見出し画像

vol.40 会計士によるリトリート体験記

はじめに

先日、株式会社Zentre主催 (Be-Nature School共催) による「ZENネイチャー・リトリート@屋久島」に参加してきました。

リトリートという言葉は聞いたことがあるものの、実際にどういうものなのか、イメージできない方も多いかと思い、今回はその体験記とさせて頂きます。


リトリートとは何か?

リトリート(英語: Retreat)とは、日常生活や仕事から離れ、心身のリフレッシュと内面的な成長を目的とした短期間の滞在を指します。語源はラテン語の「re-」(再び、後ろへ)と「traho」(引く)から成り、中世フランス語の「retrait」(退却)を経て現代の意味に至ります。元々は戦場からの撤退を意味していましたが、宗教的な背景から、祈りや瞑想を通じて神との関係を深める活動へと発展しました。現在では、健康やウェルネスを重視したリトリートも多く、ストレス軽減や創造性向上を目指すものとなっています。

今回のZENネイチャー・リトリート@屋久島は、その名の通り屋久島という大自然に自分を預け、禅と共に自分自身を振り返り、様々な参加者との対話を通じて新たな気づきを促すものでした。

市場規模と今後の見込み

リトリート市場そのものに関する市場規模データは見つけられませんでしたが、これを包含するヘルスツーリズム市場について、有限責任監査法人トーマツが報告書を出しています (2023年3月)。同報告書によれば、ヘルスツーリズムの国内市場は2020年に2兆9,778億円、これが2025年に4兆960億円、2030年に6兆657億円、2050年には12兆6,946億円になると推計されています。リトリートは特に自然豊かな環境で行われ、心身のリフレッシュや内面的な成長を目指す短期間の滞在型プログラムとして人気が出始めており、今後益々経済の活性化にも寄与していくものと思われます。

屋久島の概要

屋久島は鹿児島県に属する離島で、九州の南約60kmに位置し、全域がユネスコ世界自然遺産に登録されています。この島は約90%が森林で覆われており、樹齢1000年以上の屋久杉が多数存在することで有名です。多雨で亜熱帯性気候と温帯性気候が混在する独特の気候を持ち、「ひと月に35日雨が降る」とも言われるほど降水量が多く、その豊富な水源が豊かな自然を育んでいます​。屋久島の自然美とリトリートの相性は抜群であり、心身の健康を追求する旅行者にとって理想的な目的地の一つかと思います。

リトリートを通じた気づき

2泊3日の中で実に多くのアクティビティに参加しました (事前課題あり)。

事前課題
・人生棚卸し曼荼羅と〇〇〇〇の物語

DAY1: 屋久島の自然に馴染み、仲間と知り合う
・屋久島空港からスタッフカーで本然庵へ移動 
・本然庵着 オリエンテーション|自然の中での坐禅タイム|お互いを丁寧に知り合う時間 (事前課題共有)
・スタッフカーでホテルへ移動
・夕食、温泉
・再び本然庵へ 焚火、星空の時間
・スタッフカーでホテルに移動して就寝

DAY2: 屋久杉と向き合い、悠久のときを感じる
・日の出ハンティング 朝陽を浴びての坐禅
・ホテルで朝食後、ヤクスギランドへ移動
・巨樹の出会い、森の更新を体感する
・ホテルにて温泉、夕食
・本然庵にて焚火、星空、語り会いの夜

DAY3: 水の循環をたどり、日常とのつながりを見いだす
・日の出ハンティング
・ホテルで朝食
・クルマで移動、瀑布が海に戻る場所で、循環を確認する
・お弁当ランチ
・本然庵で坐禅、丁寧なクロージング
・夕方の便で屋久島を離れる

出典: ZENネイチャー・リトリート@屋久島

以下、上記アクテビティを通じて気づいたことを会計士の視点 (自分自身の貸借対照表における1 開始残高、2 無形資産への投資、 及び3 無形資産の活用) でまとめてみます。

1 事前課題 - 開始残高

事前課題として以下二つの宿題がありました。

(1) 人生棚卸し曼荼羅
自分の一生を一つの円に見立て、影響を受けた人、出来事、本や転機を中心に、円の中にどんどん書き込む。

出典: Be-Nature School・中野民夫

(2) 〇〇〇〇の物語
書き込んだ人生棚卸し曼荼羅を材料に、自らはどこから来てどこへ行こうとしているのか、自分の人生の物語を、三人称で書いてみる。

人生の棚卸しを行い、これを言語化することにより、私はどのような資産を持っていて、どのような負債を負っているのか、まさに私個人の貸借対照表における開始残高をかためている感覚を覚えました。

2 DAY1-DAY3 - 無形資産への投資

(1) 焚火、星空の時間 (DAY1)
事前課題で取り組んだ「〇〇〇〇の物語」について、参加者間でペアになり、これを読み合い、焚火を見ながら他己紹介を実施しました。

庵での焚火: 筆者撮影

今回のリトリートには全国から約10名の方が参加されていましたが、火を囲みながらそれぞれの人生の物語を聞くと、自然と距離が縮まり人間関係も構築されていきます。

私の貸借対照表において、無形資産 (人的ネットワーク) への投資が進み、新たな無形資産が計上されていきます。

(2) ヤクスギランド (DAY2)
屋久島の豊かな自然を自らの足で歩くと多くの学びが得られます。今回は大学卒業したばかりの若いガイドの方についていただきましたが、ヤクスギランドを歩きながら世代を超えた質疑応答がとても活発に繰り広げられていました。中でも私は「倒木更新」という言葉が印象に残っています。

倒木更新 (とうぼくこうしん) は、寿命や天災、伐採などによって倒れた古木を礎にして、新たな世代の木が育つこと。

出典: Wikipedia

こちらは実際に私が撮影した写真 (伐採された後、切り株の上から新たなスギが伸びているもの) となります。

伐採後の切り株に育つ新たなスギ: 筆者撮影

ヤクスギランドにはこのように伐採後の切り株、あるいは雨風で倒れた後の倒木から、新たな植物が次々と芽吹いている風景が至る所にありました。

この自然現象は色々な捉え方が可能ですが、私は個々の植物 (人間) にはそれぞれ役割があり、その役割の中で各自が生態系 (社会) で生きている尊さを感じました。生態系 (社会) はそこに生まれた以上、伐採や倒木 (事故や寿命)もありますが、その後新しい世代が引き継いでくれるように上手くできています。

私の貸借対照表において、無形資産 (ナレッジ) への投資が進み、引き続き新たな無形資産が計上されていきます。

(3) 瀑布が海に戻る場所で、循環を確認 (DAY3)

屋久島の地形は山が多く、地盤が花崗岩でできているため、降った雨はすぐに川に流れ込みます。この特徴的な地質と多雨の気候が、屋久島の独特な自然環境を形成しています。島内には数多くの滝があり、それぞれが美しい景観を作り出しています。

屋久島に多数ある滝の一つ: 筆者撮影

上記の滝は近くの河口へとつながり、大海原へと戻っていきます。今回のリトリートでは屋久島の水がぐるぐると回る自然のサイクル感じ、ただひたすら河口を眺めます。

滝から河口を通じ大海原へ: 筆者撮影

屋久島の滝や川の水が絶えず循環し、島全体の生命を支えているように、私もまた新しい経験や知識を取り入れ、自分自身を更新し続ける必要がある (私の貸借対照表の入れ替え) と感じました。

3 クロージング - 無形資産の活用

最終日の午後、参加者全員でじっくり坐禅を組み、その後三日間で感じたことをネイティブアメリカンの話し合いで使われたとされるトーキングスティックというツールを用い各自発表を行いました。

トーキング・スティック
人々が集まって話し合うときに活用され、何世紀にもわたってネイティブ・アメリカンの政治において重要な役割を果たしてきました。 その場では、スティックを握っている人だけが発言することを許されます。このトーキング・スティックを手にしている限り、自分の話が十分に理解されたと納得できるまで話を続ける権利があります。 その間、他の人は意義を唱えることはおろか、賛成も反対もできません。なぜなら「発言者は理解される必要がある」からです。 聴衆にできるのは、発言者を理解し、理解したことを明確に示すことだけなのです。 一方、発言者は理解されたと感じたらすぐに、スティックを隣の人に渡して、今度は聞き手に回ります。つまり次の発言者を理解する義務を負うのです。

出典: Franklin Planner Japan

今回の参加者は、屋久島の生態系のごとく実に多様性に満ちており、各自が個性に満ちた思いを述べ、また傾聴を重ねていました。私は3日間の学びを会計のメタファーにし、「ここで得た無形資産 (インプット) はすぐに償却が始まるので、日常に戻ったらしっかりアウトプットを行っていく旨」をトーキングスティックと共に宣言しました。

まとめ

屋久島での経験を「会計士によるリトリート体験記」としてまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?

私は屋久島での体験を通じて、自分自身の貸借対照表の棚卸しを行い、無形資産への投資と共に再構成を実施してきました。これからの時代、スキルや知識・人間関係といった無形資産が重要なのは法人だけでなく、個人も同様かと思います。

屋久島の日の出を見ながら瞑想: 参加者撮影

屋久島での体験は、自然との触れ合いを通じて得られる学びだけでなく、自分自身の内面を見つめ直し、投資とリターンの関係を再考する貴重な機会となりました。ここでは、具体的な体験を通じて得た教訓や知見をオンバランスし、自分自身の成長や組織の発展に繋がる形で、持続可能なリターンを追求していきたいと思います。

ビジネスやプライベートの状況にもよると思いますが、皆さんもご関心があれば是非リトリートを試してみてください。

最後に参加者のお一人が、心地よい風が吹く中、DAY3のクロージングで朗読された山尾三省の詩を引用し、この記事を締めようと思います。

五月の風が 耳元で
やさしく語る

ぼくはね
かつて生まれたこともない存在だから
死ぬこともない

ただ 今を 吹いているだけ

出典: 山尾三省「風」

このような素晴らしいリトリートツアーを企画いただいた関係者の方、貴重な時間をご一緒いただいた参加者の方、ありがとうございました!

おわりに

この記事が少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。

この記事に記載されている内容は、私の個人的な経験と見解に基づくものであり、過去に所属していた組織とは関係ございません。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?