健康寿命と持続可能性
日本は世界に冠たる長寿国として知られています。
WHOが発表した2023年世界保健統計によれば、女性の平均寿命は日本が1位で86.9歳、男性ではスイスの81.8歳に次いで日本は2位の81.5歳となっています。
また「日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命維持し、自立した生活ができる生存期間」としてWHOが2000年に提唱した健康寿命においても、日本は74.1年(2019)と2位シンガポールの73.6年を引き離し、183カ国中堂々の1位をキープしています。
しかし平均寿命と健康寿命の差を見てみると、2020年厚生労働省の発表では、女性は12.68歳、男性は9.13歳とあります。
WHOの統計では日常生活に制限のある「不健康な期間」を平均的日本人は10.2年間過ごしており、日本は不健康期間が短い方の国々から数えて33番目に位置します。
そしてこの10年間にわたる不健康期間中には、一人当たり1千万円以上の医療費がかかると見込まれています。
後期高齢者の医療費負担割合は1割で、高額療養費の自己負担額はさらに少なくなるため、不健康者個人の財布から出ていく金額はそれほど多いわけではありませんが、その分「健康な」国民にかかる負担が大きくなっているのです。
2022年度に全国の医療機関に支払われた医療費は総額46兆円で、前年度より1.8兆円増加しました。
全国の葬祭業界の市場規模に匹敵し、新聞業界の1.6兆円、ホテル業界の1.5兆円などを軽く凌ぐ規模の金額が、医療業界ではたった1年間で増加しています。
内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の見通し」によると、医療費・介護費を合わせた費用は、2025年に70.8~71.3兆円、2030年に81.6~81.9兆円、2040年には103.9~105.9兆円になると見込まれています。
2019年度に日本国の当初国家予算は初めて100兆円の大台を突破しましたが、2040年には医療費・介護費だけでもそれと同じ金額がかかると見込んでいるのです。
2025年には1947~49年生まれの「団塊の世代」が、全員75歳以上の後期高齢者になります。
800万人にものぼるこの世代の人々が後期高齢者となることで、医療や介護、年金などの需給バランスが大きく変わることになるのは、もはや避けようがありません。
一人当たりの年間医療費は、75歳未満では平均22万2000円ですが、75歳以上になれば平均93万9000円と、4倍以上に跳ね上がります。
このことから団塊世代の後期高齢者化により、国民総医療費は約8兆円増加するだろうと見込まれています。
厚生労働省は認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)で、認知症高齢者の数は2025年には700万人(5人に1人)になると想定しています。
それをケアする介護職員数についての試算では、2019年の211万人から2025年には243万人へ32万人増加させる必要があり、介護サービスの供給は今のままでは一部制限されざるを得なくなりそうだといいます。
医療・介護・年金を合わせた社会保険料率は、2025年度にはサラリーマンの年収の31%になると見込まれ、社会保障制度を支えている生産年齢層に大きな負担がのしかかっていくことになるでしょう。
日本の生産年齢人口(15~65歳)は、1995年の8,716万人をピークに減り続けており、2020年には7,509万人になりました
今後も減少傾向は続き、2025年に7,170万人、2030年に6,875万人、2040年には5,978万人と、総人口の減少率を上回るペースで減っていくと推計されています。
生産年齢層は社会全体を支えているだけでなく、自分自身やパートナーの親を直接養っている存在でもあるため、働きながら介護を行う「ビジネスケアラー」が増えています。
経済産業省「産業構造審議会」によれば、毎年10万人が介護を理由に離職しており、ビジネスケアラーによる経済損失は9兆円に上るということです。
社会保障費が増え続けるにもかかわらず、それを支える労働人口が大幅に減っていくという、社会保障制度崩壊へのカウントダウンは、もうすでに始まっているのです。
「持続可能性」という言葉がこれからの社会のキーワードとなっていくと思われますが、この先の日本は全く持続可能性が見えない社会です。
今のままのベクトルが進むとすれば、日本の国家社会は早晩立ち行かなくなってしまいます。
そして日本社会は世界の少子高齢化のトップランナーとして走っているため、世界各国の体制も日本の崩壊に続くことになる可能性が高いと予想できます。
しかし逆から見れば、日本が今陥っている状況を根本的に変えることができ、ここ数十年間国民全員が感じている閉塞性から抜け出すことができさえすれば、人類社会全体の未来を創っていくためのモデルにもなり得ます。
次回以降は、未来の社会的健康を創っていくための話をしていきましょう。
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