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『新版:生きのびるためのデザイン』が出版されました。

デザインに携わる人はもちろん、デザインに興味があるという人も読んだほうがいいと信じている本がある。それが『生きのびるためのデザイン』だ。
大変光栄なことに、その新版に解説を書かせてもらえることになった。そこで改めて本書を最初から最後までじっくり読んでみた。読後の感想は「デザイナーとしてすべきことは、今もこの本のなかに書いてある」というものだった。

著者のヴィクター・パパネックについて、デザイン関係者に聞いてみると「知ってるよ」という返事が多い。ところが、実際に最初から最後まですべて読んだという人は少ない。わざわざ「読みました?」と確認するのは野暮だが、会話をしていると読んでいないことはわかる。「デザイン思考っていう言葉は2000年くらいから、アメリカのIDEOが使い始めたけど、最近は少し影が薄くなってきたよね」などという話になると、1971年に書かれた『生きのびるためのデザイン』のなかに「デザイン思考」という言葉が何度も登場していることを知らない、つまり「読んでないな」ということがわかる。

「パパネックは課題解決のデザインが大切だとかいうけど、いまや課題解決より課題発見のほうが大切だよね」という話を聞くこともある。『生きのびるためのデザイン』のなかでパパネックは「課題発見」も「課題解決」も大切である、と述べている。つまり「読んでないな」ということがわかる。

ほかにも、利用者が参加するデザインの重要性や、「ひし形プロセスから蝶ネクタイ型プロセスへ」、「専門家型デザイナーから万能人的デザイナーへ」など、出版から50年以上経った現在でも、ものすごく大切なデザイン概念がたくさん提示されている。それなのに、知っているだけで読んだことがないというデザイナーが多いのはすごくもったいない。本はすでに存在する。あとは読むだけだ。読めば、デザイナーとして自分が何に取り組むべきかが明確になるし、どう取り組むべきかを教えてくれている。『生きのびるためのデザイン』はそんな本である。

自分はデザイナーじゃないけど、デザインには関心があるという人にもオススメだ。デザインというのは「おしゃれなものを設計する行為だ」と考えている人にぜひ読んでほしい。それはデザインというよりデコレーションだ。そして、パパネックはそんなデコレーションが社会の課題をますます生み出していると指摘する。デザインは、社会に1割しかいない富裕層のためだけに奉仕する行為ではないし、世界に1割しかいない先進国の国民のためだけに奉仕する行為ではないし、地域に1割しかいないデザイン好きのためだけに奉仕する行為でもない。残り9割のためのデザインを考え、実践すべきである(アメリカで開催された『残り9割のためのデザイン展』という展覧会名を知っているデザイナーは多いかもしれないが、その論拠が『生きのびるためのデザイン』に書かれていることを知っているデザイナーは少ない)。

そんな『生きのびるためのデザイン』の新版が発売された。いくつかの点が修正され、解説として拙文を加えさせてもらった。学生時代からの愛読書である本書に解説の載せることができたのは光栄なことである。ソーシャルデザインやコミュニティデザインに携わるようになったのも、まちがいなく本書の影響である。人間の欲望や嫉妬を煽りながらオシャレなデザインを普及させようとしているデザイナーには、ぜひ読んでもらいたい本である。

Facebookの「コミュニティデザイン部」というグループで、定期的に開催している「コミュニティデザイン塾」でも、いつか詳しく解説してみたいと思う。3日間くらいかけて、最初から最後までじっくり解説したい。それくらい大切だと思っている本だ。


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