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なぜオランダで包丁研ぎビジネスをはじめるのか

私は最近ドイツの大学院でグローバルスタディーズの勉強を終えて、2024年上旬にオランダで包丁研ぎのビジネスを始める準備をしている。具体的には、市場調査、聞き取り、Webサイトの作成や下調べ、製品やサービスの構想を練るなどのことをしている。

今回は題名の通り、なぜビジネス経験もなく包丁研ぎ職人というわけでもない私がオランダで包丁研ぎビジネスを始めたいのかを記す。


美しいものを通して、人の心と生活を豊かにしたい

私は美しいものが好きだ。見た目だけの話でなく、料理や音楽、人々との深い交流、綺麗な景色など、とにかく人生を豊かにしてくれるものを私は美しいと感じる。
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私はドイツでの大学院の勉強がコロナと丸かぶりしたこともあり、多くの時間をオンラインで過ごすハメになった。幸い私のいたフライブルクという街は、山や川、湖などが多くあり景観が非常に美しく、学生街ということもあり雰囲気も非常にゆったりしていた。そのため、どちらかというとコロナ中にしては良質な生活を送れていたのかもしれない。しかし、パソコンで過ごす時間は多くあり、この期間私を支えてくれていたのは音楽や綺麗な景色、自分でつくる料理だった。
料理をたくさんするうちに、興味が最初は包丁に、そして包丁研ぎに向かっていった。日本に一時帰国するたびに包丁や砥石を買い、研究を始めた。
そして徐々に研ぎの奥深さや、研いだ包丁の使い心地にハマり、気がつけば様々な包丁を用途に合わせて最適に研ぐことができるようになった。周りの学生や友達の包丁も研いであげるとかなり喜ばれた。

自分で研いだ包丁

研ぐという行為は精神を落ち着かせ、その瞬間に最大限集中することが求められる。少しでも角度や力の入れ具合が変わるだけで、鋭さやその持ち具合が変わる。しかしうまくいった時は見た目も非常に美しく仕上がり、その鋭さは非常に心地いいものだ。これを私は非常に美しいと思う。オンライン上ではこのような体験は決して得られないのではないだろうか。この美しく実用性のある行為を日本の外に広めることは非常にわくわくすることだ。3年以上続いたオンライン生活を経た今、特にそう思う。

少し前までは欧州の国際機関や金融系の企業などを就職先として考えていたが、最近はこの研ぎサービスの構想に夢中になっている。もちろん国際機関も金融機関も社会に必要なものだが、私はどちらかというと人の心を豊かにすることに貢献したい。問題を解決するよりも、生きることを豊かにする価値を生み出したいのだ。正直、包丁なんて研がなくても一応料理はできる。私の取り組みたいことは、「包丁を鋭くする」ということだけでなく、研ぐという文化を広げることだ。研ぐという美しい行為に付随する安らぎや喜びなどをひっくるめて提供したい。

欧州において良質の研ぎサービスや砥石が極めて少ない、また研ぎ方を人々が知らない

欧州では包丁をどうやって研いでいるのか。そもそも研がない人が大多数ではあると思うが、「研いでいる」人もいる。多くはv字型の金具に包丁を擦り付ける簡易型シャープナー、スチール棒、そして中国製の砥石だ。前者二つは研ぎというより表面の汚れ落とし程度であり、包丁を根本的に鋭くすることはできない。
中国製の砥石はこちらのアマゾンで手に入るが、荒さの号数が出鱈目で研ぎ方の動画もメチャクチャだ。どう観ても包丁を研いだことのない人が実演している。

残念なのは、研ぎに興味を示す人、また実際に研いでみたことのある人は結構いるものの多くの人がこの中国製砥石を使っているということだ。
新しくドイツ人と知り合いになるたびに包丁研ぎの話をしているが、体感で20%ほどの人が包丁を研いだことがあったり、研ぎに興味を示したりする。そして研いだことのある人はどのような方法で研いでいるのか聞くと、この中国製の砥石を使っていることは少なくない。ちなみにこの中国製砥石は安く、正しく使えば研ぐことはできるため否定するつもりは特にない。
しかし、せっかく包丁研ぎ人口がある程度あるのだから、正しい方法で、良質な砥石を使って研ぎを実践してほしい。そして、感動が得られるような包丁研ぎをしてみてほしい。この気持ちが私の研ぎビジネスの根幹だ。具体的には、学校やプロの料理人向けの研ぎのレッスンや、砥石の販売、そして研ぎのサービスを提供する予定だ。

日本文化に貢献したい

私はドイツ大学院で学んだグローバルスタディーズを学んだが、実は関係ないように見えてこれは研ぎビジネスと深く関係している。
グローバル化やグローバル化の皮を被った欧米化が進む世界において、日本は文化の面でこれらの力に対抗し、文化や考え方の一極化を防ぐ防波堤のような存在になれると私は考えるようになった。『カタカナ語問題』で詳しく書いたが、非常に独特な文化を持つ日本は、植民地化を逃れたという意味でも稀な存在であると思う(思想的には大部分をアメリカに植民地化されたと思うが)。そして、この豊かな文化を守っていくことは非常に重要で価値のあることだ。
国内でも包丁周りの産業は衰退しているようだが、海外での認知や需要は広がりつつある。いいものに気がついてお金を払ってくれる人がいることは証明されているので、せっかくドイツに住んでいて研ぎの文化を広めたいと思っている私がこれをやるのは必然的だと言ってもいい。広く言えば、日本の包丁研ぎ文化を世界に広めることでその存続と発展に貢献したいということが、私の研ぎビジネスの原動力の一つとなっている。

なぜオランダなのか

研ぎビジネスをオランダで始めるのは、実用的な理由からだ。英語が使えてビジネスを始める環境が整っており、行政のデジタル化が進んでいて、ビザも取りやすい。どの点をとっても私が今住んでいるドイツとは比べ物にならなく良い。
あくまで私の印象だが、ドイツは全体的に保守的な一方、オランダは先進的で新しいものを柔軟に取り入れる部分がある。そのため包丁研ぎのサステイナブルさや瞑想的な体験が得られるという点を推していくと受け入れやすいのではないかという考えもある。


以上、なぜ私がオランダで包丁研ぎビジネスを始めるのかを簡単にまとめてみた。これからもこのビジネスや研ぎの話は逐次書いていこうと思う。


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