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読書録:古代史のテクノロジー

長野正孝『古代史のテクノロジー』(PHP新書)
古代エジプトのピラミッドを始め、驚異的な技術で造られた古代の建造物は多い。時として、その技術が伝承されず失われてしまっていることから、「古代の人間がそんなだいそれた技術を持っているはずがない」という奢った思い込みでそれらをオーパーツ扱いする人がいる。それは発展史観が生んだ悪しき考えであり、科学技術の恩恵を当たり前のものとして享受している現代人のエゴにすぎない。
私は常に「現代人は古代人を過小評価しすぎている」と言ってきた。現代人は、古代人が確立した技術をより簡便にしているに過ぎないのだ。本書はそれをよくわからせてくれる本である。
著者はまず、三内丸山遺跡の巨大タワーから話を始める。このタワーは著者によると縄文時代の技術で充分建てられるそうだ。このことは、先に触れた「現代人は古代人を過小評価しすぎている」ことを思い知らせてくれる。
その後、著者はいったん海洋交易に視点を移し、工芸技術の伝播ネットワークが日本海沿岸にあったことを明らかにする。そうした朝鮮半島との人的交流の歴史を踏まえて、再び土木技術に目を向け、古代のインフラ整備に注目する。著者は運河が多用されていたと推察しているが、奈良県纒向遺跡では実際に運河跡が見つかっており、この運河は地上に痕跡を残していなかったことから、今後、未知の運河が発見される可能性は大いにある。
運河に関連して、著者は運河や河川の浚渫で出た土砂が古墳築造に用いられたという仮説を立てている。古墳は周濠を掘った際の掘削土で築造されているが、それだけで土量を賄えたのか疑問に思っていたので、この仮説は目からうろこが落ちた。
著者は最後に重要な提言をしている。古代人は治水を考えなかったというのだ。著者曰く、古代の河川開発は灌漑や水運のためであり、水をコントロールする治水という考えはまだなかったという。私の知る範囲では、奈良盆地の河川の流路が現在の形に固定されたのは12世紀だとされていて、どうやら中世になってようやく治水という考えが出てきたらしい。
著者の専門である土木技術、海洋交易についての考察は非常におもしろく興味深かった。ただ、そこから先へ踏み込むと首を傾げざるをえない部分もあった。


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