分かった気になれる損保会計⑥(コンバインド・レシオ 前編)
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対象:損害保険会社の決算を、手軽に理解したい人
前回まで、保険引受利益の主要3項目(①既経過保険料、②発生保険金、③事業費)について言及をしました。今回は、この主要3項目に係る「コンバインド・レシオ」について触れたいと思います。
コンバインド・レシオで示したいもの
上図のように、コンバインド・レシオは保険引受利益のうち「④その他」を除く収益性を示すことを目的としています。ここで、「④その他」とは一体何なのでしょうか。
これは、保険業法によって求められている責任準備金の利益留保等が影響しており、損害保険会社が事業活動を頑張ったところで変化するものではありません。(難しい話も多いので、細かな説明は後日)
このような背景から、「④その他」を除いた保険本業のコア利益を見るために、コンバインド・レシオは「①既経過保険料」「②発生保険金」「③事業費」を用いて指標を算出しています。
より簡単に考えると、コンバインド・レシオとは、下図のとおり本業のコア利益に関する費用の割合を示しているとも言えます。
「コンバインド・レシオ ≒ 費用の割合」と考えれば、「コンバインド・レシオが100%を上回ると赤字」「100%を下回ると黒字」という構図も、感覚的にご理解いただけるのではないでしょうか。
ところでW/P, E/Iって何?
コンバインド・レシオを検討するにあたって、W/PなのかE/Iなのかといった問題があります。よく聞くW/PとE/Iって、結局のことろ何を表しているのでしょうか。
実は、ここまでW/PとE/Iの話は意図的に避けてきました。なぜなら、全体像を触れた後でないと、説明できないことが多いからです。
そして、多くの損害保険会社の社員にとっては、W/PとかE/Iとか何を言っているか分からず、「こういう難しい話は無理、諦める!」or「とりあえず定義をマル覚えして、ドヤ顔をキメる」のどちらかになりがちだと思います。
このような現状を踏まえ、それぞれの語源から意味を掴みたいと思います。
Written Premium, Written Paid (W/P)
premiumは保険料、paidは支払保険金ですが、一体何を書いている(written)のでしょうか。営業部門および損害サービス部門それぞれの視点から解説します。
営業部門の視点
営業が行うwrittenとは、営業部門が獲得した保険契約を会計帳簿へ記載することを指しています。
しかし、今日的にペンで紙に記載はせず、代理店さんや営業社員がPCで保険契約を計上をしていると思います。したがって、ここで言うwrittenとは、今日的には「契約計上」と読み替えて良いと思います。
中世の頃:保険契約とったどー
→ premiumを紙の帳簿にwriteする
(Written Premium)現代社会:保険契約とったどー
→ premiumをPCでdata entryする
(Data Entered Premium?)
ここで、営業部門が「契約とったどー」と保険料を計上(write)してくれるのは良いのですが、この保険料の計上は財務会計上の「期間損益」を加味していません。
このような背景から、営業部門が計上する保険料については、経理部等が「期間損益」を加味したE/Iベース(←次回説明)に変換をする必要があります。
損害サービス部門の視点
損害部門が行うwrittenとは、保険金を支払った際にその金額を会計帳簿へ記載することを指しています。
しかし、今日的にペンで紙に記載はせず、保険金支払システムで支払を計上していると思います。したがって、ここで言うwrittenとは、今日的には「保険金支払の計上」と読み替えて良いと思います。
中世の頃:保険金を支払ったぞ
→ 支払金額を紙の帳簿にwriteする
(Written Paid)現代社会:保険金を支払ったぞ
→ 支払金額をPCでdata entryする
(Data Entered Paid?)
ここで、損害サービス部門が「保険金を支払ったぞ」と支払保険金を計上(write)してくれるのは良いのですが、以下リンクで説明のとおり、会計期間中に発生した保険金を網羅するには、支払保険金だけでなく、「未払保険金」と「IBNR備金」も集計して、E/Iベース(←次回説明)の発生保険金に変換をする必要があります。
まとめ
W/PのWは、会計帳簿へwrittenされることであるが、今日の実務的には「データ計上」と読み替えた方が分かりやすい
Written Premiumとは、営業部門が期間損益を考慮せずに計上した保険料のことを指す
Written Paidとは、損害サービス部門における支払保険金の計上を指す
これらを総称してW/Pベースと呼ぶ。しかし、W/Pベースの数値は財務会計上の期間損益を無視しており、このまま財務会計で使用することはできない。
このように、保険会社のデータベースには、W/Pベースの数値が蓄積しています。
そして、決算期においては、経理部等のバックオフィスが財務会計上の期間損益を加味したE/I (Earned incurred)ベースに変換をして、財務諸表を作成している訳ですね。
今回はこれで以上です。次回は、E/Iについて説明したいと思います。
(続く)
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