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政策保有株式と金融庁と私

(Twitterはこちら → @yanagi_092)

年収

10年目になりました。私は、東京海上の社内公募を活用することで、損サ部門からコーポレート部門に異動(脱出)することができました。

しかし、これは極めて異例であり、原則的に損サ人材はずっと損サです。私は「損サ道」のド真ん中に居たのですが、力技で無理矢理?、事業部とコーポレート部門を分断する厚い壁を突破したのでした。

近年は、災害応援等の目的で新人の損サ配属を増やしているようで、「最初:損サ→2場所目:営業」という人も一定数存在します。しかし、これ以外の人は、原則的に損サはずっと損サです。

壁

(上図の説明はこちら ↓)


財務企画部への着任

着任後、全体の打合せ等に参加するのですが、関連するカタカナ用語(ボラティリティとか、デュレーションとか・・・)が分からなくて困りました。

会計(経理)の勉強はしていましたが、証券(財務)の知識はほとんどありません。会計(経理)と証券(財務)って、受験科目でいうと地理と日本史くらい違うので、分からないカタカナ用語はgoogleで調べて、必死でついていきました。

上司「損サ部門から来たやなぎくんには、政策保有株式の関連を担当してもらいます。今、この話で金融庁との折衝も多くなってきているので。あと、財務部門から費用の補助も出るので、証券アナリスト資格を取ってくださいね」
ぼく「証券アナリストの勉強は良いのですが、政策保有株式って何??」

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政策保有株式とは

これは「株式持ち合い」の一種で、損保各社が取引先に対して「御社の株を持つから、当社と保険取引をしてください。もちろん、御社の言うとおりに株主総会で投票しますので・・・」といった営業を行うものです。

特に損害保険業界においては、1970年代以降の自動車保険バブルによって収入保険料が急拡大しました。これに伴う余剰資金の急増を背景に、損保各社は営業先の株式を買い進め、更なる営業活動の強化を図りました。

(自動車保険バブルの話 ↓ )

結局のところ、各社の保険内容に大きな差は無いので、保険以外で取引先にどれだけ貢献できるかが大きい部分もあります。典型的なものは、取引先への営業協力(スーツを買うとか...笑)でしょうか。そのなかで最も強力な営業協力としては、取引先の株式を保有することで、安定株主として取引先の株主総会の運営をサポートすることだったのです。

このように、1970年代以降の自動車保険バブルによって生じた余剰資金を流用し、損保各社は取引先の株式を買い進め、「全ての株主総会議案に賛成することと引き換えに、保険契約をしてもらう」という実務慣行が形成されていきます。

東海

安田

住友

全部

この政策保有株式を活用した実務慣行は、損害保険会社だけでなく、生命保険会社や銀行でも同様の構図となりました。

その結果、日本の株式市場においては「上場株式の所有者を身内や手下(損保等の金融機関)で固めることで、安定的な株主総会の運営を行う」という日本固有の歪んだ株式市場が形成されていきます。

一方で、株式を損保各社に買わせている取引先企業についても、政策保有株式の割合に応じて保険取引のシェアを決めている会社も多く、立場の弱い損保各社が政策保有株式を売却するのは容易ではありません。まさに「囚人のジレンマ」の状態で、損保各社が一斉に取引先の株式を売却できれば良いのですが、現状では損保各社が取引シェアを減らされないように、少しずつ削り取るように政策保有株式を売却している実態にあります(最下段に「付録」のデータあり)

売る1

売る2

売る3


政策保有株式に激オコな金融庁

このような政策保有株式に対して、特に外国人投資家の評判が悪いです。「身内や取引先が多数を占める株式って、全くガバナンスが効いてないし、そもそも上場している意味なくない?」という意見もあり、外国人からすると全く理解されません。

現在、日本の株式市場における外国人投資家の保有比率は30%程度であり、日本株に対して強い影響力を持っています。また、政策保有株式による市場の歪みを放置すると、日本株が国際的に見放されるという危機感もあり、日本の株式市場を担当する金融庁が激オコになります。

金融庁

当時の安倍政権は「3本の矢」(金融緩和、財政出動、成長戦略)による経済政策を掲げ、特に日経平均株価の動きを注視していました。内閣官房は、各省庁に対して「日経平均株価を上昇させるための施策を検討せよ!」と指示を出します。そのなかで金融庁は、株式市場の阻害要因である政策保有株式に注目をしたのでした。

ぼく「えっ、着任早々、こんな炎上案件を担当するの・・・??」

ぼく

(続く)

付録:2020年度における政策保有株式の状況

2010年頃から、損保各社は「政策保有株式が多すぎだろ・・・」という危機意識を持ち始め、徐々に株式の売却をしています。しかし、それでも各社の貸借対照表の25-20%程度は政策保有株式が占めており、この辺りからも売却の困難さが分かると思います。

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