第66回: How Toでなく塩梅 (Jan.2021)

 世界的な活動制限下でも例年通り、32年目として継続実施されたという「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」。インドは2010年以来、11年に渡って「長期的な有望国」として首位を堅持した。ここ数年は次点の中国に10%ptの差をつけた圧倒的な得票率だが、「長期的」には「今後10年程度」と注釈が付されているから、11年を経てもなお10年後が期待され続けるインドの魅力は圧倒的だ。日系メーカーは悠久の時が流れるインドの世界観を十分に理解している、ということだろう。

 「中期的な有望国 (今後3年程度)」については2016年以来、やはり中国と首位を競っている。最新調査では中国47.2%に対してインド45.8%と僅差の逆転負けだそうだが、市場の「現状規模」が「成長性」の期待を上回った中国に対して、インドはほぼ唯一、「成長性」のみが評価されるポイントだ。売上高・収益の「実績満足度」において、インド事業は他の国・地域の事業と比べて最下位の水準だから、ここの成長性を取り込んだ勝ち方を体得できている企業は限られているのだろう。本やネットやセミナーでHow Toを学ぼうとしたところで原理原則以上の話はない、現地での立ち居振る舞い・身のこなしは現場で試して「いい塩梅」を探るしかない。

 仕事も飲み会も「遠隔」が当然の選択肢となり、効率化により浮いた時間のどれだけが「豊かなオフライン生活」に振り向けられただろう。旅に出るどころか家を出ることすら許されず、持て余した時間はオンラインへの再投資というか浪費にしか使われず、この一連の流れが予め仕組まれていたとするなら背筋が寒い。小手先を動かすだけで止め処なく現れる文字や絵柄が誰かの意図したものばかりとすれば、ますます審美眼が問われることになる。

 JETROが公開した「インド 教育(EdTech)産業調査」によると、インドは教育システムの全面的なアップデート・アップグレードに取り組んでいる様子。これまで日本同様に満6歳からだった初等教育は満3歳からに改められ、言語と「学び方」の習得に当初の5年間が充てられる。

 時に本人の意に反して中止・断念されることの少なくない高等教育は、全国統一的な単位登録制度の導入により入学・修了時期に自由度がもたらされる。意欲ある限り事情が許すタイミングでの復学・履修継続ができる。

 最困窮層向けGovernment Schoolを除き、14歳までの義務教育でさえ「庶民」以上は私学に通うインド。EdTechは地理的・物理的格差是正のみならず、品質のバラツキ補正や現実的な選択肢の拡大にも寄与している。最低限の端末と電波が問題でないなら、本人の気概次第。地球の反対側で世界中の一流学生が集う講義さえ、道端で屋台の店番をしながら時差なく聴講できてしまう。

 政府は教育環境の整備状況を測る指標を自ら定めWebsiteで公開している。就学率や生徒対教員比、図書室整備率などに並んで、ジェンダー比率が並ぶのも「今のインド」らしい。先日、日本の研究所とのワークショップで「女性の社会進出」について質問され、IT企業や学校などでの活躍が顕著だと紹介したが、日中の街中で買い物するのは男性が大半。「庶民」の家庭に生きる女性は大家族の暮らす家で掃除・洗濯と一日三食のスパイス調合に追われ、外出の機会も限られる。1月24日の“National Girl Child Day 2021”に「過去5年で女児出生率が918から934に改善した」と報じられたくらいだから、Air IndiaがBengaluru – San Franciscoに就航させたインド史上最長の直行便が女性クルーのみで初号機を運行した、というニュースの話題性も一入なのだろう。

 地球のどこに居ても軟禁状態が続くようになり早一年。政府の指示に素直に従うべき時期もあろうが、Bengaluruの街は感染対策・リスク管理を踏まえて再始動している。週末のMicrobreweryはメニューがQRコード化され店員が手袋・マスク姿でも老若男女で溢れていた。市場の成長性が長らく期待され続けるインド、その塩梅を体得するには「日本のおじさん」ばかりでは難しい気もする。

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