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「100日後に死ぬワニ」が話題になって心身症の私が思ったこと

「100日後に死ぬワニ」というTwitter上の連載漫画を昨日初めて知った。


この作品が話題になるのはとてもよくわかる。

昨日初めて知ったものの、やはりとても印象的な作品なので最初から読んでしまった。はっきりとしたことを描かない終わり方もこの作品らしくて良かったと思うし、何気ない描写に作者のセンスを感じる。人間いつ死ぬか本人にも誰にもわからないのだから、今やりたいことが何なのか改めて考えてほしいというメッセージがうかがえる。
みんなこの作品を見て、「1日1日を大事にしよう」「死を意識して生きていなかったけど、いつか終わりがくるということを再認識させられた」と言っている。

全く水をさすつもりはないし、そのとおりだと思うのだが、ちょっと何かが引っかかっている。私はどちらかというと、ずっと「死」を意識して生きてきた人間だからだ。「明日死ぬかもしれないと思って悔いのないように生きよう」というのは素晴らしいことだと思うけど、毎日心のどこかで死のことを考えながら生きるのは結構しんどいものだ。ポジティブな方向にだけシフトして考えられたら、どれだけいいだろう。


高校の時、倫理の先生がこんな話をしてくれたことがある。
健康診断に引っかかり、末期がんかもしれないと医師に言われたことがあり、もし本当にそうだったら余命あと少しだと告げられたそうだ。
先生は、幸いその病気ではなかったらしいのだが、最終検査結果が出るまでの間に奥さんと話し合って「こういうふうに残りの人生を生きよう」と決めたらしい。

先生は言っていた。「正直、病気をテーマにしたドラマなんて見れなかった」と。みんな普段、重い病気を抱えた人の小説や映画、ドラマを見ているけど、ああいうのは自分が死なないと思っているから見れるのだと。「本当にあと少しで死ぬ」と思っていたら、怖くて怖くてなかなか直面できないものだ、と。

私は非常にこの話が印象深くて今でもよく覚えている。私もその頃からずっと、身体のちょっとした不調に目を向けて、癌かもしれないとか病気かも知れないと思うことがあって、ちょうど身体に不調が出ていたときだったから。医療もののドラマは今でも見るのが怖い。なぜなら自分の身に起きるように思えるし、余裕がない時に見ると本当に辛くなるから。

「100日後に死ぬワニ」の主人公のワニは、自分が今日突然死んでしまうということを知らなくて、知っているのは漫画を第三者の視点で読んでいる私たちだけ。私たちだってこのワニと全く同じで、生かされている。いつこうなるかわからない。この構造に気がついているどころか強く意識しているから毎日しんどい。
「病気のこととか死ぬことばかり考えて人生終わったらもっとしんどいでしょ。やりたいことや楽しいことをやりなさい」と母親が言った。的を得すぎていて何も言えないが。


心身症の人は、ちょっとした身体の症状に気がついて「もしかしてこれで死ぬのかもしれない」と些細なことで不安になる。死ぬことまではっきり考えているのは少数派なのかもしれないけれど、心身症の根源になっているのはやはり「死」だと思う。

母親が言ったとおり、全員平等に終わりが来るのだから、やりたいことをやるだけだ。でも、もし明日死ぬとわかって「悔いのないように過ごしなさい」と言われたところで私はパニックになってしまうと思う
何がやりたいことなのかよくわからないし、好きなことだったらいくつかあるものの、死ぬ瞬間までやりたいことなのかと言われたらそれはどうかわからない。別に命かけてやっている仕事もないし、そこまで没頭している趣味もない。ただ普通に会いたい人に会って話ができればいいかなと思う。特別死ぬ前にやりたいことなんてない。


こういうことに高校生の時に深く悩みすぎて、苦しくなった。結局色々な友達だったり大人に話を聞いてもらって「あまり深く考えないほうがいい」ということが分かって、私は楽になった。私にとって、死を考えすぎず普通に毎日を生きることがいいのかなという結論に至った。だって考えたって、考えなくたって絶対にいつかは来るものなのだから。

いろんな性格の人がいるからもちろん、普通に前向きに捉えられる人もいると思う。だけど私のように考えすぎると苦しむ人もいる。


色々と考えた末に思うのは、やはり人に優しくしたいとか、喧嘩したまま別れたくないということだ。そう思ってから、私は後悔したまま別れた人はいない。伝えたいことはすべて伝えたし、言いたいことをそのままにはしたくないと思う。


5年くらい前にこのPodcastの番組を聴いていて、最後のパートで「この人とはもう二度と会えないかもしれないと思って行動している」というオノ・ヨーコと、宇宙飛行士の若田光一さんの話が出てきて私もヒントになったのを覚えている。

(ちなみにこの番組は今ニコニコ動画で続いていて、かなり面白いのでぜひ聴いてみてほしい。恋愛のことだけではなくて人間の生き方や心理の面で掘り下げたトークがあり、私はいくつも深い気づきがあった。)

私もこの話を聞いてから、そのことだけは意識するようにしている。
誰にとっても生まれた瞬間からカウントダウンが始まっているのは事実だけど、それはある意味諦めなければならない。
そして、よく「時間は限られているのでやりたいことを後悔なくやろう」と言われるので自分が生きる意味みたいなものを考えてしまう。しかし、そんなものは簡単に分からない人も多いと思う。


この人と会えてよかったと周囲に思ってもらえるような人でいたい。私はこのワニの話を受けて、ただそんなふうに考えたい。




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