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第79回: 世界最大の総選挙当日、「まつりごと」のあり方 (Apr.2024)

本日2024年4月26日(金)、当地ベンガルールはLok Sabha (インド下院議会総選挙) の投票日を迎えている。任期5年の543議席を掛けて1,351名の候補者が競っているそうだが、実質は2期10年に渡り国を率いたModi首相に対する信任投票だ。世界最大の人口14億の内、有権者は10億人弱とされ、ベンガルール市でも1,000万人超を数える。本日は予め休日に指定され、役所も企業も学校もお休みで街は静かな朝を迎えている。2日前の午後6時から投票日当日の深夜24時まではDry Dayとされ、酒屋は閉店、飲食店も酒を供さない。戒厳令 (Section 144) が敷かれ、公共の場での集会も禁止されている。

総選挙当日、と言っても当地はPhase2 = 第2期に割り振られている。10億人の有権者の投票日は州・地域により全7期に分けられ、初回の4月19日から最終第7期の6月1日に至るまで、およそ1週間おきに全国のどこかが総選挙当日を迎えている。過去1か月ほど、同僚との出張で各地を訪れた際、必ず交わされた会話は「君の州はいつ?ここはPhaseXのX月X日だよ」だった。

前回2019年の総選挙において、ベンガルール市は歴史的に低い投票率を記録したそう。当地を州都とするカルナタカ州全体は68%だったのに対して市南部は53.7%、市北部は54.3%、市郊外でも64.9%というから、都市の利便性を目途とした住民が増えると、地域への大局的・長期的な視点は失われがち、ということだろうか。気づけば売国政治家ばかり、国外勢の為の国造りがせっせと進められる極東の島国と比べるべくもなく、投票行動の重要性、低投票率に対する危機意識が強いのは印象的だ。インドや新興国を語る際に日本人が使いがちな「民度」という表現は好きではないが、むしろ投票率こそ民度の指標ではないか。現に今朝からSNSではDone Duty = 義務を果たしました!と人差し指を立ててVoting Markを見せた自撮り画像が飛び交っている。

更には篤志家の多さにも驚かされる。早朝に届いた家電量販店からのショートメッセージでは「今日から3日間、Voting Markを見せれば何でも10%割り引き。金額制限なし」とのこと。普段、「50%オフ。但し割り引き総額はRs.100まで」等といった期待は大きく、実態はさほどでも、というキャンペーン広告が多い常態からすれば、とんでもない大盤振る舞いだ。

気になって調べれば、出るわ出るわ。「暑い中、お疲れ様。投票後は生果物ジュースで喉を潤して。当店の負担です!」、「本日いっぱいDosaとコーヒーと生果物ジュースを無償提供します」、「Butter DosaとGhee Ladooと生果物ジュース無料」、「先着100名様、ハンバーガー・ドリンクセット30%オフ」、「Dry Dayが解けた明日、先着50名に地ビールを振る舞います」。全国展開する人気の居酒屋は各地で選挙の数日前からレシートに投票を呼び掛けるメッセージを印字し、投票後1週間以内に持参すれば次回20%オフの割引券を提供する。何の関係があるのか、遊園地すらも投票日から3日間は15%オフ、という。いずれも店頭でVoting Markを見せることが条件だ。

バイクタクシーの配車プラットフォームは、政府と連携して三輪車・乗用車で高齢者の投票所への送迎サービスを行うという。100都市で"VOTENOW"のコードを入れれば無料になるキャンペーンを展開し、これに携わるドライバーは10万人を超える予定とのこと。電動車専門のタクシー配車スタートアップは、午前6時から午後7時まで投票所への行き帰りは半額の料金設定。果てはLCCまでも、普段は故郷を離れて暮らす18-22歳の若者を対象に、帰省して投票を促す19%割り引きのチケットを用意するという。

"Social Goodness" に対しては殊に、我も我もと好循環が働き易い当地のノリの良さもあるが、これが本来の「まつりごと」のあり方か。参加できない外国人として目の当たりにして、改めて祖国の危機を感じた。

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