髙木一史『拝啓 人事部長殿』サイボウズ式ブックス ライツ社
最近、トヨタの若手社員の退職が目立つではないかと報じられることがある。本書の著者は、3年前にトヨタの辞めてサイボウズに転職している。
本書は、その著者から、トヨタの人事部長あての手紙という形をとっている。
著者はトヨタの調達部で働くことを希望しながら、思い掛けず人事部に配属となり、給与計算や福利厚生制度の企画・運用をする子会社へ出向する。さらに、2年目の12月には、本社労務室に異動となる。
社内のコミュニケーションをサポートする仕事につくが、会社の「風土」に違和感や、閉塞感を感じるようになる。
①1人の人間として重視されている感覚の薄さ
②1人ではなにも変えられない、という無力感
どうすれば日本の会社で働く人たちが閉塞感を感じないですむのか、この問いを考え続けながら、トヨタの理想や大切にしていることに共感しながらも退職をすることとなる。
本書の第1章から第4章までは、著者が各種の文献にあたりながら、トヨタの先輩から投げかけられた問いに、自らの答えを出している。
・なぜ会社の平等は重んじられてきたと思うのか?
・なぜ会社の成長が続いてきたのか知っているか?
・なぜ会社の変革はむずかしのか理解できるのか?
戦争中の職工員の身分差別の撤廃から、戦後の企業別組合の誕生に至る中で、職務に関係なく、一律平等に、長期雇用が保障される。また、「無限の忠誠」と「終身の保障」が会社の成長を後押ししてきた。しかし、日本全体が「会社に依存した社会」になってしまっている。この第1章から第4章だけでも読む価値は十分にあると思う。
著者のすごいところは、さらに、第5章として、あたらしい競争力の獲得を目指す12企業の現地レポートを載せている。現在、注目されている新しい企業の挑戦を本書で知ることができる。
そのうえで、著者はサイボウズの人事の考え方を紹介する。
①個人の理想(モチベーション)を会社はコントロールすることはできない
②労働力(雇用)をグラデーションで見ることを良しとする
モチベーションの視点から、情報共有をすることで、「主体性」、「多様性」、「創造性」を加速させる。情報の民主化によって、会社の変革は可能になると考える。
社会が「インターネット的」になっているように、会社での多様な距離感を認め、自立的な選択を可能とする。さらに、情報の「ジャスト・イン・タイム」(必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給するしくみ)を目指す。
著者は、「無限の忠誠」と「終身の保障」は、会社の成長が止まった企業では、「経営の圧迫」、「企業の封鎖性」、「ワークライフバランスの欠如」という状態をつくるとする。
雇用のバリエーションを増やすとともに、情報共有により選択の納得感を高めることを提案する。さらに、多様な形態の正社員、夫婦間のダブルインカムというモデル、会社と会社との副業、教育の機会増、マイノリティのためのしくみづくりなどを提案する。
最後に、著者は、1人だからなにも変えられない。一緒になってインターネット的な会社をつくっていくことを提案するとともに、トヨタの人事部長に返事を求める。
トヨタも人事制度の改革を進めているらしい。若手社員の退職についても、若手社員を理解してくれる人が職場にいないことが問題らしい。そこで、給与制度や、人事評価などの改革を行っているらしい。
著者が言うように、多くの会社が、「会社の理想の実現」と「社員の幸せ」を実現させるためにがんばることで、良い方向にいくことはできるであろう。サイボウズはIT技術を利用して、社員間のコミュニケーションを向上を実現している。
しかし、良い会社にしようとする意志こそが大事であり、それが、トップの意志でもあることがさらに重要であると思う。本書の真意がトヨタのトップに伝わり、トヨタの変革につながること、さらに同様に、日本の多くの会社の変革が行われることを期待したい。
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