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6ヶ月に渡る台湾留学で学んだこと/翻訳アプリが進化する中、本当に語学力は必要なのか

私たちは言葉に生かされているし、殺されている

生活をとても愛憎して岩のとかげに秋のつめたさがある
千種創一


翻訳アプリがあればそれでいいの?


 6ヶ月にわたる台湾での留学生活が終わろうとしている。振り返ればこんなにも濃密な日々を過ごしたことは初めてで、留学という選択をとった自分を褒めてあげたい。それほどに刺激的で、大変で、充実した日々であった。

 授業に慣れていない頃は先生の言っていることは意味不明で、聽不懂すらも言えなかった。そんな自分が今は台湾人や同じように中国語を勉強している子たちとコミュニケーションをとっている状況が不思議だと思う。頑張ったぞ自分。

 だが、最近は翻訳アプリの登場によって、〇〇年後には翻訳アプリで滞りなく翻訳できるから語学力は必要ないと言われることがある。私はそのような提言を真っ向から否定したい。というか、否定し続けることでよりよく生きるということを証明したい。

 私は何度もこのnoteで、言語はあくまでツールという枠組みを飛び出さないということを何度も提言している。そう、大事なのはツールを持っているということではなくて、ツールを用いて誰と会話し、自分にどのように還元するかが大事なのである。私は中国語で簡単な会話をすることができるおかげで、日本の人口約1億2000万人プラス中国、台湾の人口合わせて約14億人と会話することができる。大事なのが数ではないのは重々承知だが、極論を言えば最大15億通りの考え方を知ることができ、15億通りの価値観を自分の血肉とすることができる。そういう意味では学びしろ、生きしろが自分の中で15倍になったことになる。発明でしょこれ。

 じゃあ翻訳アプリを使えば70億人と会話できるからそれでいいじゃんと思うのが人の常だが、現実はそううまくはいかない。細かいニュアンスが削ぎ落とされた、工場で大量生産されるような綺麗で異質な言葉では、自分のパーソナルは不思議とうまく伝わらないのである。だが、実際に会話すると、たとえ母語じゃなくても言葉尻の感じやチョイスする語彙でその人の何となくの為人や性格がこれまた不思議とわかっちゃうのである。こうなると本当に楽しい。語学ハマってきた〜と思う一つの瞬間である。


私たちは言葉に生かされているし、言葉に殺されている。


 人間が社会に生かされているというのは説明するまでもないことだが、どんな国の人間社会でも共通して使われているのは言語である。そんなたくさんの言葉たちを私たちは会話であったり、活字であったり、音楽に乗せたりして摂取している。反対に、些細な言葉で傷ついたり、時には自分で命をたつ人もいる。つまり、私たちは言葉に生かされているし、言葉に殺されている。

留学生活で一番強く感じたのは、私は言葉に生かされたいし、言葉に殺される一生を生きたいということだ。だから、私はnote、会話、映画、詩、何でもいいからいいことも悪いことも全てを摂取して、血肉にしたい。工場でパッケージングされた一生じゃなくて、自分の血肉をフル稼働させて、目の前の人とリアルな言葉で会話して、生きる原動力を得たいし、打ちのめされたい。それこそが生きるということなのだと、留学を通して強く感じるようになった。

SNSで話題の、ミニマリストという新人類

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!/ DIO
ジョジョの奇妙な冒険


 前述したような、工場でパッケージングされた一生はSNSでよく紹介されている。代表例は、ミニマリストである。ミニマリストとは、生活に不必要なものをなるべく排除して、不必要な選択をしないという考え方の人のことを指す。確かに日本に住んでいれば、外国語なんか使わなくても、何不自由なく職を手にでき、生活することができる。無駄なことはせずに、生活に必要なものだけを揃えて、それさえすれば生きていける。

 だが、私はあえて言うと、日用品よりもジョジョ9部の方が大切だし、日本語でする綺麗な会話よりも、拙い中国語でする他愛もない話の方が大切だと思う。生活からこぼれ落ちそうな些細なことで人生は形成され、彩っていると考えるからだ。

 人生は無駄なことで形作られ、それを糧にして生きるのである。

 そう考えると、翻訳アプリで行われる無味無臭MADE IN 工場の会話より、気持ちを感じる会話がどれほど大切で、愛おしいかと言う私の理論が理解できるはずだ。私にとって言語習得とは、人生のイレギュラーであり、私の人生をより生きやすく、それでいて生きにくくするカンフル剤のようなものである。回り道ばかりで、無駄に囲まれた人生を精一杯生きていきたい。そう思えるようになっただけで、今回の6ヶ月に及ぶ留学は大収穫だったと言えるだろう。


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