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vol.55 新リース会計の導入準備に役立つテクノロジー

はじめに

リースに関する会計基準 (以下「新リース会計」) が先週 (2024年9月13日)に 公表されました。

リース取引は多くの会社で活用されており、新リース会計の影響を受けない会社はほぼないといってよいのではないでしょうか? 

そういうわけで、早くも解説やセミナーに関する情報が飛び交っています。

新リース会計は2027年4月1日以後開始する年度の期首から強制適用となっており (例: 2028年3月期の期首)、基準公表から2年以上もの準備期間がおかれています。

これは以下にあるように、実務上の負担を十分に考慮したものと考えられます。

リースの識別を始め、これまでとは異なる実務を求めることとなるため、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間は 1年程度では短い可能性がある。

出典: リースに関する会計基準 BC69.(3) 

ここで私は、なるほど新リース会計の導入は実務上相当な負担となるものと想定される一方、目まぐるしい勢いで変革を続けるテクノロジーはこの負担をどれくらい和らげてくれるのかに興味を持ちました。

そこで今回は「新リース会計の導入準備に役立つテクノロジー」として記事をまとめてみようと思います。

記事の構成として、新リース会計の概要と何を準備しなければならないのかについて概観し、想定されうるテクノロジーの活用事例を述べていきたいと思います。


新リース会計の概要

新リース会計の下では、リース取引に関して、借手と貸手のそれぞれで異なる定めがなされていますが、本記事では実務上広範な影響のある「借手の会計処理と注記」の概要のみまとめておきます。

  • オンバランス化: 従来の会計基準ではオフバランスとされていたオペレーティング・リースについても、原則オンバランス化して財務諸表に計上する必要があります (例: 使用権資産とリース負債)。

  • 費用配分: リース期間にわたり、使用権資産の減価償却費とリース負債に対する利息相当額を費用計上します。減価償却費は、リース期間を通じて使用権資産の価値が減少することを反映して計上します。

  • 注記: リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額や使用権資産の増加額などを注記する必要があります。

オンバランス化や注記の対象となるリース取引が急激に増加する結果、リース取引の情報収集に膨大な時間がかかると想定されます。

では次のセクションで借手の場合、今後何を準備しなければならないのかをみていきましょう。

何を準備しなければならないのか?

連結ベースで以下の作業を実施していく必要があります (IFRSやUS-GAAP等、異なる会計基準で対応済みの関係会社は除く) 。

  • 協力体制の確保: 新リース会計への対応には、関係会社や関係部署間での連携が不可欠です。以下に示すようなリースに関する情報を適切に収集・管理し、会計処理に必要な情報を収集するための体制を整備する必要があるため、まずは新リース会計の理解と対応のための協力体制の確保が必要となります。

  • リースの識別と情報整理: 契約締結時に、取引にリースを含むかどうかを判断する必要があります。さらに契約書などから、リース料 (例: 変動リース料を含む)、リース期間 (例: 延長オプションや解約オプションやそれらの実行可能性を含む) などの情報を収集する必要があります。

  • リース会計処理の適用: 収集した情報をベースに、使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上し (オンバランス化)、リース期間にわたって費用配分を行います。あわせて注記を作成する必要もあります。

今までリースと思っていなかった取引にリースが潜んでいる、いわゆる「隠れリース」のリスクもあり、要注意です。あらためて社内教育と協力体制の確保が極めて重要だと思います。

従来のリース会計では「リース契約」や「賃貸借契約」など契約形態が重視されていたが、新基準では借り手が特定の資産をどれだけ自由に使えるかを判定する。サービスや役務提供の契約でも要件を満たせば、リース取引に当たる。例えば、あるメーカーが電力会社から自社工場に電力を供給してもらうサービス契約を結んでいる場合、電力会社が工場に置いた発電設備がリース資産に該当する可能性がある。企業は契約の中にこうした「実質リース」や「隠れリース」がないか洗い出し、新規契約や変更の際に財務諸表に反映する必要がある。

出典: 「隠れリース」ご用心、新会計基準適用広く 税制に影響も

では次のセクションで準備の各局面で想定されるテクノロジーの適用事例を挙げていこうと思います。

テクノロジーの適用事例

新リース会計の導入の際は、以下のようなテクノロジーが実務に活用されうるものと考えられます。

  • 基準の解釈や説明: 社内外で基準の内容を正しく理解し、共有することが必要です。新リース会計は会計基準が35ページ、適用指針が85ページ、設例が104ページと、合計で224ページの代物です。従来は担当の会計士等に聞くことも多かったものと思われますが、例えばGoogleのNotebookLMを使えば、読み込んだ基準のPDFに対しQ&Aを行うことが可能です。

  • 契約書の自動解析とデータベース: 契約書のデータを抽出し、これをOpenAI等の大規模自然言語処理モデルのAPIを通じ自動的に解析し、リースに関連する情報をデータベースに整理します。例えば私は過去の記事で第三者委員会ドットコムにある調査報告書のテキストから、発生原因や再発防止策を表にまとめるコードを書いていますが、同じロジック (例: 調査報告書を契約書に変え、発生原因や再発防止策をリース料やリース期間等に変える) でこのような解析はできそうです。

  • データベースからの仕訳や注記の作成: こちら、私はまだ取り組んだことがないのですが、データベースの内容と関連する仕訳、注記の関係はそれほど複雑ではないと想定され、これらを大規模言語モデルに学習させることにより、新リース会計に基づいた仕訳や注記を作成することは十分可能かと思われます。

試しにNotebookLMに新リース会計を読み込ませ、質問を投げてみましたが、会計基準の条文も示してくれ、非常に便利だと感じました (ちなみに全て無料です!)。今の段階で既にここまできているので、強制適用のタイミングである2年後あたりには劇的に変わっているのではないのでしょうか?

出典: 筆者作成

(*) Notebook LMの仕様上、アップロードしたファイル (左側の三つのPDF) を参照しつつ、質問に対して生成AI (Gemini 1.5 Pro) が自動で回答する。なお、回答内にある番号をクリックすると、参照先の条文が分かる仕様となっており、ハルシネーションリスクを回避することも可能。

まとめ

新リース会計の公表を受け、今後導入までにテクノロジーがどのように使われるかに焦点をあて「新リース会計の導入準備に役立つテクノロジー」としてまとめてみましたがいかがでしたでしょうか?

おそらく似たようなことを監査法人に加え、システム会社も取り組むものと思われるので、財務会計の専門家業界の働き方が今度どのように変わっていくのか楽しみです。

そのような意味では、新リース会計は、会計士それぞれが、テクノロジーに使われる側となるのか、逆にテクノロジーを使う側となるのか、どちらとなるかが試されるのかもしれません。

私も、猛烈なスピードで変化する生成AIの動向をキャッチアップしつつ、テクノロジーと上手く共存できる会計士を目指して頑張っていこうと思いました。

おわりに

この記事が少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX(@tadashiyano3)までお寄せください。

この記事に記載されている内容は、私の個人的な経験と見解に基づくものであり、過去に所属していた組織とは関係ございません。

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