春日太一『時代劇聖地巡礼』ミシマ社
時代劇について語るとすれば、最近ではこの人の右に出る人はいないと言われる著者による「時代劇のロケ地」を巡る紀行文である。
最近、テレビで時代劇がかなり減っている。NHK大河ドラマはあるものの、民放ではほとんど見かけない。本当に好きな方は専門チャンネルを見ているらしい。そんな少々肩身が狭い時代劇ファンにとって垂涎の本かもしれない。
時代劇は東京では撮影されないという。都市開発で「江戸の景色」はほとんど残っていないからである。東京にも以前はオープンセットがいくつかあったが、1980年代以降に宅地開発で消えてしまった。茨城にある「ワープステーション江戸」のオープンセットで、一部撮影されているが限界があるようだ。
そこで京都となるが、東映と松竹の両撮影所の時代劇に特化したオープンセットだけでなく、「江戸時代らしい空間」があるようだ。「実際の江戸時代よりさらに古の情感のある世界」であり、時代劇は「江戸時代の再現」ではなく、「現代人が《こうであったらいいな》という想いで創作したファンタジーの世界」である。
実際に時代劇のロケ地を巡って、著者がそのガイド役を務めている。 初日(2020年5月26日) 下鴨神社→上賀茂神社→青蓮院→南禅寺→伏見稲荷神社→中ノ島橋(嵐山) 二日目(2020年6月11日) 流れ橋→長岡天満宮(錦水亭)→光明院→大映通り→仁和寺 三日目(2020年6月12日) 等持院→大河内山荘庭園→二尊院→落合 四日目(2020年7月2日) 大覚寺→広沢寺→清涼寺→神護寺 五日目(2020年7月3日) 妙心寺→今宮神社(参道のみ)→東福寺 六日目(2020年7月4日) 梅宮神社 七日目(2020年8月26日) くろ谷金戒光明寺→新日吉神社→松本酒造(伏見)→宇治橘橋 八日目(2020年10月12日) 随心院→日吉大社→西教寺 九日目(2020年10月13日) 彦根城→西の湖(舟下り)→八幡堀→西の湖(陸側) 十日目(2020年10月19日) 今宮神社→谷山林道→沢ノ池 十一日目(2020年12月2日) 美山→摩気 十二日目(2020年12月3日) 広沢池→中之島の中州→西寿寺→化野念仏寺→東映太秦映画村→車折神社
カラーまたは白黒の写真もあり、京都および滋賀の旅行ガイドブックとしての役割も果たす。「鬼平犯科帳」のエンディング映像の今宮神社参道では、東門を背に右側「かざりや」、左側「一文字屋和輔」のあぶり餅のお店があるが、「かざりや」で餅を食う著者の写真が掲載されている。
著者による時代劇への想いが込められた本となっているので、時代劇ファンのみならず多くの人が手に取って見るとよいのではないかと思った。巻末の特集コーナーもよい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?