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読書録:古代の神社と神職

加瀬直弥『古代の神社と神職』(吉川弘文館)
寺院と並んで人々の信仰の拠り所となっている神社だが、仏教の影響や明治期の神道国教化計画の影響を受けて、その実態は変化してきた。現在の神社の形態が、そのまま昔の神社の形態であるわけではない。
本書は古代(〜平安時代)の神社と神職についてまとめている。内容は前半が神社、後半が神職についてだが、いくつかの論文をベースにトピックを集めて一冊にしたようで、全体的に見て、内容はややまとまりを欠く。そのため、一冊で一つのテーマを扱っているというタイプの本ではない。
第一章では神社の立地と社殿が取り上げられている。考古地理学の観点から、遺跡などの立地には大いに関心があり、本書で最も楽しみにしていた部分である。章前半は神社の立地の分類が行われているが、章後半は主に伊勢神宮について述べられている。第二章は平安時代前期の神社とその維持管理の実態を取り上げている。律令制下において、一部の神社は国家が運営等に関わっていたが、律令制の変質過程において、神社を取り巻く諸制度も変わっていったようである。
ここまでが主に神社についてで、次の第三章からは神職について述べられる。まず第三章は神職の職掌についてである。古来、カミマツリに携わる人々を祝部(はふりべ)といい、その祝部の実態を論じた後、氏神における祭祀の実態を明らかにする。第四章は威儀具である笏と神職の関係を論じる。第五章は古代の女性神職について述べる。この章が本書全体で最も興味深かったのだが、古代においては女性神職(巫女)のほうが男性神職(神主)より地位が高かったようなのである。思えば、邪馬台国の女王・卑弥呼も巫女で、神に仕え、必要に応じて神がかりする巫女のほうがより神に近い存在とされたのだろう。少なくとも古代においては、女性の血の穢れ(月経、出産)は忌まれていなかったことがわかる。
全体にややまとまりを欠く印象がある本だが、個々のトピックはどれもおもしろく、興味深く読めた。

https://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b357759.html


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