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読書録:気候適応の日本史

中塚武『気候適応の日本史』(吉川弘文館)
散歩や通院時に持っていっていた本。これも今年4月以降の過鎮静状態?だった時期に読むことができず、読了まで時間がかかった。
本書は吉川弘文館の一般向け教養書シリーズ「歴史文化ライブラリー」の一冊だが、トピック的なテーマを扱う本が多い歴史文化ライブラリーでは珍しい通史であり、また自然科学寄りの内容であることも異色である。
本書は大きく二部構成で、前半は人類史と気候の関係について述べ、後半は3つの気候変動(短期、中期、長期)と歴史上の変革の関係を述べる。
3つの気候変動周期のうち、短期周期は数年、中期周期は数十年、長期周期は数百年単位である。著者によると、このうち中期周期は歴史学、気候学ともに近年まで未知の領域であったという。
短期周期の気候変動は備蓄でしのげ、長期周期の気候変動は人口の増減が誤差の範囲に収まり乗り切れる。実は、いちばん危険なのは中期周期の気候変動で、これは数年単位の気候変動より大規模になりやすく、かつ安定した時代が長く続く中で人口が増える過程で起きることから、備蓄でしのげず餓死者が出る。突然来るため、晩婚や少子化志向などによる人口抑制も間に合わない。先に読んだ『格差の起源』(オデッド・ガロー/NHK出版)によると、生産技術が向上して収穫高が上がるとその分人口が増え、生活水準は変化しない(養えるギリギリのラインが維持される)という。そういう状況であってみれば、突然の大規模な不作→飢饉を無事に乗り越えられるはずがない。
ちなみに、江戸時代に相次いだ大飢饉の多くは、中期周期の気候変動で説明がつくという。
我々が思っているより、気候変動は人類の歴史に影響を与えているようだ。今後はこうしたマクロな視点からの歴史研究も必要になってくるだろう。これは、歴史学と理化学的分野の協同研究の大きな成果である。


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