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バーンサムリ村#6

 リス族の先祖は元々、中国雲南省辺りから来たと言うこともあってか、母親のMaiの肌は中華系の白い肌であるのに対し、Vinはタイ人独特の浅黒い肌である。しかし、涼しげな目鼻立ちはどこか日本のアイドル歌手を思わせ、きっと、バーンサムリ村の少女たちの心をときめかせているに違いないと思った。
 その時、Vinの背中に隠れるようにひとりの少女がいることに僕は気付いた。
 Daoである。
 僕と目が合うと、Daoは目を伏せ、すっとVinの背中に隠れたが、すぐにキラキラと光る瞳を上目遣いにし、こちらの様子を伺っている。
 Daoの肌も兄Vinと一緒である。Maiは別れた夫のことは何も話さないが、二人の肌は、そしてそのルックスは、父親のDNAを受け継いだであろう事は容易に想像出来た。VinもDaoも黒目勝ちに澄んだ大きな瞳をしているが、涼しげな印象のVinに対して、Daoの瞳はまるで野生の狼のようで、一瞬でも隙を見せると、今にも襲い掛かって来るような、そんなピリピリとした感覚を他人に感じさせる少女である。
 僕は足下に置いた二つの紙袋を二人に手渡した。
「サンキュー、パパ!」
 思ってもいなかったVinの言葉に僕は驚いた。到底、素直に受け取ってくれるとは思ってなかった。突き返されることも覚悟していた。
 Daoの方も、言葉こそなかったが紙袋を受け取り、コクリと小さく頭を下げた。
 おそらく、Maiに言い含められていたのだろう。それでもいい、正直、僕はホッと胸を撫で下ろした。

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