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村上春樹作品を全作読んでいる36歳公務員の『街と不確かな壁』読書感想

村上春樹の新作『街と不確かな壁』をついに読み終えたので、村上春樹作品を長編・短編問わず全て読破している私が、ネタバレありで読書感想を語っていきたいと思います。

よかったらお付き合いください。
(作品を読んでない方は、是非読んでからまた来てください)


私にとっての村上春樹作品

最初の出会いは、中学生のときに国語の教科書にでてきた『』という短編小説です。

その短編を国語の先生が朗読してくれたとき、私はカミナリに打たれたような衝撃を受けました。「私が心の奥底で感じていた世界と私とのギャップのようなものをこの作者=村上春樹は表現してくれている!」とめちゃくちゃ感動して、その後、貪るように村上春樹作品を読んでいきました。

ちなみに、その国語の授業後に友達と感動を共有しようとしたのですが、だれも私のように感動しているクラスメイトはいなくて、「ああ、村上春樹の作品は、わからない人にはわからないんだなあ」と生意気にも思ったものでした。

村上作品は長編・短編合わせるとかなりの数があるので、すべて読破できたのは大学生のときでした。読破した後も、好きな作品は何度も読み返していたので、私の人格形成において村上春樹作品はとても大きな存在を占めているのは間違いないと思います。

ちなみに私の中で好きな村上春樹作品ランキング
1位『ねじまき鳥クロニクル』
2位『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』
3位『ノルウェイの森』
4位『神の子どもたちはみな踊る(短編集)』
5位『1Q84』
です。

村上春樹が翻訳した作品もほとんど読んでいて、『グレート・ギャツビー』やレイモンド・カーヴァーの短編も大好きです。



願わくば、ぼくが「16歳のきみ=図書館の少女」を救う(取り戻す)物語であってほしかった!


では最新作『街と不確かな壁』の感想を書いていきます。

まず、冒頭の書き出しは最高に痺れました。

きみがぼくにその街を教えてくれた

街と不確かな壁

17歳のぼくと16歳のきみが恋に落ち、きみが壁に囲まれた街のことを僕に語りかける。ぼくときみは手紙のやりとりをよくしていたが、やがてきみは突然ぼくの前から姿を消す。

…このあたりの世界観は、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』と『ノルウェイの森』の感じに似ていて、とてもドキドキする展開でした。

「本当のわたしが生きて暮らしているのは、高い壁に囲まれたその街の中なの」

街と不確かな壁

『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』では、壁に囲まれた街の図書館司書の女性が主人公にとってどのような存在で、その女性がどうして影を失ったのかなどの詳細ははっきりと描かれていませんでした。

なので私は、この最新作ではついに「図書館司書の女性」を取り戻す(または再喪失する)ために主人公が自分の殻を破っていく物語が展開されるのではないかと予想し、ワクワクして読み進めていきました

ところが、第1部は『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の「世界の終わり」パートとほとんど同じ展開、むしろ簡略版で終わり、「さあ、第2部からが本番だ!」と意気込んで読んだものの、大きな山場のない淡々とした物語に終始していて、結果、図書館司書の女性(16歳のきみ)が物語に重要な役割を果たすことなく終わってしまいました

第2部以降は、子易さんという図書館館長の身の上話と、イエローサブマリンの少年の特異性が物語の中心になってしまい、その二人は主人公の心に寄り添う役割はしたものの、変化させるような刺激はなく、あまり読み応えのない展開になってしまったと思いました。


主人公に心の成長はあったのか?

私個人的に、「主人公に心の変化がある」というのが面白い小説の条件だと思うのですが、この『街と不確かな壁』には、主人公の心の変化を感じ取ることはほとんでできませんでした。

物語の中盤以降は、子易さんが幽霊であったこと、イエローサブマリンの少年の特異性と失踪、コーヒーショップの女性と良い仲になること、という主人公の成長とは関係ないところで物語が進行していったように思います。

『ねじまき鳥クロニクル』における壁抜けと義理の兄との決闘や、『世界の終わり〜』におけるやみくろとの戦い、『1Q84』における教祖との戦い…のような、主人公が自分の殻を破るクライマックスはなかったと思います。

最後に

さんざん酷評に近い感想を書きましたが、それとゆうのも「村上春樹作品という高すぎる期待の壁」(ちょうど作品に出てくるような高い壁)があるせいでもあります。

この作品が無名の作家が書いた作品であれば、「なんだこの作品は!」という大絶賛の感想だったかもしれません。

さらに言えば、もしかしたら私が中学生のときに周りのクラスメイトに感じたのと同じように、「単純に私が作品の良さを分からない人」であるだけかもしれません。

なにはともあれ、村上春樹の新作を読んでいる時間は、この上ない幸せな時間でした。あいかわらず読みやすくて美しい文体には圧倒されました。

また次の新作も楽しみにしてます。


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