小説「女子高生の平穏じゃない日常」第2話

第2話「憂鬱な放課後」

「めっちゃ金山くんに絡まれとったね。金山くん去年もクラスで騒いどったらしいよ。」
「まじか、お菓子取られたしなんかヤバそうな奴だったね。若菜に助けられたー。」

「そうとー?なんか楽しそうに見えたっちゃけど。」
「え、ほんとに?めちゃくちゃ嫌だったよ!」

「そうなん?じゃあ良かった!」
「また明日ね!」

若菜はそう言うと、駅のホームへ駆けて行った。彼女は家から1時間ほどかけ高校に通っている。私は、家から通うと3時間はかかるので学生寮に住んでいる。そのため若菜とは駅のホームで別れるのだ。

若菜とは、1年の頃から同じクラスで仲良くしている。修学旅行ではお揃いのカバンを買い、今もお互いそのカバンで通学している。更に月に1回ほどお弁当を作ってきてくれたりと、まるで彼女のように尽くしてくれる。

私もお返しをしなきゃとは日々思っているのだが、寮に住んでることもありなかなか自由に買い物したりお弁当を作ったりと言うのができないのだ。しかし、そういうということも若菜は理解していて、「いつも寮だと大変でしょ。」と、一層良くしてくれるのだ。

周囲の人間への悪口が止まらない事を考慮しても、感謝と好意が上回る。ほんとに大事な友人だ。

しかし、別れ際の「良かった」というのはどう言う意味なのだろうか。
私が金山にに絡まれていたのが、楽しそうに見えて少し嫉妬したと言うことだろうか。

考えると頭が痛くなってくる。とにかく若菜は金山とのことをあまり良くは思ってないようだし、これからもあまり関わるのはやめておこう。寮にも到着したし考えても答えは出なさそうだったので強制的に思考を終わらせた。

「はぁ、疲れた。」

寮生は帰宅した後、夜8時までに食事とお風呂を済ませて2時間勉強するというスケジュールをこなさなければならない。なので、学校から帰ってきてクタクタでも、まだまだ気を抜けない。今時小学生でも、もう少し娯楽を嗜んでいるだろう。

廊下が騒がしくなってきた。沙穂の声だ。彼女とは1年の頃同じ部屋に住んでいた。今でも食事・お風呂は一緒に行く仲だ。
バタバタバタバタ!こんこんこん!

ほぼ一瞬で私の部屋の前までやってきた。
「かなみーー!ご飯いこ!ちょーお腹すいた!」

「おかえり、いこ!」
彼女はいつも元気なので、つられて私も笑顔になる。憂鬱な寮生活のオアシスだ。

「今日行った”約束の場所”の”俺のパフェ”めちゃくちゃ美味しかったよー!今度一緒に行こうね。」
彼女は今日、クラスメイトとパフェを食べに行ったらしい。

「変わった名前だね。ここら辺にあるの?」

「うん、学校から寮と反対側の方にあるよ。しかも、店長に占いしてもらった!」

「え!なにそれ!普通のカフェ?」

「うんうん、占いは趣味でやってるみたい。」

「えええ!全然想像つかない!行きたい!」

「週末いこ!」

「いいねぇ~」

話題性全振りの謎のカフェの話をしていると寮内の食堂についた。

「めっちゃ並んでるね~。」

寮は男子女子で建物が分かれているのだが、食堂は共同だ。なので下校後のゴールデンタイムはかなり混雑している。列に並び、食堂のおばちゃんに白米、おかず、副菜をそれぞれ盛ってもらうシステムなので、温かいご飯を食べれるのだが、少し時間がかかる。そのため、夕飯を食べるために5分~10分並ばなければならないなんてこともザラにある。

「おーーーい!」聞き覚えのある声だ。相変わらず声量の調整機能が壊れている。金山だ。
「明日”HORN”持って来いよーーーー!」

私を見ているようだ。でも金山は私たちの遥か前で、夕飯行列の先頭の方だ。さすがに返事はしなくていいだろう。”HORN”を買うつもりもない。

「ねえ、金山こっち見てない?もしかしてかなみに話しかけてる?」
「こっち見てる気がするね。でも、違うと思う。」寮でまで金山と関わるつもりはない。

「まあいいや。それでさ、さっき話したカフェなんだけど、私今月恋愛運めちゃくちゃいいらしい!」

「そうなの?それさ、前話してた先輩となんかあるってことじゃない?」

「だよね!それしかないよね!」

沙穂は美術部で、一つ上の先輩といい感じだ。たまにLINEで話しているようで、度々嬉しそうに報告してくれる。
私は占いは信じていないが、沙穂が嬉しそうなのは良いことだ。

「明日、風景画描くの誘ってみようかなー。」

沙穂の恋を応援していたら列の先頭まで来ていた。やっと夕飯だ。夕飯はAの肉かBの魚が選べる。出遅れると、大抵の場合Aの肉が売り切れているので、両方残っているとついつい肉を選びたくなる。

沙穂は魚にするようだ。一年の頃は一緒に肉を食べていたのだが、先輩に恋をしてからは常にダイエットを意識しているらしく白米も絶対に”少なめ”だ。

 実家であれば、白米をオートミールに変えたり、野菜を中心としたメニューにする事もできるが、寮生活ではメニューが決まっているので、体型管理はなかなか大変だ。私も毎朝ランニングをしている。沙穂も誘ってみたが、運動は嫌いらしい。

「おい!なんで無視するとや!」

また金山だ。夕飯を食べ終わり、配膳するついでに来たらしい。

「え?なんのこと?」私はシラを切り通すつもりだ。

「さっき、”HORN”持って来いって声かけたやろが!」
金山は焦ったように喋っている。私まで焦るのでやめてほしい。

沙穂は呆気に取られて私と金山を見ている。
明らかに無視しているというのに、なんでわざわざ来るんだ。メンタルが強すぎる。なんだか私が悪いような気もしてきた。

「ごめん、私じゃないと思ってたや。」

「分かればいいんや。絶対やぞ!」

そう言い放つと、私の返事も聞かずに出口で待っている井原の方へ走って行った。
これが、俗に言う「嵐のように去って行った」か。とまるで他人事のように思う。

「ねえ、かなみ。金山くんと何かあったの?今のなに?」

「うーん、今日お菓子あげたら明日もよこせって言ってきて・・・。私もよくわからない。」

「ええ?なにそれ!かなみ優しすぎるよ!絶対あげちゃダメだからね?」

「うん、もちろんそのつもり。」

あれよあれよと大ごとだ。元からあげるつもりはなかったが、食堂でまで絡まれるとは・・・明日は一体どうなるんだ。
沙穂にもいらぬ心配をさせてしまった。

この調子じゃきっと、金山のペースに巻き込まれてしまうので明日ハッキリと断ろう。

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