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二度三度来たくなる観光地作り①/アフターコロナの新インバウンド戦略

大分県の湯布院町湯平温泉にある小さな旅館「山城屋」が、コロナ禍を経験して見つけた大切な宝物。そして、これから益々グローバル化する観光業界の取り組むべき課題について回を分けてご紹介します。


「山奥の小さな旅館」が書いた一冊の本


 2017年7月、私は、自ら経営する「旅館山城屋」のインバウンド(訪日外国人旅行者)の取り組みについてまとめた一冊の本『山奥の小さな旅館が連日外国人客で満室になる理由』を上梓いたしました。

 旅館山城屋は、大分県の湯平温泉にある家族経営の小さな旅館です。

 湯平温泉は、昭和40年代までは「療養温泉地の西の横綱」と呼ばれる程に大変栄えた温泉地でしたが、時代の変遷と共に次第に客足は遠のき、旅館の数も最盛期の三分の一にまで減少していました。

 そうした中、当館はお客様の市場を世界に求め、インバウンドの受け入れに向けた様々な取り組みを行った結果、この鄙びた温泉地の「ただ古くて小さな旅館」が、世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の宿泊施設満足度ランキング「日本の旅館部門2017」で全国第3位となり、世界各国からのお客様が連日お越しいただくようになりました。

 このような、ごく普通の小さな家族経営の旅館が「どうしたら外国人のお客様に喜んでもらえるのか?」「どうしたら山奥の不便なところまで来てもらえるのか?」ということについて、当館の永年にわたって取り組んできた経営ノウハウを余すことなく書かせていただいたこの本は、読まれた同業者の方たちだけでなく、地域活性化に取り組む自治体や観光関係者の方々にも関心を得られ、「ちょっとお話を聞かせて下さい」と、その後全国各地より訪問される方が相次ぎました。

 更に、官公庁主催のシンポジウムやセミナーでの講演依頼などが相次ぎ、私自身も一気に忙しくなりました。

 当時の私も、我が国は「観光立国」の名のもとに、これから確実に観光客は右肩上がりに増えていくであろうと信じて疑いませんでした。

新型コロナウイルスの出現で一変


 
2020年の年明けより、突如私たちの前に現れた「新型コロナウイルス」は、そんな世の中を一変してしまいました。

「密集回避」「密閉回避」「密接回避」という通称「三密回避」の名のもとに、あれほど賑わっていた観光地はどこも閑散とし、その影響は観光業のみならず、全世界のあらゆる産業、あらゆる文化・スポーツ、日常の生活様式までに及びました。

 おかげで私の経営する旅館も宿泊客はほぼゼロの日が続くこととなりました。

 更に、国の緊急事態宣言が発令された2020年の4月から5月の2か月間は完全休業も余儀なくされました。

 旅館は「泊ってくれる人」がいて初めて成り立つ仕事ですが、そもそも、インバウンドはおろか、国内の県境を跨ぐ移動さえ自粛が叫ばれ、県内でも「三密」を避けて外出を回避する動きが日常的となる中、旅館に来る人などほとんどありませんでした。

 「コロナ禍」と呼ばれるこの世の中は、まさに戦時中のように感じられたものでした。

「コロナ禍」で見つけた3つの宝


 
完全休業となった旅館の経営者である私は、日々「今出来ることは何か?」を自分自身に問い続けていました。

 「コロナ禍」そのものは「不幸」な出来事ですが、この「不幸」は私だけのものではなく、世界中の人々と平等に「不幸」であることがせめてもの救いです。

 「不幸なのは自分だけじゃない。」そう思ったら、出来るだけ「明るく、前向きに、今出来ることは何か」を考えるようになりました。

 その結果、この長引く「コロナ禍」で、私は「3つの宝」と呼べるものを発見しました。それは、今まで気が付かなかったものや、気が付いていても日々の忙しさの中で置き去りになっていたもの、あるいは、まさに「奇跡の出会い」とでも言うべきものなどでした。

 おそらく、今回の「コロナ禍」がなければ、この先一生気づくこともなかったかも知れません。

 「コロナ」はとんでもなく私たちを不幸にしましたが、逆に「コロナ」に気づかされたれたことも多かった。そんな経験をしたのは私だけではないのではないでしょうか。

インバウンド推進協議会OITA

二度三度来たくなる観光地作り


 当館の集客が最盛期の2割程度までに落ち込んだ時に、はるばる遠方よりお越しいただき励ましていただいたのは常連のお客様たちであり、コロナが落ち着いた後に真っ先にご予約をいただいた外国人のお客様は、かつて訪れて下さったリピーターさんでした。

 私は大変ありがたく思うと共に、「アフターコロナ」の観光業にとって、最も大切なことは「二度三度来ていただく観光地作り」ではないかと考えるようになりました。

 私は、2018年4月より、地元の大分県内のインバウンドを推進する人や企業・団体と共に「インバウンド推進協議会OITA」という組織を運営し会長を務めています。

 コロナ禍の約3年間、「明けない夜はない」と信じ、仲間たちと共に来るべきインバウンド復活期へ向けて様々な取り組みを行って来ました。

 その取り組みは、長いトンネルを抜けてようやく実を結ぶ段階に差し掛かっています。

 私の著書『山奥の小さな旅館が連日外国人客で満室になる理由』の中でも書かせていただいた言葉「最高のおもてなしは安心感」は、今でも、あらゆる取り組みの指針となっています。

 お客様への「安心感」「満足感」へと変わり「リピーター」へと繋がります。

 この「リピーター」を生むための仕組み作りが最も重要なことであり、まさに持続可能な観光業の柱であると考えます。

 私がコロナ禍で見つけた「3つの宝」、そして、当協議会が取り組む「二度三度来ていただく観光地作り」について、これから回を分けてご紹介したいと考えています。

 これから訪れる「アフターコロナ」を共に生きるうえで、私たちの世界が今より安心してお互いに信頼しあえる世界であることを心から願って。

マガジン(まとめ)


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