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シャインマスカットは未来のスナック菓子

シャインマスカット - それは夢のような食べ物である。

ただのマスカットというだけでもおいしいのに、そこから種をなくしてより食べやすくした品種だ。果物に種がないというのは本当に素晴らしいことだ。スイカに種がなければ、何も気にせずかぶりつけるのに...リンゴに種がなければ、少しも残さず食べきれるのに...なんてことを夢見ている人は少なくはないだろう。シャインマスカットはその夢を叶えた。

パンパンに張った果肉の一粒を、種なんて気にせず丸ごと口の中に放りこむ。噛んだ瞬間に溢れ出す果汁。口の中には爽やかな香りとすっきりとした甘みが広がるのだ。そこにはブドウ種独特な渋みは一切ない。特筆すべきは皮がおいしいところだ。ブドウやマスカットを食べたときの食感はだいたいが「ブチュ」というようなものだろう。しかし夢の果実はそんな下品な音を奏でない。「サクッ」まるでスナック菓子のような軽くて小気味いい食感を生み出す。そして皮独特の苦味もまったくない。気づいたら一房なんてあっという間に食べきってしまう。こうして僕はシャインマスカットの虜になっていった。

しかしだからといってそんなに頻繁に食べられないのがシャインマスカットである。この時期スーパーにはシャインマスカットが必ずといっていいほど並んでいるのだが、そこに貼られた値段はどれも目を疑うものばかりなのだ。だいたいのものが1500円超えである。なんならいいものだと3000円近いものもある。これではなかなか気軽に買えない。光り輝くシャインマスカットを買うたびに自分の財布がみすぼらしくなっていくのだ。皮肉なものだ。シャインマスカットの皮肉なら食べたいが。

それでもシャインマスカットは食べたい。ただ高い。この葛藤を僕は何度も繰り返していた。ここで一度冷静になって考えたい。果たしてシャインマスカットは本当に高いのだろうか?

シャインマスカットは品種改良された果物である。大粒できれいで育てやすいが独特の香りを持つ「ブドウ安芸津21号」と品質と味は最高だが見た目が悪くなりやすい「白南」を使って生み出されたのだ。これにより香りも見た目も、そして皮までもおいしい最高の果物ができた。一度食べ始めると止まらないおいしさとサクッとした癖になる食感であり、シャインマスカットであればいくらでも食べられてしまう。これはもはや科学を使って開発された未来のスナック菓子と言ってもいいだろう。



西暦2516年 ー

人間は自分で歩くことをやめ、車は車輪を捨てた。政治家は全て人工知能に入れ替わり、必要な栄養は全て液体としてチューブで体に取り込まれる。こうして人々はあらゆる無駄を排除して生活していた。ただそんな人々もときにはジャンクフードが食べたくなることがある。それがシャインマスカットである。未来ではシャインマスカットはスナック菓子として愛されているのだ。
子供達は毎日夕飯前の時間に戸棚に隠されているシャインマスカットをお給仕ロボットの目を盗んで見つけ出そうとする。しかしそれはそんなに簡単なことではない。監視ドローンで見ていたお母さんが遠隔で「コラ!もうすぐ夜のチューブの時間よ!その前にシャインマスカットなんか食べちゃ栄養の吸収が阻害されちゃうでしょ!」なんて怒られてしまう。
一人暮らしの大学生の楽しみは深夜に食べるシャインマスカットだ。次の日にバイトがないときは映画を見ることに決めているのだ。75Gの回線を使ってVRで観る映画は最高である。まるで自分がその場にいるような感覚で観ることができる。まわりは戦場であり、自分の仲間たちはどんどんやられてしまっていく横でシャインマスカットを食べるのだ。あまりに熱中しすぎて隣の部屋の大学生から「うるせえ!」と脳内に直接言われながら壁ドンされることもある。
未来ではシャインマスカットはコンビニで売られている。一口サイズほどの大きさになってしまったうまい棒と同じ売り場に並べられているのだ。そこに貼られている値札には1500円と書かれている。未来ではシャインマスカットの生産は容易になり価値自体は下がっているが、物価も上がりまくっていて現代と変わらない値段のままなのだ。



こんな未来を想像してほしい。そうするとシャインマスカットって安くないだろうか?未来のスナック菓子を物価が上がった未来と同じ値段で買えるのだ。これは嬉しい。そしてもうすぐシャインマスカットが店頭に並ぶ季節が終わる。未来ではシャインマスカットの工場があるので年中食べられるが、現代では秋だけだ。こんな貴重な果物をちょっと背伸びした価格で食べられるなんて最高である。もっと多くの人が躊躇せずシャインマスカットを買うべきなのだ。僕も買っていこうと決めた。

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