『冬の終わりと春の訪れ』#12

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 遠山さんとの冬休みは、穏やかな時間の流れる日々だった。
 晴れた日は部室に行って今までのようになんでもないような話をして過ごし、雪が降った日には雪だるまを造ったり、雪合戦をしてみた。高校生にもなって、雪が降ったときに毎回はしゃぐというのはなんだか子ども染みているようにも思えたけれど、それはあまり気にならなかった。
 それよりも、毎回見られる遠山さんの新しい表情が新鮮で、僕は冬休みの毎日をこれ以上ないくらい満喫していた。

 そうしていたら、気づいた頃には今年が終わろうとしていた。

「溶けちゃうね」

 積もっていた雪が消えていくのを見た彼女は、寂しげにそう呟いた。
 僕達の部室からは、裏庭がよく見える。昨日今日と連続で晴れたのもあって、僕達が作った雪だるまは面影をなくし、白い雪の小さなかたまりがちょこんと残っているだけの状態だった。

「片山くんは、冬と春どっちが好き?」

 最近彼女は、僕が彼女に対してするよりも沢山僕に質問をしてくる。少しは僕に興味を持ってくれたということなのかな、と、少し嬉しい気持ちでいた。

「春かなぁ」
「えー、気が合わないね。私は冬の方が好きだよ」

 彼女は不満げにこちらを見る。

「気温的には春の方が過ごしやすいじゃん。それでも冬が好きってことは、花粉症なの?」
「違うよ」

 彼女は首を横に振った。
 そして視線をまた、窓の外に向ける。

「春は別れの季節だもん」

 彼女の横顔は、笑っていた。笑っていたけれど、それはとても寂しげで。
 その台詞の内容と相まって、どこか遠くへ行ってしまうのではないかという錯覚に陥る。

 ――何を考えているんだ、僕は。
 そんな、ドラマじゃあるまいし。

「……出逢いじゃなくて別れの季節って表現するの、珍しいね」

 彼女の感性についての感想を零すと、彼女はふふっと笑った。

「そうだね、出逢いの季節でもあったね」
「どちらかと言えば皆、そっちをメインで考えるでしょ」
「んー、でも私は、新しい出逢いにうきうきする気持ちよりも、迫る別れに寂しくなる気持ちの方が大きいからなぁ」
「……遠山さんは、春になったらお別れの予定でもあるの?」

 あまりにも彼女が寂しそうにするものだから、不安になってしまう。彼女は前、進路について悩んでいそうな素振りを見せたけど、実際はもう遠くへ行くことを決意していたりするんだろうか。
 だから、こんな話をするのだろうか。

「んー、どうだろうね」

 彼女は笑ってはぐらかす。僕の質問には答えない。
 しかし僕を見つめるその目には、これ以上聞いても何も答えないよ、とでも言っていそうな、そんな何か想いのようなものが込められているように見えた。


     *   *   *


 年が明けてから、僕達が学校で会うことはなかった。
 彼女も僕も、親戚の付き合いで食事会が入ったりして、あまり時間が合わなかった。
 7日からは通常通り学校が始まるということもあって、無理に会おうとしなかったというのもある。

 年が明けてからの1週間はあっという間で、気が付けば出校日。

「――え?」

 その日、僕は驚くべき事実を知ることになる。

「だからね、」

 放課後の部室にて。部長は、重い口を開いた。


「――…美佳ちゃん、海外に引っ越したんだよ」


 それは予想もできなかった、事実だった。


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