見出し画像

松浦大悟『LGBTの不都合な真実     活動家の言葉を100%妄信するマスコミ報道は公共的か』秀和システム

著者は元秋田放送アンウンサー、元民主党参議院議員、現在は議員ではないが、日本維新の会に所属しているらしい。本書に会うまで名前も知らなかった。

本書によると、著者は、気の置けない仲間へのカミングアウトなら大学生のときからしていて、アナウンサーになってからも、講演会などでゲイであることを話していたと言う。カミングアウトの定義は明確でなく、「日本で同性愛を公表した初めての国会議員は尾辻かな子氏だ」と殊更強調するのに違和感があると言う。

本書は第1章で、『新潮45』騒動を取り上げる。2018年7月、自民党の杉田水脈衆議院議員が『新潮45』8月号に「『LGBT』支援の度が過ぎる」という小論を寄稿した。これを立憲民主党の尾辻かな子前衆議院議員がツイッターで批判した。

7月27日には自民党前でデモが行われ、主催者発表で5千人が参加し、メディアでも大きく取り上げられた。この一連の動きを見て、著者は、「LGBTに差別発言を行う議員は当然野党にもいる」という趣旨の発言をツィッターに投稿した。

著者は、自民党議員には差別発言が多いと言われるが、実は野党議員も日常茶飯事のごとく問題発言をしていると言う。なぜかメディアは自民党議員の失言しか報道しない。

著者は、「言葉の断片をたらえて『差別だ』と糾弾し、制度を変えようとしても、問題の解決にならない。もっと、LGBTの実情を知ってもらわないといけない。」とし、杉田氏との対話を求めたが、実現しなかった。

著者は、「糾弾」という方法では差別感情がなくならないとし、「対話」にこだわる。

著者は、次の3点について話す。
1 LGBTは左派と思われているが、むしろ保守派のほうが多い。
2 LGBTはジェンダーフリー論者ではない。
3 性的嗜好と性的指向は、当事者が生存戦略としてあえて区分けしてきた  もので、本来は分けることはできない。

また、同性婚を求めるのは、同性愛者も1人で生きていくことに不安があり、パートナーを求め、さらに制度的に承認されることで安定性を求めたいと考えているからとし、その一歩手前の同性パートナーシップを求める。

著者は、性的少数者のことも、それに拒否感を持つ人のことも理解し、ゆっくりと世論を変えていくべきとする。生活を共にして、時間をかけて対話を重ね、「相手が困っているのなら助けたい」と思えることが、心からの理解だと言う。

LGBT活動家の自分とは違う意見を認めない視野狭窄なリベラルや、議論を許さず、目の前の異物を取り除くことが正義だと強迫神経症的に信じ込んでいる人に牽制球を投げる。著者は左に傾きすぎたLGBT運動を中道に戻したいと言う。

本書は、最近の左右両極端に分かれてしまう政治的分断について、ヒントを与えているように思う。単に相手を論破するのではなく、なぜ相手がそのように考えるのか、そこに相互の知識不足があるのではないかと思いをめぐらせ、ゆっくりと対話することが必要ではないかと思う。

ここでは、本書のほんの一部しか紹介していないので、著者の主張を知りたいのであれば、本書を読んで欲しい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?