見出し画像

小平紀生『産業用ロボット全史 自動化の発展から見る要素技術と生産システムの変遷』日刊工業新聞社

産業用ロボットの源流は1960年代初頭のアメリカにあるものの、生産現場で使える産業機械としての市場は1980年代から日本を中心に形成された。1990年には日本製ロボットの供給シェア88%、日本市場の需要シェア75%と、ロボット大国となった。

しかし、1990年初頭のバブル崩壊、2000年のITバブル崩壊、  2009年のリーマンショックの3度の出荷台数の減少およびその後の回復で、国内需要から輸出型産業に変貌した。

しかし、2000年代には日本製ロボットの世界シェアダウンが始まった。爆発的な中国需要の支えられて出荷台数は増加したが、中国をはじめとするアジアの新興工業国製ロボットが市場に現れ、世界の構図は大きく変化し始めた。

だが、日本のロボット産業の世界シェアは50%を維持しており、依然として日本が強さを示している。

ところで、日本の製造業は、高度成長期には生産拡大とともに人的リソースも投入し、付加価値の向上を得たが、バブル崩壊以降、生産規模が伸び悩み、人的リソースの削減に伴いながら何とか付加価値を維持している状態が30年続き、この間に中国の製造業に一気に追い抜かれた。

バブル崩壊以後、就業者数が大幅に減って労働生産性は向上したが、それが生産総額の増加や付加価値の増加などに結び付かず、コストダウンに使ってしまい、デフレスパイラルを深める方向に向かった。

先進工業国を追う立場であればコストダウンは非常に有効な競争力となるが、新興工業国から追わる立場になるとコストダウンだけでは有効な競争力とはなり得ない。

2000年代に入り、韓国、台湾、それに中国が存在感を示し始めた。今後は確実に中国ロボット産業の追従を受ける。日本ならではの競争力は、基礎基盤技術から生産システムまで幅広くとらえる必要があり、基礎基盤技術の革新と実用化のスピードアップが今後重要となる。

まだ国際的競争力があるロボット産業ではあるが、中国などの新興工業国から追従をかわすためにはどうしたらよいか。その解答を得るのためには、今までの歴史を振り返る必要がある。

バブル崩壊以降、海外生産のための投資が多少行われたものの、国内での人や設備への投資が極力避けられ、それをコスト削減に回すことで、産業の競争力が没落し、何よりも新しいことへの挑戦が行われないため、価格以外では競争できない状態になった。

人件費の安いパート労働者、派遣労働者または外国人労働者を使用し、社員の教育訓練費を削減するなど、人的コストの削減することにより、賃上げも実施されず、国内の購買力が減少し、物が安くないと売れないいう負のスパイラルに陥った。

ITへの投資の必要性も、単なるコスト削減の手段としか考えない経営者のおかげで、DX化による事業の再構築も遅れてしまった。現状に満足する生活を良しとする意見もあるが、このままで現状の維持も果たしてできるのであろうか。

本書は、産業用ロボットを通じて製造業の将来を考えるためには、有益な書籍である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?