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『The Climate Book』

 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんと、彼女と志を一にする様々な専門領域のアクティビストの共著による、気候変動に関する本です。

 いつも激しく怒っているグレタさんのイメージもあって、大人の事情を理解しない少女の喚きと侮り、好感を持っていない人も多いかと思います。実際、本書の内容はどれもこれも、エンジンメーカーで働いている私のみならず、資本主義体制の先進国の多くのビジネスマンにとっては恐らく愉快なものではありません。しかし、地球市民としての自分の思考のバランスを取るためにも敢えて読んでみました。さらにその感想をこうして書くことも私にとっては行動の一つです。

 人間が文明を生み出し、農耕牧畜を行い火を用いるようになった瞬間から環境破壊は始まっているのですが、とりわけ産業革命以降、化石燃料を燃やして大量生産・大量消費を行う時代に入り、そのインパクトは今まさに爆発的に増大中です。この本ではまず、温室効果ガス排出がもたらす地上と海洋の環境変化の連鎖のメカニズムを何人かの専門家が分かりやすく解説してくれます。

 この夏の猛暑をはじめ、世界各地で報じられる異常気象からも、これはさすがにヤバイなと感じ始めている人も多いかと思います。日本では熱中症を防ぐために躊躇せずエアコンを使いましょうなどと言われますが、そうした手段を持たない貧しい国の人々はどこへ避難すればいいのでしょうか?このように、気候変動の影響は地球のどこでも平等に起きうる一方で、その主要な原因である温室効果ガスのほとんどはグローバル・ノースの人々の暮らしを維持するために発生するのに対し、深刻な被害はグローバル・サウスに集中するという著しい不平等が発生しているという問題点があります。

 本書では、歴史的に化石燃料を原動力に経済発展を享受し、加えて肉食のための牧畜によって大量の温室効果ガスを発生させてきたグローバル・ノースの人々が、過去の「過ち」を認識して今すぐにライフスタイルを変えるなどの行動を取らなければ、取り返しのつかない事態に至ると主張しています。

 ちょうど先ごろ、ハワイで山火事が発生し痛ましい災害となりましたが、こうした規模によっては一国一年分にも相当する二酸化炭素を排出する自然災害は、実は統計の対象外なのだそうです。同様に本書では、どこの国に属するかの特定が困難な飛行機の国際線や貿易船も統計から漏れていることを指摘し、これらを政財界全体の不作為の罪として糾弾しています。

 結びとして、私たちにできることは、個人の情報収集と行動変容に加えて、特に民主主義国では行動力ある政治家を選ぶこととしています。

 結構ボリュームのある本で、読破するのに半年近くも費やしてしまいましたが、グレタさんの主張を先入観を排して理解することができたのは収穫でした。私自身の言動にもいろんな所でじんわりと影響が起き始めています。

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