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読書録:男尊女卑

成清弘和『男尊女卑』(明石書店)
前近代の日本は男尊女卑だったという言説が、広くまかり通っている。日本は古くから男尊女卑の国で、それは戦後の民法改正まで続いたというのが定説になっていた。
ワイは学芸員だが、地方自治体勤務の公務員でもある。だからというわけではないが、わりと差別に直結する話題には敏感だ。だが、小中高校時代の人権学習で差別について納得いくまで学んだという感覚はなく、職場の研修でも「差別をなくそう」一辺倒で差別の根源そのものについて学ぶ機会はなく、消化不良感は強かった。
本書は法制史の立場から古代〜近代の男女観を考察している。意外なことに、奈良時代の律令では女性の権利がある程度認められていて、男尊女卑の傾向はなかった。夫婦別財制である点など、むしろ現代に近かったのでこれは驚き。男尊女卑の萌芽が見られるのは武士の世となった中世以降のことで、支配階級への儒教の浸透が背景にあるらしい。ただ、この頃も女性の権利はある程度認められていて、女性が完全に男性に従属するようになるのは明治時代、明治民法で家父長制が確立してからと、我々が考えるよりもかなり遅い。明治民法はヨーロッパ各国の民法を参考にしているが、当時のヨーロッパも軒並み男尊女卑の傾向が強かった。
余談だが、イエ制度が明確に規定されたのも明治民法において。それまで武士階級のものだったイエ制度(家父長制)を一般庶民にまで適応したのだ。
ちなみに、中国は古くから男尊女卑の傾向が強いが、これは「嫁いできた女性は宗族に入らない(入れない)」ことに由来する。ヨーロッパの場合はキリスト教的保守思想から出ているので、男尊女卑の由来(思想的背景)もいろいろだなというのが率直な感想だ。
目から鱗が落ちる、いい論考だった。これはぜひとも多くの人に読んでもらいたい。


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