社会や職業世界に適応するための機会となり、個人のバランスシートを新しいものへと変化させる手段となることでしょう。

学び続けることを若さにつなげる点は、時代や国は違えど同じ原理原則かと思います。

二十歳であろうが八十歳であろうが、学ぶことをやめた者は老人である。学び続ける者はいつまでも若い。人生で一番大切なことは、若い精神を持ち続けることだ。

ヘンリー・フォード

4 まとめ

変わらないために変えるという日本人の価値観を、法人や個人と関連付け「常若の精神」としてまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?

日本人は、長い歴史の中で様々な災害に直面しながらも、しなやかに生き残る術を磨き、大切なものを次世代に残してきました。この精神は、「常若」という言葉に体現されています。他の言語に翻訳することが難しいこの言葉は、変わらない価値を守りつつ、必要に応じて変化を受け入れる日本独自の哲学を示しています。

富岡町はとみおかワインのような新しい変化と同時に、夜の森桜まつりという守るべきイベントも戻ってきました。

私も常若の精神と共に、自分のバランスシートを常に新鮮に保ち、時代の変化に柔軟に対応しながらも、本質を見失わない生き方を目指していこうと思います。

おわりに

この記事が少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。

この記事に記載されている内容は、私の個人的な経験と見解に基づくものであり、過去に所属していた組織とは関係ございません。


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