マイメロ気取りの妊婦が肉まんによって地獄に突き落とされた話
"つわり"とは。
妊婦が妊娠2〜4カ月頃に、悪心・吐気・食欲不振を起こす状態。(広辞苑より)
私も例に漏れず、ツワっていた。
つわり。
それはラブストーリーよりも突然にやってくる。
電車で隣に座ったお兄ちゃんの香水SAMOURAIの匂いで弔いTOMURAI状態になったり、
つわり悪化オリンピック日本代表選手である「米を炊く炊飯器の煙」を浴び、バルサンで燻され死にゆくゴキブリの気持ちを味わったり、
突然苺しか食べられなくなり、「私マイメロちゃん♡マイメロちゃんの主食はいちごだよぉ☆彡」と、サンリオの人気キャラクター気分で毎日を過ごすババアになったりした。
(余談だが、米の炊ける匂いは赤ちゃんのうん○の香りにそっくりなため、妊娠中はおろか産後も一切いい香りに思えなくなる呪われし香りである)
寝ても覚めても何をしていても、生きている限り気持ち悪い。
それどころか生活の至る場所につわりを加速させる地雷が埋まっている。
そんな生き地獄がつわりなのである。
✳︎✳︎✳︎
そして人間の3大欲求の一つである食欲。
それもつわりの手にかかると「毎日何を食べたいか」ではなく、「何なら食べられるか?」という考え方に変わってしまう。
「今これなら食べられる」と、買ったものが、
家に着いた途端
「誰だい???こんなもの買ってきたのは!!!……私だよ!!!!」
と、にしおかすみこが脳内で発狂しながら一気に受け付けなくなるくらいそれはそれは理不尽で、女心よりも、ましてや秋の空よりも分単位で変動が激しいのだ。
***
その日、私は風邪にかかっていた。
妊娠で免疫が弱っている中かかる風邪は本当に辛く、苺しか受け付けないワガマママイメロボディをますます加速させていた。
高級なイベリコ豚はどんぐりだけを食べて育てるらしい。
では、苺のみを食べて生きている私も今、苺豚として高値で取引されるのでは?
旦那も仕事でいない日中。
そんなことを考え、高級な苺豚としての尊厳を保ちながら半分死にかけで横たわっている私の脳内に、突如一つのインスピレーションが舞い降りてきた。
「肉まん」
ふんわり柔らかい皮に包まれたあのあまじょっぱい肉の餡。その柔らかさの中にアクセントをくれるコリコリとしたあのタケノコ…
あぁこれは、神のお告げ…
551だなんてわがままは言わない。
井村屋でいい。
肉まんなら、今食べられる気がする。
というか、食べたい!!!
サンリオのアイドルとして生きてきた私にこんな気持ちが湧くなんて。
つわりで気分もすぐれないどころか、熱でふらふらする。
お腹も重い。
でも、苺しか食べてこなかった豚…いや、私の中のピュアピュアマイメロちゃんが突如範馬勇次郎へと豹変し「豚同士!!!共食いッッ!!!強くなりたくば!!肉まんをッ!!喰らえ!!!」とささやいている。
愛らしいキャラクターからグラップラー刃牙へと一気に画風が豹変した私はすぐさま財布を持って、家を出た。
近所のコンビニに着くや否や、真っ先にレジに向かう。
「肉まん1つ」
「プレミアム肉まんと通常のもの、どちらになさいますか?」
「(プレミアムとかあるの?)普通で!」
一分一秒を争うつわり中のこの食欲。
気分が変わらないうちに!
一秒でも早く!!
この食べたい気持ちを失わずに肉まんを!!
喰らいたい!!!
急いで家路に着いた私は手を洗い、すぐさまそれにかぶりついたッッ!!
グニャッッ
その食感は、なぜか私が知っている肉まんよりも遥かにかみごたえがなく、やわらかかった。
おまけに肉まんの味でもない。
もしかして…腐っている????
脳味噌が混乱を起こし、わけがわからなくなりながら肉まんの裏に張り付いている薄紙をみるとそこにあった文字は
「海老明太チーズまん」
レジの佐藤ォオオ(仮名)ーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!
「な…ぜ…」
私はつわりの波に飲み込まれ、そこで生き絶えたのであった。
犯人はヤス…いや海老明太チーズまん
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