触れない世界と弱るカラダ

仕事柄ヒトの身体に「触れる」ことが多い。むしろ触れない限り仕事の大半ができなくなるくらいです。

最近では非接触型のサービスが多く提供され、個人的にも便利だなぁ、思って利用させてもらっています。しかしながらあまりにヒトとヒトとが触れ合わなくなるとカラダが弱っていきます。その理由をざっと書いていこうかと思います。

発生学や解剖生理学

まず、『皮膚』は人体最大の感覚器官であること。そのうち、「触覚」を伝える神経繊維は他の感覚(視覚や聴覚など)よりも大きなサイズであることに注目。
神経が太い、大きい=それだけ重要な感覚、と言い換えられます。
それだけ皮膚への触れる感覚は人体的に重要であることを示唆します。

発生学的ににヒトのカラダは外胚葉・中胚葉・内胚葉の3つから筋肉や内臓などがそれぞれ作り出されます。

実は皮膚と脳は同じ外胚葉から作られています。そして、皮膚の表皮には脳の海馬(短期記憶やストレスに関連)にあるNMDA受容体という組織がありホルモン生成をしています。ということは皮膚に触れることは脳に触れるのと近いのでは?と推測できます。
ちなみに脳がない生物はいますが、皮膚のない生物はいないそうです。
皮膚→脳の順番ですね。そもそも五感全てを感じる組織として皮膚ができて、そこから単機能器官である目(視覚)、耳(聴覚)などに分化したと言われています。

皮膚って脳以上に重要な器官じゃないか?

「触れる」ことで起こる変化

面白い実験があります。

無作為に選んだ街中に歩いている人に5ピースの簡単なパズルをしてもらう。
そのピース5つの「質感」をそれぞれ「ざらざら」と「滑らか」の2種類用意。
そのパズルをしてもらった後にお金を分けるゲームをする、と言った実験。

結果は「滑らかな」パズルを行った被験者はその後のゲームでお金を協調的に分けたが、「ざらざら」パズルを行った被験者は自己中心的な分け方をした人が多かった、というもの。

また、別の実験である人の写真を見せて「この人にはどんな印象を感じますか?」という質問をする。その際、「硬い」椅子に座らせて質問する方と「柔らかい」ソファに座らせて質問する方に分けて行った。
すると、柔らかいソファに座って答えたヒトの方がその写真の人物に関して「優しい」印象を抱いた、という実験結果。

同様な実験が多々ありますが簡単にいうと『肌触りの良いものに触れていると優しくなる』です。これは無意識的に皮膚からの触覚刺激が脳に入り、脳へ刺激を与えるからです。(島皮質、という部分が身体的・心理的な温かさに関与しています)

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ちなみに手が冷たい人は心が温かい、というのは半分当たりで半分ハズレです。
手が冷たい人が温かいものに触れると温度の上昇という「変化」があります。
その物理的な温度変化の刺激が島皮質に入り、共に関与する心理的な温かさに作用するので心が温かい=他者に優しくなる。となります。

手が冷たいかどうかを判断するのは家族や恋人がその手で持って判断しますよね?その触れた直後は冷たいですが、そこから触れ合ってることで温まる「変化」を生み出すので結果「心が温まる」となります。

温めるという「変化」がポイント

ストレスホルモンの低下

カラダが弱る、と言ってもいろいろありますが分かりやすいのが「免疫力の低下」じゃないでしょうか?すぐに風邪を引くとか。

これも触れることがある程度改善が可能です。免疫力の低下の原因に「ストレスホルモン(コルチゾール)」の増加があります。
適度にストレスを与えた方がヒトは耐性がつき、強くなりますが慢性的なストレスは良くないって誰でもなんとなく分かりますよね。

これも実験で説明。

ある子ども達に大勢の前でスピーチをさせる。それはまあストレス過多ですよ。(=コルチゾール急上昇)
で、そのスピーチ前に①母親に抱きしめてもらう②母親と電話する③特に関係のない映画を見る、のグループに分けた。

スピーチ中や後は誰でもストレスホルモン(コルチゾール)の数値が高くなりますが、①の母親に抱きしめてもらったグループが一番早く30分ほどで正常値に戻った。②は1時間後、③は1時間経っても正常値よりも30%高い状態だった、という結果。

簡単にいうと「信頼のおけるヒトと触れ合うとストレスは減りやすい」ということ。そして、反対に「信頼・愛情・絆」に関連するオキシトシンは①が最も高かった、という結果も出ています。

親子の触れ合いはオキシトシンを高めて抗ストレス作用がある

ちなみに他人が触れてもそれなりに抗ストレス作用が高まると言った実験結果もあります。すなわち「人と触れる」ことがまず重要だということです。

非接触・リモート・オンラインなどなど人との繋がりに身体的要素を省く風潮がありますが、あまりに進みすぎると免疫力どころか信頼関係や親密度も減るのでむしろ健康に良くないよ、という風に思ってます。

どれだけデジタル化が進んでもヒトのカラダはしばらくはアナログですので。

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