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「紙」で「分子模型」を作ってみた 〜だれも取り残さない学習環境づくり〜

■ 分子模型は学びを促進するために欠かせない教材

分子模型は、「目に見えない分子」のカタチを「見える化する」ためのツールとして、化学の授業などで用いられています。

たとえば、分子のカタチと化学的な性質との関わりを説明するときに、教科書に載っている化学構造式を眺めるだけではなく、生徒ひとりひとりが分子模型を手に取って、試行錯誤しながら組み立て、組み立てたものを生徒同士でお互いに見せ合いながら議論することで、主体的・対話的な学びが促されることが期待されるように思います。

主体的・対話的な学びを促す分子模型

■ 分子模型をひとりひとりが手にするのは難しい

教材として市販されている分子模型の多くは、プラスチック製で、原子を「球」、原子間の化学結合を「棒」で表現しています。生徒ひとりひとりがこのような分子模型を「自分専用」に持っていて、教室だけではなく、自宅での学びにも活用することができるのが理想的。

しかし、教材として市販されているプラスチック製分子模型の値段は、高校化学の教科書に載っているような小さめの分子を作れるセットでも2〜3千円程度。生徒ひとりひとりが所有できるように「学校で購入する」or「生徒個人が私費で購入する」ための経済的な負担は小さくありません。

また、プラスチックは化石燃料を原料としていること、プラスチック廃棄物が問題視されていることから、その環境負荷についても、少し考えてみることができるかも知れません。

■ 分子模型を自作する既存のアイデア

プラスチック製の市販品を購入する代わりに、安価な材料で分子模型を自作するという方法が考えられます。

ざっと調べてみると、これまでに、発泡スチロールペットボトルのキャップホワイトボードのマーカーストロートランジスター折り紙などなど、手軽に入手できる材料を用いて分子模型を安価に自作するさまざまなアイデアが提案されているのを見つけました。

■ パズルのように手軽に組み立てる「紙」の分子模型

このノートでは、私がふと思いついた、「紙」という身近で安価な材料のみを用いて制作することができ、ペーパークラフトのように組み立て・組み替えが手軽にできる新しい分子模型についてご紹介します。

この紙製の分子模型のことは、学習者がパズルのように手軽に組み立て・自由に組み替えながら、化学の楽しさ・面白さ・不思議を学ぶ助けになればという願いを込めて、「PuzMol(パズモル)」と呼びたいと思っています。

紙で作った分子模型のパーツ

身近で安価な材料である紙を用いるという点は「折り紙分子模型」と同様なのですが、PuzMol は複雑な折り方を覚える必要がないので、組み立て方を説明してすぐに、生徒が自分一人で、あるいはクラスメートと協力して、分子の構造を自由に組み立てることができます。

PuzMolは、基本的には、原子と結合のパーツを「平面的」に組み立てて作る分子模型

PuzMol で作った「カフェイン」
PuzMol で作った「オセルタミビル」
PuzMol で作った「塩基対」

PuzMol は、フラーレンのようなシート状の構造要素を持つものであれば「立体的」な模型を組み立てることもできます

PuzMol で作った「フラーレン」
PuzMol で作った「カーボンナノチューブ」

「フラーレン」や「カーボンナノチューブ」のように大きな分子模型を組み立てる場合、たくさんの部品が必要となります。安価に製作できる PuzMol を用いることで、教材費を大幅に削減できます。たとえば、フラーレンを組み立てるのに必要となる PuzMol の材料費は 100 円程度。

また、組み立てた PuzMol をスマートフォンなどのカメラで読み取り、立体的な構造に変換したり、溶解度などの化学的性質を予測するアプリ(PuzMol App)の開発にも取り組もうとしています。

■ ペーパークラフト分子模型 PuzMol の作り方

PuzMol は、下図に示すように、紙でつくった4つの部品(A〜D)を用いて組み立てます。材料としては厚めの紙が望ましく、図に示すものは 0.23mm 厚のケント紙を用いて作りました。各部品は、カッターやハサミなどで切り出したあと、それぞれの端を手で折り曲げて完成です。各部品を20〜30人分と大量に準備する場合には、カッティングマシンを利用すると効率的。

PuzMol の部品

部品は「原子」として、部品は原子をつなぐ「化学結合」として用います。

四角形の部品()は「水素原子」、六角形の部品()は「水素以外の原子」を表すために使います。水素以外の原子については、紙の種類を変えるだけで、たとえば、炭素は黒、窒素は青、酸素は赤というように、CPK配色で色分けすることができます。

先端が丸みを帯びた部品()は、原子の側面にある切り口に単純に差し込む()だけ。「組み換えが容易な化学結合」を表すために使います。この部品は、たとえば生徒が、授業内の演習などで試行錯誤しながら組み立てるときに用いることができそうです。

部品は、「原子をしっかりと固定するための化学結合」()です。組み立てた模型がバラバラにならないようにするために使います。この部品は、たとえば教員が、授業前にあらかじめ組み立てておいた分子模型を生徒に見せるようなときに用いることができそうです。

気になる材料費は、A4サイズ1枚で30円程度のケント紙を用いた場合、部品1個あたり1円程度。安価に制作することができます。

■ PuzMol は分子構造の様々な表現方法が可能

PuzMol は、原子と結合の部品を平面的に組み立て、原子間のつながりを模式的に表現することができる分子模型です。下図には、PuzMol を用いて組み立てた「水」「アンモニア」「1,3-ブタジエン」の模型を示しています。

PuzMol で作った「水」「アンモニア」「1,3-ブタジエン」

PuzMol の材料は「」なので、サインペンなどで書き込むことで、さまざまな方法で分子構造を表現することができます

たとえば、アンモニア()を表現した模型のように、結合の部品に立体表記を加えることで、分子の立体性を表現することができます。また、元素記号電子対など、授業・演習の学習目標などに応じて、学びの足場掛けとなるさまざまな表記を書き加えることもできます。

さらに、1,3-ブタジエンを表現した模型()のように、不飽和結合を含む化合物の場合、結合の部品に線を書き加えることで、単結合二重結合など、化学結合の種類を区別することもできます。

■ PuzMol を活用して化学の面白さを楽しく学ぶ

PuzMol を活用した教育活動の実践例として、たとえば、「ペーパークラフト分子模型を用いた分子設計ワークショップ」を考えています。

このワークショップでは、はじめに、「分子量400g/mol 以内で水に溶けやすい分子」などの課題を提示。PuzMol を用いて、課題に合うような、化学の教科書にないような「新しい分子」を二人一組のチームで設計します。PuzMol で分子模型を組み立てたら、スマートフォンアプリ(PuzMol App; 開発予定)を使ってカメラで読み取り、分子の溶解度や反応性を予測。得られた値をスコアとして、チーム毎に競い合います。

PuzMol を用いることで、チームメイトと一緒にゲーム感覚で楽しく分子を設計する体験を通して、化学を学ぶ上での大切な概念である「分子のカタチと性質」の関わりについて、主体的・対話的に理解を深めることができるのではないでしょうか。

安価で手軽に作ることができる紙製の分子模型 PuzMol が、「化学の学びを身近にすること」や「だれも取り残されないような学習環境づくり」の助けになればと願っています。

PuzMol について、興味・関心を持っていただけるようでしたら、お気軽に山本までお問い合わせください。


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