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体育倉庫のとび箱先生

ぼくは最近学校へ行くのがユーウツだ。なぜかって?学校では体育の授業があるからだ。

ぼくは体育の授業が大好きけど、体育の中で「とび箱」だけは苦手なのだ。それに今日の5時間目の体育はテスト。ぼくは6段の跳び箱をとばなければならない。

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大好きな給食も今日は喉が通らなかった。いつもはおかわりするはずの野菜カレーもおかわりできなかった。

そして、休み時間が終わり体育着に着替えた。ぼくは体育係だったから体育倉庫に道具を撮りに行った。体育倉庫はちょっと暗くてたくさんの体育に使うものが置いてある。そこでぼくは考えた。このまま先生にばれずに体育倉庫に隠れていたら、テストを受けないでいいかもしれない。ぼくは大きなとび箱の隣にしゃがんで隠れた。

チャイムが鳴り、授業が始まった。ぼくは先生にすぐバレると思って、目をギュッとつぶってしゃがんでいた。それからどれくらいの時間が経っただろうか。誰もぼくが隠れているのに気づいていないみたいだ。ホッとしてぼくが顔をあげると、とび箱の隙間から目がぼくを見ていた。

「うわっ!!!」思わずぼくは叫んだ。目はじっとぼくを見つめてくる。「誰?!なんなの!」ぼくは大きな声で聞いた。すると、その目は答えた「君、とび箱苦手だろう?」

「え、なんで知ってるの?」とぼくが驚きながら聞くと、「ボクはとび箱だから、体育の時間いつも君が頑張っているのを見ていたんだ」と答えた。

「うそだ!跳び箱が話すはずがない!」ぼくは跳び箱の中に誰か友達が隠れてぼくをからかっているのだと思った。でも、違った。「君はいつもとび箱を飛ぶときに十分に足を開かないから、足が引っかかっているね?」と目が言った。図星だった。ぼくがだまってうつむくと、また目が話しかけてきた。「ボクがとび箱を克服させてあげる!まずはボクのことをとび箱先生と呼びたまえ!」

ちょっと鼻につく言い方だったけど、ぼくはとび箱を上手にとべるようになりたくて、「とび方を教えてください、とび箱先生!」と言った。

それからとび箱先生は、ぼくがとぶときのくせや苦手なところを細かく教えてくれた。「君は最初にとび箱を跳べなかったときに、とび箱を苦手だと思ってしまったんだ。本当は2回目に気にせずとんでいたら、ちゃんととべていたのかもしれないよ。だから、まずはとび箱は楽しいものだと思うことから始めよう」とび箱先生は言った。「でもこわいものはこわいんだよ!」ぼくはちょっと怒りながら答えた。

すると、とび箱先生は「じゃあボクを練習だと思ってとんでみてよ」と言った。「こわいよ!引っかかって落ちたらどうするんだよ!」とぼくは言った。とび箱先生は、「大丈夫、ボクが受け止めるから君は全力でとんでごらん」と言った。

ぼくは仕方なく、少し離れてとび箱先生に向かって走った。とぶ直前でこわい!と思ってしまい、とび箱に足が引っかかってぼくは落ちた。でも痛くなかった。とび箱先生の周りにマットが飛んできて、ぼくを守ってくれたのだ。ぼくは驚いて、もう一回やってみようと思った。次は全力で。

「次は絶対とべるよ。頑張れ!」と、とび箱先生が励ましてくれた。ぼくは全力で走って踏み切った。手をとび箱につけ、足を大きく開き、そのまま向こう側へとんだ。「やったじゃないか!君、とび箱をとべたね!」とび箱先生は嬉しそうに喜んでくれた。ぼくは初めてとび箱をとべた嬉しさで舞い上がった。

キーンコーンカーンコーン。

まずい!チャイムが鳴った!体育の授業が終わってしまった、とぼくは思った。それと同時に、ガララッと体育倉庫のドアが開いた。そして、ぼくと同じ体育係の友達が入ってきた。友達はぼくを見るなり「あれ、もう来てたの?はやいね!先生がタイマーとマット準備しといてって言ってたから一緒に持って行こう」と言った。

「え?体育って終わったんじゃないの?」ぼくはびっくりして聞いた。「何言ってるの?休み時間終わったから次が体育だよ。あと5分で始まっちゃうからはやく準備しよう!おれタイマー持ってくからちょっと待っててね」そう言ってタイマーを持って走って行ってしまった。

どうなっているんだ?とぼくは混乱した。もしかしたらこれは夢かもしれない。ぼくは自分のほっぺたをつねってみた。痛い。さっきの出来事は夢じゃないんだ!そう思うと、さっきまでの興奮がまたもどってきた。あ、そうだとび箱先生に聞いてみよう。ぼくはさっきまでいたとび箱先生の方へ行った。「とび箱先生!どうなってるの?」とぼくは聞いた。でもとび箱からは返事は返ってこない。よく見ると、さっきまであった目が消えていた。不思議に思ったけど、友達がぼくを呼んだからぼくはそのまま体育倉庫を出た。

そのあとのとび箱のテストで、ぼくは6段のとび箱をとぶことができた。突然ぼくがとび箱をとべるようになっていたから、先生や友達は驚いていた。「どうやってとべるようになったの?」と友達に聞かれたけど、ぼくはとび箱先生のことは言わなかった。きっと、とび箱先生はぼくだけじゃなくて他の人のことも応援しているだろう。

ボクは今日とび箱をとべたことが嬉しすぎて、明日からの学校も楽しめそうだと思った。体育が終わり、体育倉庫に道具を片付けに行ったときにとび箱を見た。もうそれはとび箱先生じゃなかったけど、ぼくはとび箱先生が笑っているように見えた。

学校の帰り道、ぼくは嬉しい気持ちのまま帰ったが、明日の時間割を見てあることに気づいた。明日の2時間目は算数のテストだ。一気に気持ちが暗くなった。明日はどこに隠れよう。やっぱり学校はユーウツだ。



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